Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    にしはら

    @nshr_nk

    好きなものを好きなようにかいてます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 44

    にしはら

    ☆quiet follow

    【耀玲+荒木田】『寝た子であれば起こさなかった』
    https://poipiku.com/4976035/8981112.html
    ↑の続編。何故か続いたとばっちり話。
    耀玲のとばっちりを食らう夏目くんの話。(not春玲)

    #耀玲
    yewLing
    #スタマイ
    stamae
    #ドラマト
    dramatist

    【耀玲+夏目】『鳴かざる雉でも撃たれそう』

     
    【耀さんに特定の女が出来たっぽくてさ~。掴んだ情報送ります♪】
    【夏目くんも何か知ってたら、共有ヨロシク!】
     ――いや、俺が知るわけないでしょ。夏目は携帯電話を片手に、気だるげなため息を落とした。半目で捉える傍から、菅野とのトーク画面にどうでもいい情報が次々と羅列されていく。
     それでも本日のタスクを終えた定時間際の手持ち無沙汰には、丁度良い小ネタだった。元より、菅野の突拍子もないメッセージには慣れている。
     むしろこれは、誰かに言いふらしたくてたまらないというところだろう。確かにあの大魔王が特定の彼女を作るというのは、空前前後のゴシップかもしれない。人間離れした美貌だけでも寄ってくる蝶は数知れずだろうし、隙のない仕事ぶりは当然ながら、何事も器用にやってのける男だと服部班経由だったりで聞かされているし、夏目自身も直接目の当たりにしている。
     あんな天に二物も三物も与えられた高スペック男の選んだ女性が一体誰なのか、気にならないと言えば嘘になる。
     自分の高スペックぶりを脇に置いて夏目がそう呑気に考えていれば、追加でメッセージが送られてきた。
    【秀さんが嗅ぎ回ってる感じだと、仕事の繋がりっぽいんだよね】
     同じ職場の人間か、はたまた他の省の職員か。もしかしたらエスとして繋がっている可能性もある。
     繋がりがあると言えば、うちの課にも女性として該当する人員が一人いるけれど。
     夏目がちらりと視線を向けたのは、隣の席でパソコンのキーボードを叩いている玲だ。小難しい資料とにらめっこしている表情は、いつもながら真剣だ。しかし眉間にしわが寄り過ぎて非常に愉快なことになっている。
     ――いや、ないでしょ。夏目は可能性を即刻打ち切った。
     傍目からでは良く弄ばれている様子だったが、あれは玩具を扱う方面だ。自分たちが同じく散々いじり倒しているように。
     紅一点な職場の清涼剤ではあるけれど、仲間としての意味合いが強く、女性としての扱い方を軽んじているきらいはある。
     自分だって妙齢の女性だと口では不服を言いつつも、元より気質がさっぱりしている玲は、今の扱いにさほど不満は感じていないようだった。女子力が低いのを何とかしたいと、嘆かわしそうだったが冷静に自己分析すらしている。
     それでも最近の玲の様子が変わってきているのは、薄々感じていた。具体的なものはこれと言って思い浮かばないが、言うなれば『ちょっと女の子っぽくなった?』とごくわずかに感じる程度。素直に伝える性格ではないので、胸中で留めている。
     今一度密かに横顔を見やって、あ、と少し腑に落ちた。具体的なものがあったかもしれない。最近になって、両耳を飾るピアスを変えたのだ。
     再び菅野からメッセージが送られてくる。
    【それはそれとして、今晩一緒に飲まない? 玲とか他のマトリの人たちも良かったら誘ってよ】
     一緒に送られてきた飲み屋の情報URLをタップすると、なかなか悪くない酒のラインナップが揃っている。
     早速、玲のLIMEにも同じURLを送って声をかけた。
    「玲ちゃん、菅野くんから久しぶりに飲みに誘われたんだけど、一緒に行く? 美味しそうな芋焼酎も沢山あるっぽいよ」
    「えっ、本当 どうしよう、行こうかな」
     魅惑の焼酎とあって玲は目を輝かせたが、割り込むように彼女のLIMEの着信音が鳴って、携帯画面に視線を下ろしていく。
     その際に広がる一瞬のぱっと光るような笑顔を、夏目は見逃さなかった。
     玲はすぐに返信を送ると、夏目にへらりと苦笑を向けた。
    「えーとごめん、ちょっと急用入っちゃった……。また今度誘ってくれる?」
    「ふーん。例のエア彼氏ね」
    「エアじゃないし! 実在するしきちんとした人間! ……いや、多分、人間……だよね?」
     強く主張しておきながらも途端不安そうに首を傾げるから、思わずツッコまずにはいられない。
    「……まあ、二次元の存在でも尊重すべき昨今な風潮もあるし、俺は別に気にしてないから」
    「いや、三次元にちゃんと存在するんだって……!」
     むくれた表情の玲はデスクの上を片付けると、書類入れを持って席を立った。「では、霞が関の方へお遣いに行ってそのまま直帰します」と、慌ただしく課内から飛び出していく。
     その後ろ姿を青山と今大路が微笑ましそうに見やっていた。
    「まあ、ここのところ、確かに色気づいてはきたよな」
    「最近良くつけていらっしゃるピアスは、どうやら良い人からの贈り物のようですし」
    「……へえ、そうなんですね」
     夏目は相槌を打ちながら思い返した。比較的遠目でも美しく映える三日月型のピアスは、控えめなデザインながらもなかなかの上物だと見抜いていた。大きな買い物には勇気がいるのだと、切々と語る彼女が自腹を切るものではない。
     今一度、携帯電話を見下ろした。
    【特定情報♪三日月型のピアスの持ち主】
     ――いや、ありえないでしょ、さすがに。
     現在の手元の情報だけで辿り着く推測は、いくらなんでもご都合主義で安直すぎるだろう。
     青山と今大路が捜査で外に出かけてしまうと、課内は夏目だけとなった。由井はラボに閉じこもりきりで、関は上長会議。何もなければこのまま定時で上がって菅野と落ち合うのだろうと、おもむろにパソコンのメールチェックをしていたところで。
    「お疲れ、メガネくん」
     気配なく、背後に佇まれた男に低く呼びかけられた。一瞬だけ背筋が凍ったが、首を錆びたネジのように回して何とか向き直る。
     目下のゴシップネタである桜田門の大魔王が、微笑を浮かべてそこにいた。心臓に悪すぎる登場はやめてもらいたかったが、文句は押し殺して上っ面になけなしの愛想笑いを浮かべていく。
    「お疲れ様です、服部さん。課長の関に御用でしたか? 生憎と今は課長級会議に出ておりまして……」
    「いんや、メガネくんにちょっと」
    「俺に……? ちょっと……?」
     ざわりと背筋に嫌なものが立ち昇っていく。何かしでかしたっけ。最近ウチの課とは関りがなかった筈だけど。記憶を必死に駆け巡らせていくと、目の前の冷ややかな能面がにっこりと微笑んでくる。
    「ウチの夏樹が、君に迷惑なことを吹っ掛けてないかと思ってねえ」
     なるほど、そっちだったか。違和感が消し飛んで、だいぶ頭の混乱は収まってくる。
     空前絶後のゴシップとばかりに菅野が嬉々と探っていることを、この大魔王本人が気付いていないわけがないのだ。
    「……いえ、特に俺は被害をこうむってませんので、服部さんが懸念されるようなことは何一つありませんよ。本当に、何も、全くもって」
     そして、これ以上首を突っ込むつもりは更々ない。微塵もない。今、そう固く決意した。なのでお願いだから穏便に帰ってほしい。
     夏目の祈りが天に通じたか、十七時十五分のチャイムが高らかに鳴った。帰り支度を終えていた夏目は、そそくさとすぐさま席を立つ。
    「じゃあ、定時なんで、他に御用がないなら俺はこれで失礼しますね」
     その時、服部の胸ポケットに収まる携帯電話から『迷子の迷子の子犬ちゃん~♪』と童謡が鳴り渡った。どういう着信音だと夏目が眉をひそめる傍らで、服部は画面をタップする。そして何故だかすぐにスピーカーモードに切り替える。そこから、つい先刻課内から出ていった柔らかな声が発せられた。
    『耀さん! どちらにいらっしゃるんですか?』
     ――『耀さん』? 夏目の思考が一瞬停止した。
     唖然とする夏目の隣で、服部は電話にのんびりと応じる。
    「第三合同庁舎の中だけど?」
    『え、待ち合わせは外でって言ったじゃないですか!』
    「でも、課長くんに用事があったしねえ」
     ――嘘だ、用件は俺の方ですよね。夏目は心内でツッコんだ。
    「それに、早く玲に会いたかったし」
    『も、もう……私だって会いたかったですよ。耀さんから連絡貰って、本当に嬉しかったんですから』
    「そう、俺もとっても嬉しいねえ」
    『ふふ、一緒ですね』
     ――何このありえないバカップルなやりとり。宇宙空間に飛ばされた心地の夏目は、幻聴だと思い込みたかった。
    『でも、やっぱり待ち合わせは外でお願いしますね。皆にバレちゃいますから』
    「はいはい、分かった。そんじゃいつもみたく、庁舎の裏側で」
     服部は通話を終えると、絶句している夏目を食えない微笑で見下ろした。蛇に睨まれた蛙、何故かそんな文句が頭をよぎる。
    「まあそういう感じで、うちのワンコはとっても恥ずかしがり屋でね。当分は内緒にしておかなきゃいけないんだよねえ。ま、俺は別にどっちでもいいんだけど」
     ――違う、本当は今すぐにでもバラしたい気で満々だ。
    「君はこれから夏樹と一緒に飲む約束だっけ? 男同士の気兼ねない飲み会、実に楽しそうだ」
     ――いや、その本音は、男ばっかりの飲み会に是が非でも行かせたくないってところでしょ。だから玲ちゃんを呼び出したんでしょ。直属の部下相手に、一回り年下相手に心狭すぎでしょ。
     胸中のツッコミが止まらない。声に出してはいないが、何もかも見透かされているのは気のせいだろうか。肝を冷やし続ける夏目にとどめとばかりに、深淵の読めない眼差しが愉悦に細められる。
    「うちの可愛いワンコと、大事な部下と仲良くしてくれてどうもありがと。だからこれはささやかながら、俺からの心付けってことで」
     ズシンと重くひび入るような轟音は果たして幻聴だったのか。夏目のデスクへ丁寧に置かれたのは、芋焼酎『魔王様』の一升瓶。
     ――こんな禍々しい賄賂、受け取りたくなかった。
     今しばらくの口封じと牽制を頂戴したマトリの末っ子は、【やっぱり今日はパス】と菅野にLIMEを送り返し、芋焼酎はそのまま隣の席へ譲渡するのであった。



    ----------------------------------------------------------

    まーこれアレだ。玲ちゃんがやっと皆に打ち明けようとした時に全員から「とっくに知ってる」って言われるパターンですね。
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤👏☺💘😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works