関口巽の手記(二)二人の声が遠くに聞こえた気がして
ゆっくりと、意識が浮上した。
喉を焼くような渇きは癒えていた。
ぬるつく喉と両手が生温かい。
暗がりのなか、視界が広がると
それが、血に染まっていることに気づいた。
目の前に息絶えた人が転がっている事も。
二人の諍う声が聞こえる。
きっとわたしが人を食べたから、
怒っているのだろう。
きっとわたしが人を食べたから、
二人は傍にいてくれなくなるのだろう。
わたしは、またひとりになるのだ。
ひどく怖くて
ひどく悲しくなった。
差しだされた腕に縋りついた。
中禅寺はわたしをどこかに連れていく、
中禅寺のいるところならどこでも構わない。
榎さんはどこにいったのだろう、
わたしはお日さまに嫌われたから
榎さんにも、嫌われたのだろうか。
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