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    rubbish0514

    @rubbish0514

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    rubbish0514

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    周年あんまり関係ないけど9月なのでお月見な夜十

    恋しかるべき 今日は十五夜ですから、と夜美が団子と酒を用意してくれたので、二人縁側に出た。
     昼間は中秋とは名ばかりの真夏日であったが、夜は肌寒い。草陰から秋の虫の声がする。
     団子は三方に盛られていて、どこからもらってきたのかススキまで飾ってある。僕はふたつある座布団の左へ座った。夜美は徳利と猪口の載った盆を置き、それらを挟んで右隣に腰を下ろす。
     見上げれば、東の空に丸い月が浮かんでいた。
    「晴れてよかったですね」
    「そうだな」
     まばらに浮かんだ雲が流れては時折月にかかる。明日は曇りの予報であったから、明け方にはきっと雲に覆い隠されてしまうだろう。薄い紗を纏った姿は、遮るもののないときよりも却って青く冴え冴えと見える。
     月明かりに照らされた彼の横顔は冷たく、美しい。僕はその瞳に映る月を見ながら、天辺のひとつだけ黄色に色づけされた団子を摘み取る。弾力のある生地を噛み破ると、餡の香りと甘さが広がった。
     僕の視線に気付いた夜美が片目を細める。
    「十郎、自分のほうばかり見ていては、お月見になりませんよ」
    「月も見ている」
     彼は呆れたように溜息をついた。
     その口元に白い団子を近づける。薄い唇が開き、素直に口にしたかと思えば、離れるきわに軽く歯を立てられた。肩を跳ねさせた僕を見て、片頬を膨らませたまま口元に笑みを浮かべる。
     口の中のものを咀嚼しながら、夜美は僕にも同じように団子を餌付けた。仕返しに指を食むと、くすぐったそうに笑う。
    「お団子、お口に合いますか」
    「君の作るものは何でも美味い」
     空になった猪口に、夜美が酌をしてくれる。注がれた水面にも月が映っていた。飲み干せば酒精が喉を灼く。
    「月、綺麗ですね」
    「君のほうが美しい」
    「……あなたって人は」
     夜美が眉を下げる。その頬は淡く色づいていた。
     君は何も言わずに僕を見つめている。――月ではなく、僕を。
     僕は猪口を置き、右手を彼の左手に重ねた。盆越しの距離が疎ましい。酒器を倒さぬようそっと顔を寄せ、口づける。
     唇が震えたことに気づかれただろうか。離して顔色を伺えば、君は微笑んだままだった。
     二度目は少しだけ深く。誘うように開かれた唇に、舌を差し入れる。絡めた舌が甘く感じるのは、きっと団子のせいばかりではない。悪戯に舌の根を擽られ、背筋を波紋が伝った。
    「あなたの舌、餡子とお酒の味がします」
     くすくすと夜美が笑う。上目遣いに見つめる瞳には、僕が映っていた。
    「夜美」
     君と見る月は美しい。君と時を重ねるごとに、共に過ごした季節がより一層好ましく思える。
     だが、僕は。月にも星にも、君を渡したくはないのだ。
    「はい、十郎」
     夜美はすべて承知しているとでも言うように返事をしてくれる。
     僕は重ねた手指を絡め、もう一度口づけるために目を閉じた。



     折角の十五夜でしたから、十郎をお月見に誘いました。
     月見団子とススキを並べ。十郎のためにお酒を用意いたします。先に縁側に出た十郎は左側の座布団へ腰を下ろしましたので、自分は右へ座りました。
     空を見上げると、丸い月がよく見えます。
    「晴れてよかったですね」
    「そうだな」
     千切れ雲が月にかかる様子は、雲ひとつない夜空とは違った風情があります。遠まわりして帰ろう、と歌った流行歌を思い出します。愛しい人と見るからこそ美しく、いつまでも眺めていたいと思うものなのでしょう。
     ところが十郎は、月ではなくこの自分をじっと見つめていらっしゃいました。
    「十郎、自分のほうばかり見ていては、お月見になりませんよ」
    「月も見ている」
     十郎は団子をひとつ摘み上げ、自分の口元へ差し出しました。これは。恋人同士がするという「あーん」なるものでしょうか。なんでもない風を装っていらっしゃいますが、頬が赤く染まっています。
     自分は口を開けて与えられた団子を咥えました。十郎の指を軽く噛むと、肩を震わせ、一層頬を紅潮させます。
     十郎にも「あーん」をして差し上げると、雛鳥のように素直に口を開きました。かと思えば、先程の仕返しをするように指先を唇で閉じ込めます。手を引くと小さな水音が立ちました。
    「お団子、お口に合いますか」
    「君の作るものは何でも美味い」
     空の猪口に日本酒を注ぎます。十郎は口元を隠すようにそれを飲み干しました。
     頬の赤らみも、可愛らしい振る舞いも、酔いのせいになさるつもりならそれでも良いのです。
    「月、綺麗ですね」
    「君のほうが美しい」
    「……あなたって人は」
     迷いなく告げられる愛の言葉はまっすぐで、自分の意識が月へ向いていることを咎めるようでもありました。
     自分は十郎を見つめ返しました。十郎は視線を彷徨わせ、下唇を噛み、それから意を決したように猪口を置きます。
     重ねられた手は熱く、壊れ物に触れるように怖怖とした手つきでした。そうして優しい口づけをくださいました。
     震える唇はひどく健気で、可愛らしいと思うままに笑みを向けます。
     二度目の口づけに合わせて唇を開けば、熱い舌が入り込みました。団子の甘みとアルコールの苦味がいたします。舌の付け根を擽ってさしあげると、手に力が込められました。
    「あなたの舌、餡子とお酒の味がします」
     十郎は目元を赤く潤ませて自分を見つめていらっしゃいます。
    「夜美」
     十郎。月も星も花火も雲も。あなたが隣にいらっしゃることに意味があるのです。あなたと季節を重ねていきたいのです。
     ――ご自分に目を向けようと必死になるあなたが見たいことも、否定はいたしませんが。
    「はい、十郎」
     お返事をかえすと、十郎は重ねた手指を編み、睫毛を伏せます。自分は三度目の口づけを待って、目を閉じました。
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