深淵 ここ数ヶ月、だんごちゃんの様子がおかしいことには薄々気が付いていた。だんごちゃんはいつも暗くて変だけど、そういう感じじゃない。
何かが欲しいけど手に入らなくて、それをすごーく我慢しているような、そんな様子。
「だんごちゃーん、この部分ちょっとセリフ変えたいんだけどどう思う?」
「………」
「あれ、だんごちゃん?だんごちゃーん!!おーーーーい!!!!ねえ聞いてる!?ねえねえだんごちゃんだんごちゃんだんごちゃん!!」
「わっ……、え、何、うるさいよシャケちゃん……。どうしたの?」
その日は小さなイベントでネタを披露することになっていて、滞りなく午前中のリハーサルが終わったところだった。楽屋でお弁当を食べた後、机に向かうだんごちゃんを尻目に一人でネタの練習をしていた。
パッと振り返ってだんごちゃんに声をかけたが、反応がない。あれ、無視された?
耳元で大声を上げたら、ハッと顔を上げてこちらに振り返った。
「も〜、最近ぼーっとしてばっかり!ほら、この部分なんだけど……」
「ご、ごめん……」
こんなことが頻繁に起きていた。それに、ご飯も殆ど食べてないみたい。だんごちゃんは元々食が細いけれど、一緒にロケ弁を食べてると全然箸が進んでいない。
気になってお腹すいてないの?って聞いたら、おやつ食べすぎちゃったんだって!だんごちゃんらしくないよね。
その度に
「わ、私の分も食べていいよ、シャケちゃん……」
って言われると、断るわけにもいかず。シャケが2人分のお弁当を食べて、だんごちゃんはパックの野菜ジュースを飲むだけ、みたいなことが続いていた。
そういえば、さっきだんごちゃんが振り返ったときに、何か違和感を感じた。
何だっけ……目、かな。楽屋は煌々と天井のライトに照らされているのに、だんごちゃんの両目だけが闇のように暗かった。
でも、それを覗き込もうとしたら元のだんごちゃんに戻っちゃった。
何だったんだろうね。変なだんごちゃん!
……縛り付ければ、また見れる?