お題【早朝】最近暖かくなってきたのでウォーキングしていると乙。毎日の授業や任務で疲れてるはずなのにすごいなと感心していると伏黒くんも行かない?と誘われたので並んで歩く2人。
早朝もまだ薄暗く肌寒い時間。広い呪専内ともあり、すれ違う人は誰もいない。乙に手を繋ぎたいと言われたので快諾して自らの手を乙の手に絡めるとひんやりとした指の感触が伝わってくる。伏が「独りで歩いて寂しくないですか」と聞くと「数年間、人を避けて里香ちゃんと2人だけで生きてきたから慣れてる」と乙。
そういえばずっと2人きりで生きてきたんだなと少しばかり彼女のことが羨ましくなる伏。顔に出ていただろうか、乙の手を握る感触がキュッと強くなる。
「もしかして妬いてる?でも嬉しいな、それだけ僕のことを思ってくれているんだね」
乙の優しい微笑みが目に映る。
「でもあまり里香ちゃんに嫉妬しないほしいな。今、伏黒君といる時間は僕達だけの時間だよ。僕が伏黒くんに捧げた時間。君だけを想う時間。あんまり里香ちゃんのことばかり気にしてると今度は僕が君に嫉妬しちゃうよ」
なんか三角関係みたいだねと笑う乙。こうして一緒にいる間、先輩も自分のことを考えてくれているのだと知り体が熱くなる伏。せっかく2人きりの時間なのに頭では別のことを考えていた、なんてもったいないことをしてしまったのだろうと伏は思う。前を見て歩く乙の手を引き歩みを止めると自分の方に振り向かせる。少し驚く乙の顔。
「先輩、俺は先輩に一途なんです。本当は他のやつが先輩のそばにいるだけでも妬いてしまいます。それは彼女でもかわりません。だからまた俺がそういうこと考えている時はこうやって振り向かせてほしいです。先輩といる時くらい、心も体も先輩に捧げたい。先輩だけを思っていたいし感じたいだから──」
驚いたまま聞いている乙の表情がいつもの柔らかい表情に戻る。
「みんなや里香ちゃんといる時間は大事にしたいからその時だけは君を想えない。それは申し訳ないけど、それで君の心がいつまでも僕以外に移るのは嫌だからその時はちゃんと振り向かせるね。君が嫉妬するのは彼らじゃなくて僕だけでいいから」
伏の頬にそっと乙の手が触れる。手が繋がれていない方の手はまだひやっとしていてゾワっとする。愛し気に頬を撫でると乙がそっとキスをする。
「君は僕だけを想っていてくれればいいから」
乙の手が自由だったもう片方の手を掴むと自分の胸に当てる。
「僕が君といるのに他の人のこと考えてた場合は教えてよ。その体で、僕に。刻み込んで、僕の体に」
頬を高揚させ、あざとく微笑む乙。トクトクと滾るような心臓の鼓動が手に響いてくる。
嗚呼、やはり俺たちはお互いがお互いを求めてるんだ。強く、惹かれ合う。心も体も。繋がりあった両手がその証拠だ。
「もちろん。そのつもりです」
今度は伏から乙にキスをする。互いを互いで縛るために。
いつのまにか明るくなり始めた空とまだひんやりとする風が心地よい。そろそろ戻ろっかと乙が言う。清々しい気持ちで足取りも軽い2人は手を繋いだままいつもの場所に帰る。その絆は途切れることはない。