恋文「きっとラブレターだよ」
同僚がそう囁いた。
彼女の視線の先には、先程切手を買い求めた男性の後ろ姿があった。
もうひとつの記憶がある彼女が、俳優の誰某に似ていると言っていたが、名前は忘れてしまった。
彼が印象に残っているのは、際立った容姿と、今時珍しい和服姿ゆえである。なにかそういった職に就いているのだろうか。背筋をピンと伸ばした姿勢も堂に入っている。
「あっちで恋人だった人と文通してるとか。ロマンチックじゃない? こっちの相手には別の恋人がいたりして」
客が居ないのをいいことに黄色い声を上げる彼女に、適当な相槌を打つ。
あの万博の春、世界は変化した。死んだはずの人が生きて戻ったり、別の世界の記憶を持ったり、存在しなかった人が現れたり。
1004