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    にしはら

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    にしはら

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    耀玲小話。ツイのワンドロに投稿したものです。お題「好きという言葉よりキスをして」より

    #耀玲
    yewLing
    #ドラマト
    dramatist

    サウンド・オブ・サイレンス*


     声帯をふるわせ音にした瞬間から、陳腐で安っぽいものに成り下がる。鼓膜へ反響する味気なさにがっかりする。敬虔な祈りであり醜悪な劣情でもある複雑怪奇な感情の坩堝をたった二文字に埋めることなど出来っこなくて、欠如なく外界に反映させられる利便な手法だとは思えなかった。
     手と手や唇、肌を触れ合わせる方がまだ実感させられる。生まれ出る温もりは表面的な体温だけではなく、心臓の奥まで見えざる炎を灯してくれる。紫煙のように苦い感傷を押し撫でるばかりの燻る火種だった頃が、今は少し懐かしい。そうしてそろそろ短くもない時を経ているというのに、彼女は相も変わらず陳腐な音を欲しがる。
    「別に愛されてないなんて思ってませんよ。耀さんであるからこその愛情表現の行動方式なんだなって分かってますし、納得してます。でも私は私であるからこそ、言葉にも重きを置いてしまいがちで――」
     日頃の鬱憤が上手く躱せず蓄積され、所謂心がささくれだっている時。美味しくもない話題をつまみにして晩酌すること自体がストレス解消になっているのだから、そこは別に構わない。何より、片意地を張りがちな彼女の甘えを受け止める絶好の機会だ。
    「私ばっかり、好きって伝えてばかりで――でも、それは勝手に零れてくるんだから、しょうがないじゃないですか」
     仔犬がじゃれるように、はたまた猪突猛進の勢いで食らいつかんとするように、ひたむきに感情を向けてくるのが玲だった。確かに聴かされる分には随分と心地良い音の羅列。けれど己が発する分には話はちっとも違ってくる。
    「最適解とは思えないもんでねえ」
    「耀さん、へこんでいる人間にリップサービスぐらいしても罰は当たらないと思いますよ」
    「サービスなら別の方で頑張らせてもらうつもりだけど」
     腰のくびれを撫で上げれば、思いの外にべちんと強く叩かれた。酩酊の深い据わった眼でぎろりと睨んでくる。
    「そういう方向でいつも誤魔化すから頭にくるんですよ。分かってますか?」
    「ありゃま、酒乱だ」
    「耀さんの道理は分かってます。そこに一ミリでも譲歩をお願いしてもらいたいっていう私のささやかな願いという名の愚痴ぐらい聞いてもらったっていいと思うんです」
     良くない酔い方をしているなと眉をひそめた頃には、だいぶ出来上がっていた。ここが我が家で本当に良かった。覚束なく揺れる紫苑の瞳も熱っぽく染まる鎖骨の色味も、自分の眼だけに映って記憶に焼き付けば良いものなのだから。
    「回りくどい。主張は十文字以内で述べること」
     切ない吐息がかすかに上がる。静まり返る夜更けのリビングに、濃密な合図を知らしめるように。
    「好きって言ってほしい――それだけです」
    「そう――でもだめ。絶対に言ってあげない」
     細い腰を否応なく引き寄せて、今度こそこちらの方式を主張する。
    「んっ……」
     桃色の唇全てを呑み込むように吸い上げて舐る。本能的に慄く身体を腕の中に閉じ込めて、柔らかな肌を隅々まで暴いていく。
    「言わないし、聴かせてやんない。玲にだけは絶対に」
     這い回る手指に一々反応し、蒸気を上げる唇が可愛い音色を落とした。
    「い、じわる……っ」
    「褒め言葉をどうも」

     絶対に言わない、聴かせない――それが特上の特別であることを分かっているのだろうか。無論、言葉以上の重みを日頃から身に着けさせているから言わずもがなだろう。
     絡まる手指の狭間に重なり合うのは、鈍い光を放つ大小の白銀の輪。熱傷の営みの中では、深く触れ合う度に鼓動のような快音を立てている。


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    drmtファンブックにしてやられているという主張。drmtの服部さんはほんとずるい人だなって思ってます。
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    にしはら

    DONE【耀玲】いつまでもずぶ濡れになる玲ちゃんの話。ツイに上げてるものと一緒です。
    深水の残り香深水みずの残り香』



     ついてない、と感じる時はとことんついてないことばかりが雪崩れを打って押し寄せてくる。
     全身の沼に浸かり込んだような倦怠感があるのは、水気をたっぷり吸い込んだスーツのせいだろう。
     退庁時を襲ったのは突発的な土砂降りだった。夜更けにもかかわらず、一人きりで黒く濁った低天の下を力なく歩き進めていく。不用心なのは勿論承知だったが、課内は上長会議や代休取得も相まって人気もなかった。お気に入りの折り畳み傘は先日壊れたばかり。ロッカーの置き傘はビニール製故か誰かが持ち去ってしまった。
     絶対にずぶ濡れると分かってしまったら不思議と走る気にはならなくて、九段下駅へ真っ直ぐ進める筈の脚は反対方向のお堀沿いの道を選ぶ。広大な堀の中で気持ち良さそうに泳ぐ鯉も、この雨嵐の中では気配を見せない。状況としては、私も水の中を泳ぐ魚と一緒かも知れないなと雨に打たれる頭が取り留めのないことを考える。パンプスも膝下ストッキングもパンツスーツの腰周りも全部ぐしょぐしょで、浸水していないところなんかありはしない。必要最低限の荷物だけを入れたオフィスバッグだけは腕の中で死守しているが、恐らく徒労に終わるだろう。
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