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    越後(echigo)

    腐女子。20↑。銀魂の山崎が推し。CPはbnym。見るのは雑食。
    こことpixivに作品を置いてます。更新頻度と量はポイピク>pixiv

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    越後(echigo)

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    或監察しりーず。あるこせがれのとおまわり。山崎と金さん。やっぱり山崎に夢を見ている。でも山崎の出番が少ない。

    ##或監察
    ##小説

    或小倅の遠回り 日照る夏のこと、ひとりの男が工具箱を片手にかぶき町を歩いていた。ブルーの作業着に、同じ色のキャップを深く被っている。わずかに見える髪色は、陽の光を受け輝く金。鮮やかな碧眼に、端正な顔立ち。この炎天下に歪むこともなく、汗のひとつもかいていない――機械からくり・坂田金時は住まいである源外庵を出て、万事屋へと向かっていた。
     テレビが付かなくなったと、天パ侍が平賀源外へ修理依頼をよこしてきたのだ。しかも物臭な面々は、台にしっかりと設置してあるテレビを取り外すことは早々と諦めており、源外に来るように要求した。年寄りを炎天下に歩かせんじゃねえよ、ともっともなことを言った爺に、受話器の向こう側の奴が何やらごねたらしい。普段から行儀が良いとはいえない爺さんは、しまいにはうるせえ! と受話器を叩きつけていた。ソファに腰掛け、手元の玩具を修理しながら一部始終を見ていた金時が、くくっと喉を鳴らす。
    「そいつ、壊れちまうぞ爺さん」
    「ふん、そんなヤワなやつにゃ作ってねえよ」
     俺が作ってんだぞ。江戸一番の機械技師は当然とばかりの口調で吐き捨てて、どすどすと金時に近づいてきた。ソファの向かいにどっかと座ると、鼻をほじるなり口を開ける。
    「金の字、テメェが行けや」
    「は?」
     目を丸くする金時の前で、鼻くそをピンとはじいて、にかっと源外は笑った。
    「あいつらのテレビくれぇ、テメーにとっちゃお茶の子さいさいよ」
     すきっ歯でカッカッカと大笑し、冷めた茶をあおる。
    「爺さん」
    「なんだぁ金の字」
     直った玩具を置いて、金時はうすく笑った。
    「……いーや、なんでもねえ。行ってくるよ」
    すまねえな、と小さくつぶやく。源外は聞こえないふりをしてくれた。
     自身の起こしたあの事件以来、銀時をはじめとする万事屋の面々と金時は顔をあわせていなかった。許されたとはいえ、罪が雪がれたとは思えなかった。しかし、そのままではいけないと思っていた。今の自分は、かぶき町の住人として生活している。世間に対して隠れ住んでいる身でこそあるが、自身のまずい部分に目を背けて『生き続ける』ような恥ずかしい真似はできない。
     電脳にじんわりと熱がこもっている気がする。これが人間でいう緊張というやつだろうな、と金時は自嘲気味に笑った。

     大通りに、検問が設けてあった。帯刀した黒服の男たちが多勢、道路を埋めるようにしている。警笛の甲高い音が通行人をとどまらせていた。金時は離れた場所で立ち止まると、ルート計算をし直し、その場をはなれようと試みる。自分の起こした事件については大部分の人間にとって『なかったこと』になっているが、世話になっている平賀源外は指名手配の身だ。警察に関わり合いになることは避けたかった。特に対テロ特別警察・真選組ともなれば。
    「あ、お兄さん。ちょっとちょっと」
     ビルとビルの隙間の裏路地に足を進めようとしたとき、呼び止められた。金時が振り返ると、小柄で地味な黒服が筆記具を手に、そこにいる。先ほどまではたしかにセンサーに反応はなかった。青い目を訝しげに細める金時に、へらりと小男は笑いかけた。
    「すいませんねー。今このあたりでテロリストが出没しまして、ちょっとだけお時間ください」
     警察は頭をかきながら申し訳無さそうにはしている。検問と言っても任意の協力というやつだろう。しかし、断れば何かしらの疑惑を与えかねない。
    「ああ、いいぜ」
     金時は踏み込みかけた足を大通りに戻し、男と向き合った。キャップを取ると金色の髪がさらりとこぼれる。彼は非合法の存在ゆえに、面が割れていることはない。抱える事情こそ大きいが、話しただけで伝わるはずもないことだった。
    「お兄さん、お仕事ですか?」
    「ああ」
    「どちらまで」
    「万事屋通りだ」
     嘘は言っていない。言葉になぜか男はぴくりと眉を動かしたが、金時の顔は涼しいままだった。警察は続ける。
    「失礼ですがお仕事は」
    「電気修理だよ」
     金時は工具箱を持ち上げて答える。お疲れ様ですと男は述べて軽く頭を下げた。
    「ご協力ありがとうございます。すいませんが、しばらく検問が続きそうでして。お帰りの際は別の道がいいかと」
    「ああ、そうするよ。アンタもお疲れさん」
     金時は軽く手を上げ、キャップをかぶりなおす。元の検問場所――大通りの真ん中へ向かうあいだ、隣に男もついてきた。
    「忙しいことだね」
    「最近はひったくりも多いし、何かと物騒ですからね。すいません」
     あははと苦笑する姿に目は向けないまま、へえと金時は気のない返答をする。思わぬところで時間を取ってしまった。兄弟に難癖つけられなければいいのだが。そんなことを心中でぼやいていたとき、後方から悲鳴があがる。
    「ひったくり!」
     甲高い女の声だ。ふりむいた金時の視覚映像に、裏路地に駆け込む男、倒れた老人、老人をかばうようにした女性の三人が映る。その刹那に、金時は工具箱を男に押し付けて走っていた。

     ひったくりにとっては勝手知ったる裏路地は、知らぬ者にとっての魔宮。天人によって乱暴に開発された、縦横無尽に走る迷路だ。駆け込み、角を二、三度曲がれば警察と言えど追いつけるものはいない――はずだった。
     しかし今、彼は息を切らし、通りを曲がっても曲がっても走りをやめることができなかった。怯えた目で後ろを振り返ろうとしたひったくりはゴミに足をひっかけて転び、腕をついてころがる。奪ったバッグを手に立ち上がる前に、目の前には作業服の男がいた。
    「お、お前なにモンだ!?」
    「へえ、俺のことを知らねえとはな」
     汗ひとつない涼しげな顔で、爽やかな声で男は名乗った。
    「直し屋、金さんだ」
     色男は怯えるひったくりを見下ろすと、不敵な笑みを浮かべる。
    「さっさとそのバッグ、こちらに渡して大人しくしろ。そうすりゃ悪いようにはしねえよ」
     一歩を出せば、小さく悲鳴をあげて犯人はひとつ後ずさる。
    「な、なんだよお前……ここまで着いてこられるやつがいるわけ」
    「お前さんの世界が狭えだけさ」
     往生際の悪い男に、金時は呆れたように肩をすくめる。押し問答を長々と続けるつもりはない。さっさとバッグを回収し、男を気絶でもさせれば良いかと足を踏み出す。
    「い、いやちげえな。お前、もしかして」
     何かを確信したかのように口を歪める男に、金時の身体が止まった。目がゆらぐ。いや、知っているわけがない。自分の罪は、知られなくなってしまったのだ。思い直してあらためて身体を前に出す前に、金時の背中に衝撃が走った。
     見下ろすと背から腹にかけて、刀が貫通していた。いつのまにか後ろ側に男の仲間がまわりこんでいたのだ。作業着がかたむいて、青いキャップが地に落ちる。
    「くくっ、一人と思って油断したか」
    「へっ、この野郎!」
     尻もちをついていた犯人は、悪態をついて立ち上がる。そのまま倒れ込んだ金髪に蹴りをくわえようと足を振り上げ
    「ひ、ひいっ!」
     足首を掴まれた。にいっと口端をあげた金時が、つかんだまま一気に立ち上がる。バッグを持った男が入れ替わりに倒れ、刀を持った男から悲鳴があがった。
    「ば、バケモン……」
    「悪ぃな。ハズレだ」
     金時は手をはなして首をまわすと、倒れた男の腹を踏む。カエルのつぶれた声をバックに飄々と口を開いた。
    「ただの機械からくりだよ」
     腹からはコードがはみ出し、火花が散っていた。刀を持った男は二度目の悲鳴をあげると、すばやく踵を返す。金時は舌打ちすると、念のためもう一度カエルもどきを踏んづけた。のびたカエルを置き去りに、ふたたび走らんとしたところで、
    「かーっくほ!」
     頭上から、声とともに黒いものが男をつぶした。金時が目をまたたかせる。それは男を高所から蹴り倒したあと、ぴょん、と身軽におりる。おっと、とついでとばかりに刀を蹴飛ばした。
    「はー、追いづらいところに来ちゃって、まあ。でも二人まとめてっていうのは助かりますよ」
     そんなにありがたくは思ってなさそうな軽い口調で、検問にいた地味な男が笑っていた。手には押し付けた工具箱を持っている。あのままどうやってかは知らないが、屋根でも走ってきたらしい。
     今度は金時がうろたえる番だった。手で腹をおさえ、後ずさりをする。どこから見られていたのかわからないが、自分の素性が真選組にバレるのはまずい。以前、人型機械からくり家政婦が起こした反乱事件から、複雑な電脳を搭載した同型類は一斉に処分された。かぶき町の顔役たるお登勢の庇護下にあるたまは例外として、指名手配犯の作成した人型機械――厳密にはプラモなのだが――の自分は、公に出てはまずい存在なのだ。
     下手を打てば、爺さんに迷惑がかかる。
     ぐっ、と金時は歯を噛み締めた。目の前の男にどう対処するか、最高クラスの電脳が計算式を並べていくつもの予想を立てる。自分の洗脳装置はなくなっている。逃げる。誤魔化す。賄賂等の取引を持ちかける。気絶させる。――殺す。
     そのすべてを、金時は否定した。ふう、と息をついたあとに手をはなす。警察は金時の動きには、とくに反応を返さなかった。ただ、金時の静かな目に静かな目を返したあと、ふ、と笑みを浮かべる。
    「ご協力、ありがとうございます。あ、これ」
    「……あ、ああ。……ありがとよ」
     頭を下げながら工具箱を差し出した。金時は受け取りながらも、予想外の行動に電脳がうまく働かなかった。何をどこまで知っているのかどころではなく、何を考え――企んでいるのか。計算ができない。いや、ひとつだけ可能性がある。それを追求するのはこちらの利益になり得ると計算し、金時は相手を見据えて口を開く。
    「アンタ……」
    「あ、俺はこういうもんです」
     さっき見せ忘れちゃいまして、とへらへらしながら男は警察手帳を開く。
    「――ニセモノじゃないですよ」
     静かな口調だった。金時の顔が驚きに染まる。だったら、何故。と声に出す前に、男――山崎退は手帳を懐にしまいながら、ゆっくりした口調で語った。
    「どっかの店に看板機械からくりがいるなんて、かぶき町じゃ珍しくないですからね」
     どこかの誰かを思い出しでもしたのか、懐かしげだった。つづけて、金時の腹を指すと苦笑する。
    「それ、不安の種にならないうちに戻ってあげてください。ここは俺がなんとかしときますよ」
    「……ありがとよ、お巡りさん」
     金時は頭を深く下げる。工具箱をおろしてキャップを拾い、作業着の上を脱ぐと腰巻きにして穴を隠す。工具箱を抱えなおすと、裏路地を足早に立ち去った。
     さて、と山崎は息をついて、事後処理をはじめることにする。ふと空を見上げると、元気かなあ。会いに行きたいなあ。とだけぼやいた。

    ◇◇◇

    「ぎーんちゃん! まだテレビ直らないアルか!? 渡鬼総集編がはじまってしまうヨ!!」
    「うっせーなガタガタ言ってんじゃねーよ! 俺だって結野アナが出る特番がはじまっちまうんだよ。あのクソジジイ! 何度かけても出やしねえ! チックショー!!」
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