ホームメイド幻覚・上 初めての家族旅行は酷い潮香と窒息の中で途絶えた。
「自分の名前は言える?」
「モラクス」
「今、何才かな?」
「5さい」
気づいた時には病院のベッドに寝かされており、これが目が覚めて最初の会話だった。潔癖を体現する白色の部屋と濃い消毒液の匂い、気難しい顔をしながら簡単な質問をする医者。起きあがろうと体を動かすと、全身から骨の軋む音がした。
自身がなぜ病院にいるのかも理解していなかった俺に、担当医は様々な説明をしてくれた。しかし、海難事故で半月の間眠っていたことも、両親の葬儀は既に終わっていることも、幼い俺にはよくわからなかった。入院中はずっと、そのうち両親が迎えに来てくれると思っていた。重い医師の話しぶりと病院の雰囲気にただ気圧されていた。
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