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    越後(echigo)

    腐女子。20↑。銀魂の山崎が推し。CPはbnym。見るのは雑食。
    こことpixivに作品を置いてます。更新頻度と量はポイピク>pixiv

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    越後(echigo)

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    或監察シリーズ。あるさいりょうのありよう。モブがすごく出ます。

    ##或監察
    ##小説

    或裁量の有様 真選組屯所に人が集っていた。大半は騒ぎを聞き付けた野次馬である。
     人だかりの中心には、怒鳴りちらす二の腕に墨の入った男がいた。門前で一人の隊士に食ってかかっている。その「いかにも」な風体は、肩をいからせながら唾を飛ばした。
    「おいおい一体どうしてくれんだよあァ!? おたくのせいで、うちの娘は歩くことばかりか立つこともままならなくなっちまったんだ!」
    「ですからそれについては、一昨日の相談のもと、相応の」
     低姿勢で丁寧に応対する隊士の言い分にかぶせて、男はずいと身体を乗り出す。
    「あれっぽちの謝罪だのカネでこっちを丸めこもうたってそうはいかねえんだよ! お上とはいえ、人の情ってもんがあるならもう少し考えるもんだろォ?」
    「相談でしたら、また日を改めまして」
     身体を突き出す男の分、隊士は身を縮める。そこに今にも掴みかかりそうな勢いで、男が手を空に振るう。
    「テメーじゃ話にならねえ! 上出せェ! 上をよォ!」
    「そういうわけには、今日のところは何とか」
     ほとほと困り果てた顔の隊士が、平身低頭の姿勢をとる。しかし、男の勢いは止まらない。
    「舐めてんじゃねーぞ? アーン?」
     強面を近づけて低い声で凄みを聞かせたところに、声が割って入った。
    「すいませんねえ、ちょっと出てたもんで」
     人垣がざわつき、自然と左右に分かれる。咥え煙草の隊長服が悠々と前に出た。
    「俺が上司です。何のご用件で?」
     眼力をひたと男に据え、冷静に尋ねる。相手はぐ、と一瞬ひるんだものの、墨を前に出すようにして、おうおうと声を上げた。
    「先ンことだ、テメーらのせいで俺の娘が入院しちまってよォ。それでカネが入り用なんだよ。鬼の副長さんよォ」
    「……山崎」
     はいよ、と、先ほどまで食ってかかられていた隊士が返答する。
    「安五郎さん、その件につきましては先だって勘定方とお約束しました通りにいたしますので」
    「テメーにゃ聞いてねえんだよ!」
     山崎と呼ばれた隊士は男が恫喝すると、びくりと身体を震わせた。鬼の副長――土方十四郎は、一度煙草を口から放して紫煙を吐いた。
    「悪いが、その件については勘定方に任せてある。まだ話したいというのなら、日を改めて場を設けさせよう。……山崎、話聞いとけ」
    「はいよ」
    「おい!!」
     怒鳴り声を背に、土方はすたすたと門を通り抜ける。慌てた安五郎が後に続こうとする眼前に、山崎が立ちはだかった。
    「ですから、安五郎さ」
    「うるせえ!」
     安五郎が小柄な身体を押しのけると、山崎は尻餅をついた。いてて、と尻をさする姿を見た安五郎は舌打ちをして、踵を返しはじめた。どよめく野次馬に、退け! と怒鳴ると、大股で走り去る。
     ざわざわからひそひそ話に切り替わるなか、山崎の姿はいつのまにか消えていた。

    「おい山崎」
    「ハイ」
    「ありゃ一体どういうことだ?」
    「まあ……クレーム、ですかね」
     目を正面から地味にそらしながら、副長室で正座する山崎は答えた。先ほどの安五郎の件だ。こちらがわざと倒れてみせることで今日のところは逃げてもらったが、また来るのは間違いないだろう。
    「さっさと処理しろ。ああいうのをいつまでも屯所前でやられてみろ。笑いものになるだけじゃなく、俺たちを嫌ってる連中からしたら格好の餌だろうが」
     ぴくぴくとこめかみを震わせながら、地を這う声で命令を下す。山崎は内心、簡単に言ってくれるよな、と思った。
    「おい、何か文句あんのか」
    「ありません!」
     瞬間、見抜かれて背筋を伸ばす。ったく、という声以外は幸い叱責はなく、仕事の話を進めることができた。
     挨拶の後に部屋を出た山崎は、しばらく廊下を進んでからため息をつく。午後の日はまだ高い。

    ◇◇◇

     大江戸病院の一室にて、少女は数え唄にあわせてお手玉をする。ひい、ふう、みい、よ。お手玉たちは唄にあわせて生き物のように少女の手から手へ跳ね回り、唄の終わりには仲良く片手におさまった。それにあわせて、ぱちぱちと拍手が鳴る。
    「うまいね」
    「ありがとう、おじさん」
    「おじっ……まあ、おじさんかあ……」
     ベッドの横の椅子に座ってガクリと肩を落としたのは、山崎だった。私服の出で立ちで髪を縛っている。
    「おじさん?」
    「あ、はい。おじさんです……」
     首を傾げた少女に肯定する。はは、と平坦な笑いが声に出ていた。
    「変なの」
     くすくすと少女は笑いながら、傍机の上にある紙箱にお手玉をしまい込んだ。中にはチラシで作ったらしい折り紙作品が並んでいる。どれも子供の手によるものにしては上等で、なかなか複雑な作りのものもあった。山崎は目を細める。
    「器用なんだね」
    「折り紙も、針も、寺子屋では一番だったんだよ」
     自慢げな少女の指はあかぎれとささくれにまみれ、関節が際立っていた。今着ているのは入院着だが、箪笥の上に出してある替着はつぎを何度当てたのだろう。まだらな色はどれも褪せていた。
    「……治ったら、また寺子屋に行くのかい?」
     少女は困った顔で首を振る。
    「寺子屋は、まだ行けないの。それに……」
    「……それに?」
    「治るの、嫌だな……」
     ぽつりと少女がこぼす言葉に山崎は驚きもせず、ただ、うん、と頷いた。
    「治ったら、帰らなきゃいけないもの」

     少女――安五郎の娘、おすみは運悪く、町中で発生した捕物に巻き込まれた。さらに、攘夷浪士が持ち込んでいた毒ガスをばらまく騒ぎになり、吸い込んでしまったのだ。おすみの他にも町人に軽症数名が発生する大事件になった。
     おすみは毒ガスを吸い込んだ量と体格が問題で、一時期昏睡に陥った。幸い、翌日に意識を回復し、発声や思考に障害が見られないとして一般病棟にうつった。
     今は足にしびれがあり、思うように動かせない。しかし、診断によればすぐに痺れも取れてリハビリをすれば退院できるらしい。もちろん、そこまでの負担額は真選組がもつし、相応の慰謝料を支払うということで一度は話がまとまっている。安五郎と勘定方が最初に話したときには、それで終わっていたのだ。
     だが、少女の退院の目処がついてから安五郎がいきなり屯所に押しかけた。そして追加の慰謝料をせびりはじめたのだ。門番の隊士と一触即発の危機に陥りそうになったところに山崎が通りがかり、相手をしていた。それが病院に訪れる前のことである。
     山崎は、自分は入院中の友達が他の部屋にいて見舞いに来たのだと偽り、おすみと接触した。退屈でしょうがないという顔をしていたおすみは簡単に信じ込むと、歓迎した。父親が前に買ってくれたのだというお手玉を操り、褒められて上機嫌だ。

    「――帰ったら、何かあるのかい?」
     おすみはうつむいた。小さく首を振る。
    「帰っても、何もないの」

    ◇◇◇

     安五郎は長屋に帰ると、居室で途中買い求めたカップ酒を煽った。ひさびさに顔を見た住人どもは、そろって自室に引っ込んだ。しかし、薄い壁の向こうからひそひそ話を始めている。内容は聞こえないが、わかっていた。強めに舌打ちをすると、静かになった。それにますます苛立って、安五郎は空のカップを壁に投げつける。薄い壁に派手ながら中身のない音がした。静まった長屋と床に転がるカップを置いて、安五郎は外に出た。
     赤い顔で肩を怒らせながら、安五郎は河川敷まで歩いた。道路の先に石を蹴り飛ばす。
     ――何もかもにケチがつく。
     安五郎は腕の良い大工だった。若くして妻をなくし、ひとりでにおすみを育てるのは大変だったが、成長を見ながら仕事をするのは幸せでもあった。
     ある日、全てが壊れた。
     百貨店になるというビルディングの建築主は天人で、最初見たときからいけ好かないものを感じた。が、金払いがいいことから仕事を受けた。
     おすみもこれから何かと入用になる。大金が入ったら一度、大きな遊園地にでも連れて行ってやろう。美味いものを食べるのも良いし、きれいな服を仕立ててやるのも良い。母親がいない分、二倍の幸せを与えてやりたかった。
     天人の指示に危ういものを感じて指摘すると、驚くことを言われた。多くの地球人客が通るであろう渡り廊下に、安い建材を使いスカスカの土台を作れというのだ。それでは、客たちの重量に耐えきれず倒壊してしまう。安五郎は、建築主の天人に必死に訴えた。天人はうるさそうな顔をしただけだった。黙っていた仲介人に安五郎を押し付け、その場を去る。
     地球人である仲介人に聞きただそうとすると、先ほどまでとはガラリと形相を変えた。逆らうな、と恫喝し、このことをバラせば首にする。あの方の力ならばお前もお前の家族もただではすまないと脅迫をした。その場ではおすみの顔がちらつき、こらえたものの、安五郎には我慢がならなかった。
     現場には指示を伝えず、自身の設計のもとに安全な廊下を作り上げた。仲介人は激怒した。食ってかかる男に安五郎は拳で応え、その場を去った。
     仕事はなくなった。方々を巡り頭を下げた。しかし、昔なじみすら安五郎を敬遠し、ときにはもう来てくれるなと懇願された。日雇いを探し、なんとか親子二人の食い扶持だけは稼いだ。寺子屋の月謝も払えず、親しんだ借家を捨てて破れ長屋に越した。訳を知らないはずのおすみは健気に家のことを手伝って、文句の一つも言わなかった。何もできず、何も話せない。情けなさに、酒の量が増えた。言葉と態度が荒くなった。
     そしてとうとうある日、話しかけてきたおすみを小突いてしまった。そこを隣の婆に目撃され、言いふらされる。職にもつかず、幼い娘に暴力を振るう鬼畜生と噂され、言葉に追い出されるようにして日雇いの現場に向かい、足が家に向かなくなった。夜更けにそっと眠るおすみの枕元に金だけを置いて、町をぶらつく。やたらケンカをし、ごみ溜めで寝た。
     何もかもがどうでもよくなりかけたとき、さらに事件は起きた。町をぶらついていたら、髪を振り乱した婆ががなり立ててきた。隣の婆だ。おすみが攘夷浪士のテロに巻き込まれて重体と聞き、駆け出した。大江戸病院で横たわるおすみに取りすがって泣いた。医者たちに取り押さえられ、事情を聞かされる。その後に真選組と名乗る警察が金の相談に来た。安五郎に哀れみを向けながら懇切丁寧に説明する。誘導されるがままに、判を押した。
     おすみの意識はもどり、みるみるうちに容態は回復した。病室に顔を出し、何か食べたいものはないかと聞いたら甘いものというので売店で飴を買った。面会の時間が過ぎたので、何かほしいものはないかと聞くとお手玉を持ってきてほしいという。
     ひさびさの破れ長屋に戻ると、迎えたのは住人の視線だった。居並ぶ目、目、目。安五郎が見ればそらされる悪意の数々は、ひそめた声でもって蝕んでくる。部屋に入り、大事に紙箱にしまわれていたお手玉を取り出すと、水滴が落ちて染みを作った。

     俺はもう、親父にはなれない。
     ごめんなあ。
     ――ごめんなあ、おすみ。

     無い頭で考えついたのは、真選組とかいう警察から金をむしるだけむしって、おすみの養子のための資金にしてやることだった。わずかばかりだが、日雇いから貯めた金もある。慰謝料を増額してもらえばなんとか足りるだろう。今日は邪魔をされてしまったが、安五郎は諦めるつもりはなかった。
     安五郎は河川敷に座り込んで、夕空を眺めていた。寒さこそないが、眠るには心もとない。町明かりのほうへと向かうかと立ち上がる。そこに影が指した。
    「安五郎さん」
     話しかけてきた男は深く笠をかぶり、腰に刀を差していた。すわ真選組の関係者と身構えるが、男はゆるりと頭を振る。
    「我々はあなたの味方です。安五郎さん、貴方はお金が入用なのでしょう」
     懐から大きな巾着を取り出して振ると、じゃらり、と重い音がした。
    「仕事をこなしてもらえれば、これの倍額さしあげます。どうです?」
     安五郎の喉が鳴った。

    ◇◇◇

     明くる日の早朝、安宿から思い詰めた顔をして墨入りの男が出てきた。隈の濃い安五郎は、緊張の面持ちで唾をのむと左右を見渡す。夜が本番のかぶき町では、まだ人通りがない。不自然に胸をおさえながら、そそくさと通りを行った。

     ――真選組で、またあのように訴えた後に誰かを刺してほしいのですよ。
     ――なあに、鬼の副長を。などとはもちろん言いません。むしろ避けていただきたい。平隊士で結構。
     ――何をするのか? あなたの知るところではありませんよ。
     ――今、真選組の評判は先日の失態で著しく落ちています。そこに慰謝料で揉めて、うっかり刃傷沙汰になってしまった。普通のことです。捕まるとしても叙情酌量の余地があります。
     ――お嬢さんが、可愛くないのですか?

     攘夷浪士の爛々と輝く目に気圧され、刃物と巾着を握らされた。安宿を紹介され、そこで眠れぬ一夜を過ごす。安五郎は、もはや逃げられぬのだと分かっていた。今、出来るのは遺されるおすみに金だけでも置いていってやることだ。自然、足早になる。
    「安五郎さん」
     角を曲がれば屯所が見えるというところで、後ろから声がかかった。反射的に胸を抑えたまま振り返る。昨日、揉めた隊士がいた。確か、山崎と呼ばれていた。落ち着いた様子でこちらを見る目からは、何もはかれない。
    「安五郎さん」
     もう一度名前を呼ぶと、隊士はこちらに手のひらを差し出した。
    「止めてください。今なら間に合います」
     安五郎の肩がはねた。目前に迫る隊士が得体の知れない化け物に見える。
    「うああああああ!」
     刃物を取り出すと、叫び、腹の前に構えて突進する。手に何かを刺した衝撃が伝わる。隊士は、どうっ、とあおむけに倒れた。みぞおちに刺さった刃物が垂直に立っている。少し離れた場所で男の声が聞こえた。仲間だろうか。安五郎は動けないでいた。息ができず、目の前が赤と黒に点滅する。
    「あ、ああ……」
     その場で膝から崩れ落ちた。頭を抱え、慟哭する。
    「……篠原! 十六時上!」
     どすん、と斜め後ろで何かが落ちた音がした。そして声は、たしかに目の前の死体からした。
    「あたたたた……コブになってるかも」
     後ろ頭をさすりながら、腹に刃の刺さった隊士が起き上がり、今度は悲鳴を上げて安五郎が後ろに倒れ込んだ。
    「あっ安五郎さん」
     大丈夫ですか、と言いながらひょこっと隊士は起き上がる。腹に刃を刺したまま、安五郎の後ろに回って支え起こした。
    「あ、あんた……」
     歯の根のあわぬ真っ青な顔の安五郎に、山崎はああ、と笑いかける。
    「偶然、買い物に行ってたもので」
     よいしょ、と腹から無造作に刃物を抜き取ると、上着を開く。ゴトリ、と音がして穴の開いたジャンプが転がり落ちた。

    ◇◇◇

    「私、ここがいいなあ。おとうも、おじさんも来てくれるから」
     病院で、少女は薄い敷布団をつまみながらこぼす。
    「帰っても、だれもいないんだもの」
     山崎は黙って聞いていた。敷布団にいくつもの小さなしわができていく。
    「……みんな、おとうのことを悪く言うから、おとう、帰ってこなくなっちゃった。そんなの、まちがってるのに」
     あのね、とおすみは山崎に笑いかけた。
    「おとうは、とても手先が器用な大工さんで、やさしくって、かぶき町でいっとう、すごいおとうなんだよ」
     山崎はそっと目をつむると、優しく頷いた。
    「……そうだね。きっと、そうだ」

    ◇◇◇

     ――刃物を持ち歩き、『偶然』山崎とぶつかってしまった安五郎は、厳重注意を受けた。また、『たまたま』周囲を巡回していた篠原と吉村は怪しい動きをしていた男二人に尋問したところ、攘夷浪士だったために逮捕した。
    「へえ……そりゃまた、大変だったなァ。山崎」
     報告書を手に、ニヤリと副長が笑う。背に悪寒が走った山崎はそっと目をそらした。土方は舌打ちをして、一度煙草をはずす。
    「……今回はこれで可としてやる」
    「ありがとうございます!」
     山崎は瞬間的に畳に頭を擦り付けた。一応の許しは得た。ここからは、いかに話を早く切り上げて無事に部屋を出られるかの勝負だ。土方は新しく煙草をくわえなおし、何でもないといった調子で尋ねた。
    「安五郎は再就職だって?」
    「あ、ハイ」
    「娘が遊びで折ってたチラシに、たまたま住み込みの職人募集があったとは、ツイてる御仁だ」
    「……デスネー」
     山崎はうっすらとした笑いに目を合わせないように、かつ顔を背けすぎないように、絶妙な角度をキープする。今のところはなかなか副長の機嫌も良さそうだ。朝食に手を回して高級マヨが渡るようにしておいたのがやはり効いたのかもしれない。脳内のご機嫌取り作戦ストックにくわえておく。
    「で、だ」
     いきなり声のトーンが落ちた。山崎は身体を震わせた。
    「ここの記述だが」
    「……なんでしょうか」
     畳を滑って差し出された報告書、記述の一端に土方が指をむけているのを怖怖と見やる。なんの変哲もなく、文法に間違いもないし、作文でもない。何が気に入らないのか一見ではわからず、山崎は目を凝らそうとする。
    「……何で懐にジャンプなんか入れてんだァ? テメーは」
    「へ」
    「局中法度、第十二条、マガジン以外の漫画、局内で読む事なかれ――」
     淡々と告げる土方に、山崎は顔いっぱいに汗をかきはじめる。
    「いや待ってください屯所の外ですし別に読んでいたわけでは」
    「じゃあ何で早朝の買い物でジャンプ買ってんだよ」
    「それは早売りでたまたま、ヒッ!」
     後ずさりを始めた横に、刀が向けられた。
    「士道不覚悟で切腹だァァァァァァァ! 勝手な真似しやがってェェェェ!」
    「ぎゃあああああああああ!!」
     副長室のふすまが吹き飛ばされ、高い悲鳴をあげる山崎がほうほうの体で這い出す。その後ろから、鬼が刀を振り回して追う。屯所に控える隊士たちが、また始まったよ、と肩をすくめた。
     『いつもどおり』のかぶき町の日は、まだ高い。
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