愛猫 ●
夢の中で、己は無力で小さく見窄らしい鼠で。
震えながら見上げているのは、ふわふわで艶々の黒猫一匹。見透かすような美しい瞳。
その前足が鼠の身体を上から押さえつけている。圧力に手足をバタつかせてもがくも、黒猫の前足からは逃れられない。それどころかもがくほど、出された黒猫の爪に身体が引っかかって、痛みを生んだ。
と、やおら黒猫が前足を退ける。鼠は慌てて逃げんとする。その体が、黒猫の前足で簡単に転がされる。それでも逃げる。逃げられない。何度も何度も、ちょいと小突かれ転がされる。終いには尻尾を踏み付けられて縫い留められて、虚しく床を掻くだけになった。
にゃあーん。黒猫は甘えるような楽しげな声で鳴く。そして鼠は理解する。これは捕食の為の狩りなどではなく、猫が鼠を玩具にしているだけなのだと。
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