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    kunya_928

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    kunya_928

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    まだ恋愛感情は持ってないけどいずれどっかのタイミングでくっつく💚と❤️‍🩹のお話の続き。
    ※解離性同一性障害の話をしてますが筆者は医療関係者ではありません
    ※💚のメンタル強め、❤️‍🩹のメンタルが弱め
    ※前回以上に呪術師に対する捏造設定有り
    ※💚に関する過去への捏造があります

    それが君への第一声「おはようございます。」
    「…は?」

    目を覚まして真っ先に映ったのがいつもの自室の天井じゃないことや、背中や頭にある感触が普段のベッドのそれとは違っていることよりも、何よりも、その一言に全ての意識を持っていかれてリアスは寝起きの若干掠れた声を素っ頓狂に引き上げた。
    目の前にはエメラルドの瞳。ぱちぱち瞬きするたびに僅かに緑がかった光を反射する黒い睫毛に縁取られた宝石はあいもかわらず恨めしいほど綺麗で、というか、本当に。

    「……なんでこんなことなってんの?」

    リアスは困惑した。目の前のミスタの友人の別人格、光ノに、おそらくこの距離感的に膝枕でもされているだろうことはわかる。けれどそれ以外いっさいわからない。そもそもなんで膝枕なんかされているのか。なんで、自分は呼び出されたのか。
    リアスが目覚めるトリガーは、ミスタが他人に暴力的な行動を取ってしまったと感じること。それ以外の例外は、少なくとも今まではなかった。だからこそ、誰かに「おはよう」なんて和やかな言葉をかけられることも一度もなかったのだが。
    のそり、妙に怠い体を持ち上げて起こす。それを特に止めることなく受け入れた光ノを他所に、リアスはぐるりと部屋を見回した。いつぞや、光ノを_正確には闇ノを連れ込んだホテルでも、ミスタの部屋でもないそこが何処だか、少なくともリアスの記憶にはなくて僅かに首を傾ける。広々とした、二階建ての家だろうか。視界に入るのはダイニングキッチンとダイニングテーブル、ダイニングと隔たりのない広々としたリビング、大型のテレビとゲーム機、そして今腰掛けているソファーベッドと光ノ。リビングの奥には扉があり、廊下が続いてるのと階段らしき角が見えた。ダイニングテーブルの椅子は五つある。1人2人で住むには広いリビングやゲーム機のコントローラーからして、もう少し多く…椅子の数でいけば5人の人間が住んでいるのだろう。5人で住むにしては、少なくとも視界に入る限りの部屋数が少ない。やはり二階建てと考えて間違いないだろうな、なんて探偵の観察力を発揮しながら見回しても、結局“どうして自分がここにいるか”はわからなかった。否、正確には全くわからないわけではないのだが、答え合わせをする必要があり、その答え合わせはできればリアスが避けたいものだった。
    ちらり、一通り部屋を見回し終えたリアスは隣でお行儀良く足を揃えて座る、光ノを見る。彼は視線に気付くと軽くこてりと首を傾げた。浮かんでいる表情は薄いが、無表情というわけではない。僅かに瞳が細められ、さぁ質問しろとでも言わんばかりのそれに、リアスは大人しく、本当に珍しくも大人しく、溜息を吐いて口を開いた。

    「何処だよ、ここ。」

    にこり、と柔和な微笑みが光ノの顔に浮かぶ。してやられた様な感覚になんとなく苛立ちを覚えるが、その苛立ちをどこかにぶつけたいという衝動は起こらない。それを少しだけ不思議に思いつつ言葉を待てば光ノもまた口を開く。

    「シェアハウスです。シュウ、ヴォックス、アイク、ルカ、そしてミスタの5人が暮らしている、今のミスタの家。」

    するり、とエメラルド色が滑り、先程のリアスの様に部屋を見回した。何処か慈しむ様な語調は、この家とそこに住む人々に向けられているのだろうか。何と無く今度は、何かに当たりたくなった。

    それにしても、だ。リアスが前回目覚めたのは闇ノと光ノの2人のシュウに会ったあとは一度しかなかった上に、その時もかなり間が空いていた為だいぶ時間の齟齬を食らったが、今回はさらに長かった様だ。引越しの算段を立てていたのは日記で見たがその時はまだ物件探しの段階で、しかも1人暮らし用のものだったことからも、5人での暮らしとなったのならだいぶ時間が経っているものと考えて間違い無いだろう。
    徐々に、自分が薄まっている実感を覚えながらリアスは改めて光ノを見た。もう一つ聞くべきことがある。

    「それで?なんで、僕は起こされたわけ?」

    リアスはトリガー無しに目覚めることはない。哀れな主人格たるミスタを守る為の防衛装置であるリアスに目覚めの権限はなく、ミスタが現実を受け入れられなくなった時のみがリアスの目覚めだった。けれど少なくとも今その様子はない。光ノ、あるいは闇ノを殴りでもしたなら話は別だが、その様子も彼を見る限りはない。
    じとり、とパライバトルマリンの瞳に睨みつけられた光ノはまた小さく微笑んでこう告げた。

    「私達が呼んだんです。」

    曰く、呪術師たるシュウ達はお互いの認識ができる上に記憶の共有もできるという。それを若干劣化はするが他人にも扱えるらしく、その一つとして内なる人格を呼び起こすという術があるらしい。何でもありかよ、と口の中で悪態を吐くリアスの心中を察したのか少しだけ唇を尖らせた光ノが「なんでもできるわけではないですからね。」と付け足した。何だかその表情が既知の友人に向けるものに見えて、妙な居心地の悪さを覚える。その顔を向けるべきは自分じゃないだろうと、言うように鼓動が煩くなった。

    「……それで?わざわざミスタ眠らせて僕を呼んで、何がしたいの?お喋りなら陽気なミスタくんとしてろよ。」

    内側の感覚を誤魔化すように目を細めながら光ノを見れば、彼は僅かに肩を竦める。それからゆっくり息を吐いて、まるでこれから秘密の話をしますよ、とでも言うように少しだけ目線をあたりに配った。

    「貴方は、このまま消えてしまいたいですか?」

    その言葉を聞いた瞬間。無意識のうちにダンッ、と強くソファーベッドの肘掛けを叩きつけていた。息を荒げ、今にも食い掛かりそうな肉食獣の様な瞳を称えるリアスに向かい、それでもなお静かに光ノは口を開く。

    「わかっていらっしゃるのでしょう、ミスタと自分の境目のことを。貴方は聡明だ。」

    こいつのこの目が嫌いだと、リアスは思う。
    どこまでも静かで、凪いだ水面のように揺れ動くことのない、瞳。確固たる意志をもつ瞳。ただのオマケ、ただの病気、ただの異常な自分とは違って、きちんと生きている者の瞳。主人格と隔たれた、もう一つの主人格とでも言うべきか。リアスには得られない、生きる者の意思ある瞳。それを羨んでしまうことが何より愚かに思えて仕方ない。その目で見られてると惨めで仕方なくなるのが何より腹立たしい。

    「…だからなんだよ。消えたくないって言ったとしたら?お前らがミスタ相手にトラウマ植え付けてくれるわけ?」

    自分の声が沸騰したお湯のような温度を孕んでいるのがわかる。 うざったくて面倒臭くて、それでも結局「消えても良い」と言えないのがわかりきってて、消えてしまいたかった。
    明らかに怒髪衝天の様子のリアスに、光ノは少し目線を伏せた。わかっていた、こう聞かれれば消えたいなど口が裂けても言えないだろうことも、それでも消えるべきだと思っているリアスが怒ることも。逆鱗にわざわざ触れる行為をしたのは理由があるが、それでも相手の神経を逆撫ですることになんの呵責もないわけではない。もう慣れてしまったからそれらは表情に現れないが、光ノはこれでもかなり心を痛めていた。

    「彼にトラウマを植え付けずとも、貴方が残る方法があります。」
    「そのお得意のジュジュツとやらで?言っとくけどな、人間の体は二つの精神をまともに抱え込めるほど頑丈じゃないんだよ。さっき自分で言ったろ、劣化したモノしか使えないって。つまりは他人に使うには限度がある、お前らみたいにきちんと個体として存在させるのは難しい術ってわけだ。それをお前らの友人である、“ミスタ”の体に施そうってのはさ、結局トラウマ植え付けるのと変わらない、ミスタの体に負荷かけようって言ってるのと同じだろうが。」

    洞察力、観察力、推察力。獣のような冷えた視線が光ノを突き刺した。間違いは殆どない。事実人の体に精神を、魂として二つとも残すなどという芸当は本来禁忌に近いものだ。リアスの嫌悪も考えも間違っていない。ただ、闇ノと光ノの行いたい事柄は“ソレ”ではなかった。
    嫌われているな、と睨みつけるリアスを眺めながら依然として静かに光ノは続ける。

    「ミスタの肉体に負荷のかからない方法があります。ただし、それを使うには貴方が望む必要がある。…この世界に生きていたいと、切に願う必要があるのですよ。」

    呪術、呪いとはそういうものだ。意志と願い、強い想いや感情。それらがやがて力を持ち世界を揺るがすほどのものとなった時、それらは“呪術”となる。闇ノや光ノが扱う、奇跡と必然の賜物。
    何故、光ノがこの説明を最初にしなかったか。単純だ。こんなことを聞いても、自らを“一人”として認識していないリアスはきっと願わないだろうから。だから先に煽るような言い方をした。どれだけ敵意を向けられるとしても、生きていたいという言外の言質を取る必要があったのだ。
    それでもやはり射殺すような視線で見つめられると息が詰まるなと、光ノは僅かに唇の端を歪める。リアスも言質を取られたのだともう気付いていた。だからこその嫌悪だろうな。なるほど、確かに冷えた視線は恐ろしい。これを前回、理由があったとはいえ向けてしまったのは申し訳ないなと思いながら表情を努めて変えずに見つめればやがてリアスはふい、とパライバトルマリンの瞳を逸らす。その先にはおそらくミスタの私物だろう毛布が丸めて置いてあった。

    「……お前は知らないだろうけど、俺はミスタにとっちゃあ“居るだけで苦痛になる存在”なんだよ。ありたくもない記憶だ。やりたくもないことだ。覚えたくない衝動だ。その全てが俺だ。…もう一回言おうか。俺をミスタに残すっていうのはつまりさ、ミスタに苦痛を味わえって言ってるのと大きく変わんないんだよ。」

    光ノが何かを言う前に彼は立ち上がる。そしてふわり、とその毛布と、そばにある白と橙が基調となったぬいぐるみを撫でた。まるで、愛おしむ様に。

    「ミスタは生まれてきてから色々な出来事でつまづいて引っかかって転んできた。長く続く友人も、何かあったときに手をひいてくれるやつもいない。俺みたいなのを作んなきゃやってらんないくらいの出来事もあった。そんな奴がやっと、安心できて、一緒に暮らす決意を持てる相手を見つけたんだぞ?それを改善と見ないわけがないだろ。不幸中の幸いにアイツは俺のことを一切知らない。俺のことに関しては病院も行ってないしな。昔からちょっと多動とか注意欠陥とか多かったしそっちで処理されちゃったんだろうなぁ、大方。」

    微笑みではない。口角が上がってるようには見えなかった。けれど、光ノの目には彼が悲しげに笑っているように見えた。兄弟を、家族をそっと看取るような微笑み。今更どうしようもないと諦めていて、でもそれを引き止めるよりは幸せを願うような、惜別と哀愁の混ざった、笑み。

    「俺がアイツの中にずっといましたってなったら、アイツどう思うと思う?なぁ、光ノ。それとも闇ノのがよく知ってる?きっと罪悪感を覚える。覚える必要のない、な。だから、いくら言質取ろうと俺がそれを自らの口で望むことはない。」

    ぬいぐるみから手を離し、しゃんと背筋を伸ばして見つめてくるリアスに、光ノは少しの間だけ固まった。窓から差し込む光はリアスの背中を照らし、その瞳は暗く濁っている。逆光に包まれた彼は今にも光に溶けて消えそうな儚さを有していて、それを拒もうともしていないように思えた。
    それを光ノの内側で見ていた闇ノは『潮時かな。』と呟いた。リアスが望まない以上、彼をこの世界に繋ぎ止めることは難しい。だから代ろう、そう光ノに呼びかけけようとした。

    ぽすん。リアスの体が逞しくも細い腕に包まれ、その顔は曝け出された首筋に埋まっていた。一瞬のことで咄嗟に動けなかったリアスは、動揺を隠せずに「は、」と声を漏らす。光ノはそれに気にせず、ぎゅう、と彼を抱きしめる腕の力を強めた。

    「な、にッ」
    「貴方は優しい。」

    鈴の音のように軽やかで澄んだ声だった。聞く者の思考を引き込むような美しく凛とした声だった。

    「ミスタを恨んで、彼を絞め殺す力を貴方は持っていた。けれどしなかった。意識から引き摺り出された時も彼を思って決して見えない場所で発散を行った。それに…貴方、人を攻撃したこと、ないのでしょう?」

    その言葉にひゅぅ、とリアスは息を呑む。けれど震えた声で、足掻いた。

    「見た、だろ。殴ればトリガーとしてフラッシュバックがくる。」
    「引き剥がすくらいならばできるでしょう。首を絞めるなら?縛り付けることも、ナイフで斬りつけることも。殴る以外にも暴行の余地はいくらでもあります。けれど、一度も…今まで貴方はして来なかった。今、私を振り払えないように。」

    ゆっくりとリアスの頬に触れていた首筋の温もりが離れる。トクトクと伝わっていた脈が遠くなっていくのが寂しいことを、もうリアスは誤魔化せなくなっていた。
    エメラルドと目が合う。まただ、と思った。あの優しい眼差し。慈愛の眼差し。決して自分に向けられる筈じゃない、家族や友を想うような瞳がリアスを捉える。その目で見られると無性に泣き出しそうで、だから見ていたくないはずなのに、まるでそういう呪いでもかけられたみたいに目が離せない。否、呪いなんかじゃないのはリアスが一番わかっていた。
    嬉しいのだ。そうして目を見てもらえることが。リアスをリアスとして見てもらえることが。

    「貴方は優しい人ですよ。解離性同一性障害、一般的に二重人格と呼ばれる病。その第二人格が主人格に対して尽くす事は絶対じゃありません。何故なら基本的には彼らもまた、自らを主人格と定義するから。むしろお互いを知らないことの方が多い。でも貴方は知った。知った上で、その立場を奪うわけでも、脅かすわけでもなく、彼を守った。…貴方がミスタを守って来なければ、きっと闇ノや他の方々がミスタに出会う前に、彼の心は壊れていたことでしょう。貴方は一人の命を守ったのです。そして、その優しさに、自分ですら気付けていないのです。」

    白い手袋を外して、負けないくらい白い指先がリアスの頬を拭った。知らぬ間に伝っていた涙を温かい体温に拭われて、リアスはどうしたらいいのかわからなくなっていた。今までそんな風に触れられたこともなければ、人前で泣いたことすらなくて、まして「優しい」なんてそんな言葉、かけられるはずもなかったのに。

    「…きっと世界の誰よりも、僕は貴方が優しいことを知っていますよ。貴方よりも、ずっと。」

    パライバトルマリンの瞳は今にも溶け落ちてしまいそうなほど大粒の涙を溢しているのに、リアスの表情は無だった。大き過ぎる、それも未知の感情に体が追いついていない、そんな雰囲気だった。
    親指で何度も涙を拭ってやりながら片方の手で背中をさする。息すらほとんど止めて、か細く開いた唇から時折引き攣った呼吸をするだけの彼に、この間あった時のように深呼吸を促しながら、ゆっくりゆっくり背中を撫でる。体温を伝わせて、窓から差し込む陽の光を塗り込むように。

    「そしてね、リアス。どうか信じてください。その優しさは、貴方だけのものですよ。」

    ぱちんっとなにかが弾けるような音がした。それまで淡々と涙を流すだけだったリアスの背中が大きく脈打って、目の前の光ノに縋り付くように、覆いかぶさる様に抱きついた。まるで、小さな子供の様だった。

    「っお、れ…!おれ、おれはッ…みぅ、たが、いなきゃいれない、…けどミスタは!あいつ、あいつのために、…っおれは、消えちゃうけど、でもそれは、みすたのためで…!」

    ぐしゃぐしゃの泣き声。嗚咽のせいで上手く喋れていないし、感情が爆発しているせいで話もめちゃくちゃだ。それでも光ノは静かに頷いた。「はい、はい」と何度も相槌を打って、優しく背中をさすり続けた。

    「でもっ、でも、…おれだけ、おれは知らない、しらないんだよ!…っきづいたら、居場所があって、みすたは、っこんなにひとに、かこ…っまれて、…!おれだけ、ずっと、いたいしくるしい!もうやだ、いやだ、やだぁ…っ!!」
    「…リアス、僕は、貴方に消えてほしくないんです。」
    「でもみすたが、…っおれだって、嫌いじゃない、きらいだけど…でも、でも…!」
    「わかってます。ね、わかっていますよ。」

    __だから、ほんの少しだけ僕をあげます。ミスタが辛くならなくて、リアスが僕と友人になる為に。

    闇ノが内側から何か言っているのが聞こえた。でもこればかりは光ノも我儘を突き通す気でいた。頑固者なのも思い切りがいいのもお互い様、闇ノと光ノの違う部分は容姿と口調、それから少し性格と、そして生い立ち故の呪術の扱いの差。光ノは闇ノよりも、呪術の扱いに長けている。自らの存在を削って、誰かの居場所を作れるくらいには。

    「だからどうか…貴方が僕を信じてくれるのなら、この腕を振り払わないでくださいね。」

    これは、リアスの願いじゃない。呪術は人の強い願いによって成立する。これは、光ノの願い。独りぼっちが寂しくて、辛くて、誰も自分を知ってくれないことへの恐怖を光ノは、人一倍知ってるつもりだったから。

    きらきらと光ノのエメラルドの瞳が輝いた。リアスは涙でぼやけた目で、それを見ていた。とても美しくて、そう、凪いだ水面の様な。森林の奥にある、動物の憩いとなる湖の様な。そんな瞳がリアスを見つめてきて、___唇が重なる。柔らかい感触と熱が離れるのと同時に、リアスは浮遊感に似たものを感じた。直感的に、自分がミスタの体から抜け出ていくのがわかる。背中に触れられたままの光ノの手の体温が遠くなっていくのが少し寂しかった。それから、自分が居なくなってミスタが大丈夫なのかと不安になった。そして、ここでミスタから切り離されることを拒むことができることも、リアスはわかっていた。
    それでも大人しく、リアスは浮遊感に身を任せる。生まれて初めて、生きていてほしいと願ってくれた人。その人の願いが叶って欲しくて、目を閉じて。

    ***

    魂だけとなったリアスに、自らの魂のカケラを混ぜ込み存在を確定させる。リアス自体はミスタありきの存在の為、こうして誰か他の核となる魂を混ぜ込む必要があるのだ。上手く混ざったそれに若干苦笑しつつひらりと近くを舞っていた式神にその魂を落とし込んだ。途端、それは大きく姿を変えていく。薄っぺらく白い紙は膨らみ、肉の色になり、皮膚を持ち、ミルクティーの様な髪と睫毛、閉じられた瞼すら鮮明になる。いきなり内側の存在を抜き取られ力を失ったミスタの肉体と、生まれたばかりで意識の馴染んでいないリアスの肉体がそれぞれ倒れそうになるのを光ノは片腕ずつで抱えて、そっとソファーへ座らせた。瓜二つの双子の様な二人のあどけない寝顔にほっと安堵の溜息を吐いた瞬間、内側からいつもより数段低い、片割れの声が響いた。

    『…光ノ。』
    「…後悔はしていませんからね。」

    自分の中の水面が揺らぐのがわかる。闇ノは怒っているのだ。光ノが、下手をすれば消えるか取り込まれるかする様な呪術を行ったことを。危ない儀式を、たった一人で勝手にやってしまったことを。

    「これは僕の我儘だったんです。リアスの幸せでも、ミスタの幸せでもない。僕が望んだのは、…」
    『君の様な存在が消えてしまわないこと、だった?』

    光ノは眉を下げて笑う。それは殆ど肯定と変わらなかった。
    かつて光ノは“存在しないもの”として扱われていた。そして闇ノの一部となった。リアスと自分を、幼い頃の、無力で孤独な自分を重ねてしまったのだ。だから、自分の存在を削るなんて馬鹿な真似をしてでも、リアスの幸せを願ってしまった。

    『……次からは僕にも手伝わせてよ、ちゃんとさ。』
    「すみません。…疲れたので、代わってもらってもいいですか?闇ノ。」
    『そのつもりだよ、まったくもう。リアスは僕らの部屋に寝かせる。ミスタはミスタの部屋に。話は僕からしておくから。』
    「お願いします。」

    どろり、と意識が溶ける。肉体の内側に潜り込む途中、不意に闇ノが「そういえば、」語りかけてきた。目を開くとまだ彼は内側にいて、そのアメジストの瞳が光ノを少しだけ嬉しそうに見つめているのがわかった。

    「君が“僕”って言ってるの、久しぶりに聞いたよ。」

    それだけ告げて外側へ向かった闇ノに指摘されて初めて、自分が思ったより熱くなってしまっていたことに気付く。
    眠りに落ちる直前に見たリアスのパライバトルマリン。朝陽の様なハイライトを混ぜ込んだ、美しいバイカラーの瞳。その目がいつか見た朝焼けによく似ていたからだろうか。彼と友人になりたいと思った。彼が欲しいと言っていたからだけではない。光ノもまた、闇ノ以外の人との関わりは薄いのだ。
    暫くは大きな呪力の消耗を回復する為に意識ごと失うだろう。次に目覚めるのがいつかもわからない。けれど目覚めた時にはきっとまた、リアスに言うつもりなのだ。彼が大きく目を見開くのが可笑しかったから、必ず。「おはようございます。」と。
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