昼下がりの午後の出来事今日の依頼は浮気調査。
正直少しくだらないとは思うが例えどんな小さな事でも最後までやり遂げるのがアニキだ。そんな所がまたカッコよくてオレの憧れだった。それに、アニキがオレを信頼して任せてくれた仕事を適当に済ますなんて事はあり得ない。
きっちりとやり遂げて事務所に向かう。きっとアニキは褒めてくれるだろう、頭を撫でてくれる所を想像しながら事務所の戸を勢いよく開ける。
「ただいま戻りましたっス!」
いつもならここで「うるさい」とアニキに言われるのだが、不思議なことに事務所は静かだった。
「おっかしいな…今日は事務所に居るって言ってたんだけどな」
どこか出かけたのかと思い部屋の中をキョロキョロと見回し、ふとソファーを見るとそこには横たわってスリープしているアニキの姿があった。
「珍しい…こんなところでスリープしてるなんて」
ここ最近、立て続けに依頼をこなしていてまともに充電できていないことを思い出す。起こさないように近づき、ソファーのそばでしゃがむ。眉間に皺が寄ってる。
(オレがもう少し、アニキの役に立てるようになれば負担も減らせられるのに…)
せめてスリープしている時ぐらいはこの皺も消せるようになりたい。そう思いながら顔に少し触れる。
ふと、そういえばこれからドクターが来ることを思い出す。時間を確認すると約束の時間まで約三十分。時間に厳しいアニキの事だからきっと間に合うように起きる設定はしてあると思う。だが念の為、心苦しけどここは起こしておくべきだろう。
「アニキ!そろそろドクターが来る時間っス!」
「ん……」
緩く体を揺すりながら起こすと瞳が少し開き、目が合った。
「お休みな所すんません!ドクターがそろそろ来るんで、アニキはソファーで寝ている所を見られたくないかなと思いまして……っわ!?」
話している途中で腕を掴まれて引き寄せられ、いきなりの事だったのでバランスを崩し、アニキの上に覆いかぶさる形になってしまった。
「!?すっすんませんアニキ!すぐ退くっス…わぷっ!」
「うるせぇ。静かにしていろ」
腕を掴まれた方の手で頭を押さえつけられ、もう片方の手で体をがっちりと掴まれて身動きが取れない。
アニキの普段からは考えられない、予想外の行動に電子頭脳の処理能力がうまく働かず、エラー吐いて停止しそうだ。だけど、この状態を人に見られるのはまずい。このままではドクターが来てしまうし、それに朝から買い物に出かけてるキオもいつ帰ってくるか分からない。
(なんとかしてアニキの上から退かねぇとそれにしても腕を掴んで引き寄せてからの行動が素早くてアニキはやっぱ流石っス…!って今は感心している場合じゃねぇ!)
などと思考を巡らせてしまっていたせいで大した事も出来ず、今は開いてほしくない扉の開く音が事務所に響く。
「ただいまー。いや〜すぐそこでドクターと一緒になってさ〜……」
「お邪魔しまーす……」
お互い、目が合って。お互い、時が止まる。
何か言わないと、と思うのに何も思い浮かばず、固まっていると最初に沈黙を破ったのはドクターだった。
「お、お邪魔しました〜…」
「待て待て待て!!絶対勘違いしてるだろ!!」
扉を閉めて帰ろうとするドクターに弁明したくても動けないオレを、キオはニヤニヤしながら見ていた。こいつぜってぇ分かってやがる。
「ロージー。いくらボーラさんが大好きとは言え、寝込みを襲うのは良くないと思うなー?」
「はぁ!?ちっ、ちげーし!!てかその顔やめろ!!」
「……………チッ……ピーピー騒ぐな。うるせぇ」
アニキの上に乗っているという事を失念して騒いでいたら、アニキが不機嫌そうに眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
「あっ、うるさくして、すんませ…ぅわっ!!」
体を押さえつけられた状態でアニキが、そのまま寝返りをしたのでソファーの奥へと追いやられてしまった。
それを見て仲良しですねとか暢気な声で言うドクターと、珍しいと笑うキオ。
「暢気に笑ってんじゃねぇーー!!」
怒号が事務所に響き、また叱られる。そんな昼下がりの午後の出来事。