ある年の暮れのことです。十郎は居間のちゃぶ台で年賀状を書いていらっしゃいました。
以前は自分も宛名書きのお手伝いをしたものですが、こちらではほんの二・三枚で片付いてしまいます。太郎さん夫妻宛のハガキに連名でひとこと添えたきり、自分の出る幕はないようです。
自分はちゃぶ台の反対側へ座り、十郎の綴る文字をぼんやりと眺めながら、おせちの具材を考えておりました。
黒豆、かぶ、チョロギ、アワビ……以前ほど品数は用意できないかもしれませんが、十郎には良いものを召し上がっていただきたいのです。
「何か欲しいものはあるか」
十郎が出し抜けにそう尋ねました。
「やはり海老は必要ですね」
「?」
十郎は年賀状を書き終えたようで、万年筆を卓上へ置いてこちらを見ておりました。怪訝そうなお顔です。
1259