【とある路地裏】
赤煉瓦の煤けたところを踏んで立ち止まった。
ひっそりとした場で、やけに真剣に前方を見遣る黒衣の男である。
こちらの道は人の往来も少ない様にみえる。
たまに不思議そうに、男のほうをみながら通り過ぎる奥様がたが居るのみだ。
「……。」
アルカサスは男の胸元で頬に空気をいっぱいにためながらこう思った。
―お腹が空いたのだ!
ちょっとだけはそりゃ、いわゆる相棒の友達たっての頼みであるのだからして。
アルカサスはこの男の味方してやっても良かったのだ。
神獣さまに願いを乞うのだから。
こうして付いてきてあげても優しいアルキィは怒らないのである。あるけれども。
「腹減ったアルゥ」
「……」
「あとくすぐったいアルゥ」
「……、……」
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