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    麿さにオンリーで出したい予定の新刊です。
    雰囲気としてはジュンブラ新刊で出した水さに風味の「政府刀と遭遇して始まる系」麿さにです。
    自本丸麿はいません、設定としては出てきていませんが新任の頃に特命調査で部隊全員重症にしたトラウマで特命調査を避けている審神者ちゃんが出てきます。
    完成するかはわかりませんが完成したら一話は支部にあげます。
    ありがとうございました。

    それが恋とは思わなかった「──それでは、今回の定例会はこれで終了とします。次回開催は三ヶ月後となりますのでよろしくお願いいたします」
     ようやく終わった定例会にほっと一息つく。
     今回は三日連続で突如開催が決定した上に、碌に事前連絡もなかったものだから、参加した審神者側は勿論、護衛として参加した刀剣男士の中にも疲労の色が伺える。なんだかんだ言っても、戦闘と護衛では趣旨が全く違うわけで、普段から慣れていないと大変なのだろう。
     初期刀だから、といつも付き添いをお願いしている山姥切がタイミングよく帰還していなければ、私も他の刀剣男士に頼んでいたはずだ。審神者歴も大して長くもない、特命調査にも一度しかないような本丸で山姥切以上に護衛の経験のある刀剣男士もいないし、間に合って本当に良かった。ようやく無事帰れることへの安心感から、胸を撫で下ろしていると、山姥切と目が合う。
    「帰るのか」
     目元が少しだけ濡れているのは、何度かあくびを噛み殺していたからだろう。外とは違う暖かい室内で長時間、一方的に話を聞くのは戦闘とはまた違った神経を使うから無理もない。
    「今日は半年ぶりの定例会だったから疲れたよね、ごめん」
    「……気にするな。今日はどこかに寄るのか」
    「あー……ええと」
     前回の定例会の時は講師として来た担当者があまりにも酷かった。ほとんど面識のない審神者同士ですら期間中は講師の話題が尽きないほど酷い状況だったことはまだ記憶に新しい。定例会が終了した瞬間の開放感は尋常ではなかったし、その日は普段行かないようなちょっとお高めのスイーツのお店にまで足を運んでしまうくらいだった。でもなんとなく、今日はそういう気分でもなかった。
    「今日はいいかなあ」
    「そうか。なら本丸に帰還の連絡をしてくるからここで少し待っていてくれ」
    「はあい」
    「いいか、くれぐれも動かないでくれ」
    「もう!わかってるよ」
    「……」
     先日、万屋街でスイーツを探しているうちに迷子になったことを言っているのか、山姥切が冷たい視線を向ける。美味しそうなものを探すうちについ夢中になってしまっただけで、普段からそういうわけじゃないはずなのにどうしてこうも揃いも揃って心配性なのか。
    「……頼む」
     負けじと視線を返してから暫く見つめ合っていたものの、根負けしたのか山姥切がため息をついて、一言、念押ししてから体を翻した。
      
     離れていく背中が角を曲がって見えなくなったあと、なんとなく廊下のポスターに目をやる。
     色とりどりの広告が並ぶ中で白地に文字だけが羅列されただけの地味なデザインなんて、特段目を引かれるようなものでもないというのに、どういうわけかそのうちのある一枚から目が離せない。
    『きみもこちら側へ』という簡素に灰色の文字だけが書かれたそのポスターは、白が一面に押し出されているせいか余計に文字だけに目がいく。
    「──だから!まだ連絡が取れないんだ!」
    「……?」
     ポスターに目を取られたままなんとなく首を傾げていると、男性の声が飛び込んできた。辿ってみれば、廊下に並んだ扉の一つが、隙間一つ分少しだけ開いていた。
    「そうは言ってもこの状況では──」
    「──戻らないことをとやかく言っても仕方ないだろう!彼も……源清麿が訳もなく連絡を断つわけが──」
    「──このまま待っていても被害者が増えるのみだ。これ以上審神者が誘拐されるわけには──」
     複数人の怒鳴り声は、ところどころ聞こえるのみではあったものの、切羽詰まっていることだけは部外者の自分でもわかる。そのせいでうっかり扉を閉め忘れたのだろうか、気付かれないようにこっそり扉を閉めてその場を後にする。
     
    「なんだか、大変なことになってるんだなあ……」
     そういえば、本丸を出る前にも近侍を任せていた蜂須賀に似たようなことを言われたような。
    ──最近審神者の誘拐事件が多発しているから、あまり山姥切から離れないように。
     そうは言っても自分だって成人を過ぎているのだから、簡単に政府施設内で誘拐されるわけもない。蜂須賀は存外心配性なのだろう。
     新たな一面を再認識して、ふと笑みが溢れる。こうやって、政府も調査隊を出して解決に動いているし、きっと自分が知り得ないところでこの事件も無事終わるのだろう。
     そう、思った時だった。
    「あ、」
     手元の端末が小さく震える。この断続的な間隔は電話だろうか。
     山姥切と別れた場所からかなり離れてしまっていたことに気がついて、手早く端末をスライドさせてから耳元に当てる。
    「ごめん!どこにいる?私は──」
     さっきの場所からそんなに遠くない場所にいるから。
     怒られる前に先手を打っておくのがいつもの私の癖だった。そう続けようとして、ふと言葉が詰まる。

     電話に出た拍子に映った視線の先。
     電話口にいるはずの山姥切が、酷く焦った様子でこちらに駆け寄るのが見えた。視界がゆっくりとスローモーションで動く。
     嫌な予感がして振り返ると、先ほどまでなかったはずの光のない空間が広がっていた。
     
    「──なんで?」

     *

     ふわふわとした感覚の中、ちくりと冷たいものを背中に感じる。布団の中にしてはやけに寒いし、外にしてはやけに湿気があって、それで。
    「──っ!?」
     そこまで考えてから何かがおかしいことに気がついて勢いよく飛び起きた。視界に飛び込んできたのは、丁寧に並べられた一面の樽だった。まばらに配置された窓から漏れ出る陽の光だけが明かりのこの空間は、どこかの蔵だろうか。直前の記憶を辿ってみても、自分の意思でここにきたわけでもなく、誰かがいるわけでもない。
    「ど、どうしよう……」
     電話を出て意識がなくなるなんてこともなければ、起きたら見知らぬ蔵でした、なんてこと経験したこともない。
     そもそもあんな焦ったような山姥切の顔を見たのも初めてで、私の理解が及ばないところで何かに巻き込まれたのだろう。
    「……このまま、帰れなかったらどうしよう」
     本丸から出ることは少ないと言っても、依然辞職率と殉職率が高いこの職業だ。何が原因で審神者を辞める羽目になるのかわかったものではない。
     ぐるぐると悪い方へと思考を傾けていくうち、かたんと乾いた音が聞こえた瞬間、頭が冷えた。
    「……やめよう」
     結局のところ、なるようにしかならないのだから、これ以上考えても仕方ないのだ。
     冷えた両手で自分の頬を包んで、軽く叩く。
     それから、ゆっくりと立ち上がって周りを見渡す。
     手元には電波を受信できないままの端末と、本丸を出る前に蜂須賀が握らせてくれた塩味のキャンディが二つ。他には、何もない。幸いにも気持ち肌寒いくらいの気温のおかげでコートがなくても一応は問題なく活動できそうな状況。
     絶望的な状況に目を背けつつ、何か使えるものがないかを探し始める。
     足元が薄暗いから、慎重に足を運んではいても一歩、また一歩と動かすたびに木の軋む音がする。刀剣男士のように上手くいかないにしても、静寂に包まれたこの空間でこれでは、どこにいるか即座にわかってしまう。
     これ以上は素人ではどうしようもないな、と諦めながら出口らしきものに向かって行くと──突然何かに思い切り腕を引っ張られた。
    「え」
     
     想定していない方向への力に抗うことも出来ず、そのまま身体のバランスを崩してしまった。
     次に来る衝撃を覚悟して目を瞑っていると、硬くて柔らかい温もりに受け止められる。恐る恐る目を開けると、つつじ色の瞳が二つこちらを向いていた。
    「な、なにを──」
    「静かに」
     目の前の男は、言い聞かせるようにゆっくりと自身の口元に人差し指を当てる。受け止めてくれてはいるものの、その実こちらを見つめる瞳は温度もなく冷えきっていた。
     光が碌にない状態でもわかる、薄紫に白みがかったグラデーションの癖っ毛に軍服のような服装。こんな場所だからか白は少し汚れていたけれど、間違いない。
    「み、源、清麿……?」
    「……おや、僕のこと知ってるんだね」
     先ほどよりも少しだけ柔らかい声色で遅れて返事が返ってくる。けれど対照的に細められた瞳が全く笑っていないのはこちらをまだ警戒しているらしい。
    「ええと、あの……」

     拝啓、初期刀様。
     この状況から私は無事帰還できるのかな。

     これからのことに頭を抱えながら次の返答に頭を悩ませるのだった。


     


     
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    n88673316

    DONE麿さにオンリーで出したい予定の新刊です。
    雰囲気としてはジュンブラ新刊で出した水さに風味の「政府刀と遭遇して始まる系」麿さにです。
    自本丸麿はいません、設定としては出てきていませんが新任の頃に特命調査で部隊全員重症にしたトラウマで特命調査を避けている審神者ちゃんが出てきます。
    完成するかはわかりませんが完成したら一話は支部にあげます。
    ありがとうございました。
    それが恋とは思わなかった「──それでは、今回の定例会はこれで終了とします。次回開催は三ヶ月後となりますのでよろしくお願いいたします」
     ようやく終わった定例会にほっと一息つく。
     今回は三日連続で突如開催が決定した上に、碌に事前連絡もなかったものだから、参加した審神者側は勿論、護衛として参加した刀剣男士の中にも疲労の色が伺える。なんだかんだ言っても、戦闘と護衛では趣旨が全く違うわけで、普段から慣れていないと大変なのだろう。
     初期刀だから、といつも付き添いをお願いしている山姥切がタイミングよく帰還していなければ、私も他の刀剣男士に頼んでいたはずだ。審神者歴も大して長くもない、特命調査にも一度しかないような本丸で山姥切以上に護衛の経験のある刀剣男士もいないし、間に合って本当に良かった。ようやく無事帰れることへの安心感から、胸を撫で下ろしていると、山姥切と目が合う。
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