「はっ、は、………っあ、はぁっ!」
荒く息を吐きながら、必死の思いで夜道を駆ける。走りっぱなしの足に感覚はなく、強張った指先は死体のようだ。
それでも、足を止めるわけにはいかない。止めたら本当に死んでしまう。ちらりと後ろを振り返って白濁した化け物の目と目が合って、自分の愚行を後悔した。心が先に折れそうだ。
初めて幽霊や化け物の姿が見えるようになったのは、七歳くらいのことだったと思う。七五三の帰り道、縁日のように賑わう雑踏の中で、昏い人影に透き通った人影、はたまた人の形をしていない何かの姿を見たのだ。お母さんあれは何?と聞いたら、知らない人を指さしちゃダメと怒られて、子どもながらに納得がいかなかったことを覚えている。あの時指した影は間違いなく人ではない何かだったから。
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