「あ、ノボリ兄さんもう帰っちゃう?」
いそいそと黒色のトレンチコートに腕を通し事務室の時計を見上げていたノボリに、これから夜勤に入るクダリが声をかけた。
「書類もあらかた片付けたので、本日はこれで上がろうかと思います。何かありましたか?」
「うぅん。大したことがじゃ無いんだけどね、冷蔵庫の中空っぽだから、ノボリ兄さんの負担にならないなら帰り道で惣菜でも買っといて欲しいなって」
帰宅ラッシュも終わり、少し緩んだ空気の流れる室内。この時間は大抵、終電の最終点検まで書類を確認、処理するのがルーティンになっている。それはクダリも同じで、パソコンの電源を入れながらノボリにそんな細やかなお願いをした。
普段なら断ることでは無いが。
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