過去話(アールver.)※ハルピアと合わせて読むともっとわかりやすいよ!
アールはハルと同郷。なので、アールの家は弱小魔術師の家系でありながら、不死鳥信仰の教徒でもあった(ちなみに創造魔法の家)。魔術師としての歴史は浅い。何代か前にこの地域に来て、教徒になった。
アールの家族は「普通」だった。カルト宗教が浸透している地域に住んでいる癖に、めちゃくちゃ普通。宗教との関わりも日本の仏教並で、宗教に盲目という訳ではない。ヤバい地域で普通でいられるヤバさのある家族。そこまで波風立てた訳でもなく、信仰心もあったので特に異端者扱いはされなかった。目立たない家だったと言える。
そこで生まれたのがアール。禍の星の存在は産まれる前に占星術で占われ、親に伝えられる。両親はそれはもうこの世の終わりかのように悲しんだ。当たり前だ。自分たちの子供は20歳までに必ず死んでしまうのだから。だけど、彼らはアールの親である。割とすぐ立ち直った。「短い生なら一生分愛せばいい」と前を向くようになる。ちなみに近所からは「やっぱりあそこの家は信仰心が薄かったから禍星に選ばれたんだ」みたいなことを囁かれたりもした。なお言われてても普通に過ごしていた。両親も変人だったと言える。
そして、アールが生まれ、5歳の頃に自分が禍の星だと伝えられる。なぜそんなに早いのかと言うと、儀式があるからというのもあるが、早く伝えた方がその分後悔なく生きられるだろう、という両親の考えから。アールはそこそこショックを受けたが、あっさり受け入れた。泣くこともなかったし、悲しそうな顔すらしなかった。寧ろ「それなら楽しく生きよう」と思ったらしい。短命の運命を知っても普通でいられる彼。両親の考えと噛み合った瞬間である。
それから彼は、周りから可哀想だねとか散々言われたけど、本人はどうして?と思ってた。彼からすると寿命が短いのが当たり前なので。今生きてるんだからいいのでは?結局みんな寿命違うんだし。の精神。割と何を言われてもダメージはなかった。
7歳。年の暮れ。教団の司教様がアールの望みを聞きに家に来る日。前々から何を言うか考えておきなさい、と言われていたが、アールには叶えて欲しい願いなどなかった。なにせ今が幸せだったので。何もないって言うのも忍びないし、適当に何か言おうかな…、と思っていると、玄関の扉が開く。
そこには天使がいた。天使でなければ女神だった。さらさらとした長い髪と、氷のように鋭く綺麗な瞳。きめ細かな肌と端正な顔立ち。真っ白な宗教服も相まって、この世のものではないように見える。アールはその子を見た瞬間、生を捨てた。ついにお迎えが来たのだと思った。死ぬなら今がいいとさえ。彼には自分と同い年くらいの子供が、そこまで美しく映った。まるで木の葉が落ちるように、すんなりと生を手放したのだ。
「僕は何もいりません。今が幸せで満ち足りているのでこれで十分です。楽しく生きて、自由でいられれば、これ以上望むものはありません。」
気づけば彼は正直に答えていた。そうするべきだと思った。嘘をつくのが嫌だった。祈りを捧げたかった。
彼は神に祈った訳でも、不死鳥に祈った訳でも、“司教様”に祈った訳でもない。ただ、目の前の雪のような天使に祈ったのだ。後にアールはこの時のことを初恋と語り、「この子に看取って欲しいと思った」とハルピアに話す。
それから。あれよあれよと天使もといハルピアの居候が決まり、共同生活を送ることになる。最中、自分の立場やアールのことについてちょっかいを出されたハルが村の子供をボコボコにしたり(この時初恋が覚めた)、司教様呼びからハル呼びになったり、料理を一緒に作ったり、色々なことがあった。彼と話す内に、最初はかなり猫かぶってたんだなー、と思い至る。
そして、アールはせっかくなら魔法学校に通いたい、と両親に話し、ハルもそれに着いてくる形で今に至る。