僕は夢を見た。
あの子が笑っている夢を。
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僕が目を覚ました時はもうお昼過ぎだった。寝過ぎちゃった。はやくごはんを食べなきゃと思って、ベッドから降りた。
遅めの朝食を済ませた僕はワープスターを呼びつけた。
今日は何となく遠出がしたかった。
ワープスターに乗りながら行くあてを考えていたらいつのまにか広い草原に着いた。
「ああ…懐かしいなぁ」
僕はそう呟いた。
そこは二年前、ある宇宙船が墜落した場所だった。
デデデ大王と僕がショートケーキの取り合いをしていた時、その宇宙船は突然現れた。宇宙船はオールやら帆やらの部品をあちこちにばらまきながら、大きな音をたてて不時着。…そういえば、あの時落としたケーキ、どうしたんだっけ。
宇宙船の中にあの子が倒れていた。僕らが様子を見ようとすると突然飛び起きたからびっくりしちゃった。あの子は慌てて画面に走り寄ってキーボードを叩いた。画面にはいっぱいばつ印が浮かんでて、あの子はすごく悲しそうな顔をして頭をがっくりさせていた。
僕、あの子のその顔見たら、何だか、いてもたってもいられなくなっちゃって、声をかけたんだ。確か、力を貸すよ!とか任せといて!みたいなことを言ったと思う。うろ覚えだけど。
その場にいた大王やワドルディ、メタナイトも一緒に行くことになって。あの子、ちょっと驚いたような顔したあと、僕の手を握ってすごく喜んでくれたっけ。そのあと四人で、部品のひとつが飛んでいったクッキーカントリーに走っていって…
「…もう二年かあ」
もう随分昔のことのような、ついこの間のことのような。
あの子は、宇宙船の名前はローア、天かける船ローアだよって、少しだけ誇らしげに話してくれた。
そういえば、あの子、画面にかじりついてたとき、ずうっと頭ぽりぽりかいてたなあ。
スフィアを集めるたびにミニゲームやコピー部屋を使わせてくれて。
あの子、ローアがなおっていくのを、まるで自分のことのように喜んでいたなあ。
ランディアのこと、すごく怖がっていたんだっけ?
僕らがランディアを倒したとき、いつのまにか外に出ていたあの子。
冠を手に取って、ねらいはこのクラウンだったんだよって言ったあの子。
状況がうまく飲みこめなくて首をかしげる僕に、なんて顔してるんだいと言ったあの子。
ローアを操って僕らに攻撃するあの子。
ウルトラソードの向こうに見たあの子。
怪物みたいな姿になったあの子。
僕の名前を呼びながら消えていった、あの子。
僕はワープスターから降りて草原に腰を下ろした。ローアがあった頃の面影は全く残っていなかった。そりゃそうだよ、だって二年も経ってるんだもん。
…どうしてあの時君は僕の名を呼んだんだろう?
許すもんかってことかなあ。
それとも、さよならって言ったのかな。
助けてくれって言いたかったのかな。
ひょっとして、ごめんねってことかな。
「…ねえ、どうして?」
もやもやする気持ちが、口から漏れた。
今日見た夢には、あの子が居た。ローアの中でキーボードを叩いてて、僕が話しかけたら振り向いてくれた。三日月みたいに目を細め、笑う君が居た。
「マホロア」
僕はあの子の名前を呼んだ。当然どこからも答えはこない。
名前を呼べば振り向いてくれたあの子はもう、いない。
「マホロア」
僕はまた話しかけた。
ねえマホロア、僕もっと話したかったよ。マホロアの旅のお話、僕の冒険の話。聞きたかったし、聞かせたかったよ?
たまには外に出なよ、身体に悪いよって言っても全然聞いてくれなくて、でもいつかプププランドの色んな景色を見せてあげようと思ってたのに。
そういえば君、いつもローアに付きっきりだから殆ど遊べなかったんだっけ。何が好きかなあ?鬼ごっこかな?それとも、かくれんぼかなあ…
「…あれ」
僕の目から、ぽろりと涙がこぼれた。…この二年間、マホロアを思って泣いたことなかった。辛くて悲しかったから、思い出さないようにしていたんだ。
一度涙が流れると、止めるのは難しくて。次々涙が溢れてきて、どんどんとまらなくなって、ついに僕は草むらにつっぷして大声で泣いた。
ねえ、マホロア。
君にとっての僕って何だったのかな?
どこからどこまでが嘘で、どこからどこまでが本当だったの?
トモダチって言ったのも嘘だったの?
僕とケンカしたひとたちのこと、ほんとにバカだよねっていってたけど、それは君もだよ。
バカだよ。あんなことしなきゃ良かったのに。
ずっと友達でいたかったのに。
「マホロア」
僕は嗚咽の中で また君を呼んだ。君が笑って、やぁカービィって言ってくれるのを望んだ。だけどそれは、叶うことはなかった。