そろそろ結婚したらどうかと周りにせっつかれ、適当に返事をしているうちに上官の細君を譲り受けることになった。翌日、トランクひとつで屋敷にやってきた華奢で目つきの悪い女は、名をオーエンと言った。
「きみが僕の新しい旦那様?」
女にしては低めのかすれた声だった。ついでに言うと尻も胸もなさそうだった。上等なドレスを身にまとってはいるものの、どこもかしこも細くて貧相で、痩せぎすの少年だと言われた方がまだ納得できる。体に恵まれないのならせめて愛想だけでもよくすればいいものを、ミスラを見上げる瞳はまるで氷のように冷たく鋭く、女が持っているべきやわらかさや人懐っこさが欠片もなかった。
体もダメ。愛想もダメ。だから夫に捨てられたのだろうかとミスラは邪推する。オーエンの元夫、つまりミスラの上官は部下に優しく愛情深いことで有名な男だった。そんな彼が自分の妻をミスラに譲り渡すなど、よほど問題のある女だったと考えるのが自然だろう。
12186