言の葉の窓「はっ……はっ……はっ……」
小さな足音がスラムの裏路地を駆け抜けてゆく。
西日を遮る建物の影の中、薄碧の瞳に濃い蒼の空が映る。
短めのしっぽと大きく広がる柔らかな耳はハイエナ属の獣人のそれだ。
その耳としっぽは小さな身体に対し不釣り合いに大きく、あどけなさを残している。
荒い息を吐く口元にちらりと見える牙は、まだ乳歯であろう柔らかな象牙色をしていた。
着ている服はボロだが丁寧に繕われ清潔で、貧しいなりに大切に育まれていることが伺えた。
西に傾いた陽は、ごみごみした路地の奥までは差し込んでこない。
昼の暑熱が和らぎ、住民たちが一息つく時間だ。
彼が目指すのは路地の奥。
8270