とある野良猫のはなし2000年×月×日
「ねえねえ、新人くん。あなた今日夜勤だったよね」
「あ、はい! そうです」
少し強面の先輩看護婦に突然話しかけられた私は声が裏返ってしまう。役職は付いていないけれど、かなり上の先輩で会話なんてほとんどしたことない人だ。何だろう、引き継ぎはもっと上の人たちで行うはずだし、昨日の業務で何かやらかしたのだろうか。そんなことを考えて内心冷や汗をかいていると、先輩の顔がずいと近付いてくる。
「ね、あなたが出勤した時、いた? 白黒の、おっきい猫」
「あー……あれ猫だったんですね。車の端になんか影が見えたと思ったら引っ込んだんで、何だろうと思ってたんですよ」
「やっぱりまだいるのね」
私の返事を聞いて思案顔になった先輩の眉間のしわがいつもより深くて、猫が周りをうろついてるのってそんなにまずいのだろうか、と不安になる。しかし先輩の口から出た言葉は私の予想を裏切るものだった。
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