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    ktzkmsr

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    特大幻覚現パロモラ鍾小説になります。鍾離ほぼ出てこないです
    マジのガチで妄想と幻覚しかない字書き初心者の文章です

    ホームメイド幻覚・上 初めての家族旅行は酷い潮香と窒息の中で途絶えた。
    「自分の名前は言える?」
    「モラクス」
    「今、何才かな?」
    「5さい」
     気づいた時には病院のベッドに寝かされており、これが目が覚めて最初の会話だった。潔癖を体現する白色の部屋と濃い消毒液の匂い、気難しい顔をしながら簡単な質問をする医者。起きあがろうと体を動かすと、全身から骨の軋む音がした。
     自身がなぜ病院にいるのかも理解していなかった俺に、担当医は様々な説明をしてくれた。しかし、海難事故で半月の間眠っていたことも、両親の葬儀は既に終わっていることも、幼い俺にはよくわからなかった。入院中はずっと、そのうち両親が迎えに来てくれると思っていた。重い医師の話しぶりと病院の雰囲気にただ気圧されていた。
     そんな5歳の俺にも唯一理解していたことがある。弟の鍾離のことだ。
     俺のリハビリが順調に進み、見舞いに来る知らない親戚をあしらうのに辟易し始めた頃、鍾離と面会する許可が出た。それまで鍾離は寝ているとしか聞かされていなかった俺は、当然のように一緒に家へ帰れると有頂天になっていた。
     待ちに待った面会は、ガラス越しの一方的なものだった。集中治療室のベッドに横たわる鍾離は確かに眠っていた。呼吸に合わせて僅かに上下する胸が彼が生きていることを示す唯一の証拠のように思われた。
     待っていれば俺と同じく、そのうち起きるのかと隣に立つ医者に聞く。医者は数秒黙ったあと、幼い俺を気遣ったのか「医療技術が進歩すれば起きれるかもしれない」と中途半端な答えしか言わなかった。血色の悪い肌を蛍光灯が一層青白く照らす。たくさんの大きな機械に繋がれた体は、前よりも少し痩せて見える。
     鍾離は死ぬまで眠ったままなのだと子供ながらに理解した。

     退院後は親戚中をたらい回しにされた。その時になってやっと、もう親は迎えに来ないとわかった。
    小学校に上がった頃から、自身の現状を理解していった。親戚に疎まれることにも、家族がいないことにも慣れてしまった。その分だけ、鍾離のことが一層大切になった。何よりも、俺の一存で鍾離の生死が決まることが嬉しかった。両親は死んでしまったが後見人は付けていない。つまり、鍾離に繋がれている生命維持装置の電源を落とせるのは俺だけだ。幸い、両親の遺してくれた遺産で治療費は賄えた。万に一つも鍾離を見殺しにしないと誓ったが、生殺を握り、支配とも言えるようなその関係が、俺と眠ったままの鍾離の唯一の絆であり、その気になればいつでも鍾離の命を握り潰せる独占性と優越感に酔っていた。
    反抗期に入ってからは他人と生活することが苦痛になり、家族で住んでいた家に戻ることにした。売却しなくてよかったと心の底から思った。広く年季の入った一軒家は不気味なほど静かで、長らく手入れのされていない中庭は荒れ果てていた。この家は四合院と呼ばれる伝統的な建築物らしい。建物の四方を塀に囲まれており、土地の中心には四角く区切られた中庭がある。これが一般家庭的な住居ではなく、俗にいうところの「金持ちの家」であると知ったのはつい最近のことだ。
     家事は不慣れだったが、親戚に気を遣って暮らすよりも遥かに楽だった。他人と暮らしていた時と違って、好きな時に好きなだけ鍾離を見舞いに行けるのも嬉しかった。
     暮らし始めてすぐの頃は家の中を当時のまま維持しようと考えていた。しかし、時が経つにつれて食器が入れ替わり、使わなくなった家財は処分され、両親の寝室は物置となっていく。知らず知らずのうちにだいぶ様変わりさせてしまった。きっと鍾離が見たら驚くだろうな、などと冗談めかして呟いてみたが、悲しくなるだけだった。先週割ってしまった皿で、鍾離と杏仁豆腐を食べたことがある。先月処分してしまった机の下に潜って、鍾離と遊んだことがある。そんなことを後になってから思い出すのだ。他の捨ててしまった物にも、何らかの思い入れがあったはずなのに手放すまで思い出せない。鍾離と幼い時の生活について語らうことができれば思い出せるだろうか。鍾離は起きない。俺は一人だ。この家は、一人で暮らすには広すぎる。
     それでも、かろうじて二人で使っていた子供部屋の中だけは触れずにそのまま取っておいていた。
     俺が死んだら鍾離はどうなるのかを何度も考えた。生きることを投げ出したいと思うことは数度あったが、どうしてもそれが気掛かりで踏み留まった。その一点だけで必死になれた。
     俺たちは運命共同体で、俺がいなければ鍾離は死に、俺はいつ目が覚めるかわからない鍾離に生かされていた。この時の俺は良くも悪くも子供で、鍾離と一緒に生きるにひたむきであり、他に生きがいを持っていなかった。

     一人で暮らし始めた頃と違って、今はもう生活に困窮することも無い。進学を諦め半ば無理に立ち上げた会社も、良い軌道に乗っている。俺を慕ってくれる部下や、信頼できる友もいる。しかし、自身の成果に充足感を感じるにつれ、胸中に穴が空き、その存在感が増していった。
     鍾離の存在は精神的な支柱であると同時に枷でもあった。無論、鍾離は今も大事な家族であるし、彼がいなければ俺は自死を選んでいただろうから、こんな空想は無意味だ。しかし、鍾離が最初からいなければ空虚にならずに済んだのにと思うことがあった。俺がどれだけ努力をしようと彼の目覚めが早まることはない。
     鍾離の延命が悪いことだとは思わない。だが、このまま現状を維持し続けることに意義が感じられない。この責務の終わりには何があるのか。どうやって終わりを確かめればいいのか。
     思考の中から鍾離を追い出そうとしている自分がいる。彼を生かすために手を尽くした日々さえも朧げだ。苦い出来事は気付かぬうちに美化され、思い出の中の彼はますます透き通っていく。もう終わらせても良いのでは無いかと言う考えが脳裏を掠めていく。

    鍾離のために生き続けるのにも限界が近づいてきた。そんな晩だった。眠りに落ちる瞬間、天啓のように子供の足音が聞こえるようになった。寝室の前の廊下を走り回っているような、ぱたぱたと小刻みで忙しない足音だ。
     一応は家の中を探したが、知らないうちに家の中に子供が入ってきているとは思えない。少し疲れが出ているのか、家鳴りが偶然足音のように聞こえるのだろうと思い、原因を深く探りはしなかった。むしろ、寝入りばなに聞こえるそれは川のせせらぎや鈴虫の声に似て心地よかった。
     それから足音は毎晩聴こえるようになった。
     足音は寝室前の廊下を駆けて行ったり、戸の前をうろうろと往復していたりと日によって様々だった。ごく稀に戸を開ける音がしたが、音だけであって実際に戸が開いたことはなく、室内まで足音が入ってくることもなかった。なぜ部屋の中には入ってこないのか。段々と、なんだかもどかしく思えた。
     その日も、ベッドに入ってうとうとしていると足音がした。ただ、普段よりも執拗に戸の周囲を彷徨いている。
     ふと、ばかばかしい考えが浮かんだ。こちらから話しかけてみるのはどうだろうか。相手は幻聴だ。俺の独り相撲になる結果は見えている。それでも、試すくらいはいいだろう。
     こちらの緊張を悟られないよう、つとめて自然に戸の向こうへ話しかける。
    「部屋に入っていいぞ」
     …足音がぴたりと止む。別に幽霊やら何やらが出てくることを期待していた訳では無いが、少しがっかりしてしまった。
     全て俺の一瞬の気の迷いなのだ。きっと明日になればまた足音が聞こえるのだろう。そう考えて布団に潜り込んだ時。
    「もらくす」
     息のかかる距離、右耳のすぐ近くで囁くような子供の声がした。拍動が一気に加速し、反射的に跳ね起きる。
     夜の寝室は暗く、一寸先も見えない。明かりをつけようとして思いとどまる。この部屋に誰も居ないことを確認してはいけない。
    初めてその子供の声を聞いた。年の頃は5才くらいだろうか、舌足らずな発音で俺の名前を呼んでいた。人の記憶は声から忘れていくらしいが、俺はその声を覚えている。
    もはや幽霊でも夢でも関係ない。彼の名を呼び返さなければならないと直感的に感じた。
     心拍は高速のまま戻らない。耳の奥でどくどくと血を送る音がする。あらゆる環境音と鼓膜に灼き付いた子供の声が絡み合い、耳鳴りのように脳内でこだまする。
    その名前を口の中で確かめる。興奮と緊張を宥めるために薄く長く息を吐く。
    もし間違えれば彼は二度と現れないだろう。
     必要な分だけ息を吸う。
     吐く息に合わせて、声帯を揺らす。
    「鍾離」
     真空のような静寂。
     心音も呼吸音も耳鳴りも消え失せた。
     自身の声だけが耳に残る。
     何かが蠢く。
     俺の幻覚はたった一声で現実へ滲み出し、輪郭を形作る。
     戸とベッドの間、俺と向かい合う位置の暗がりが、鍾離という名を型にして鋳出される。
    「…もらくす、よんだか?」
     人型と目が合った。人型は、鈴の音を思わせる小さく心地よい声で返事をした。事故に遭う前、20年前の鍾離がそこに立っていた。白い肌にブロンズの長い髪、石珀のように輝く瞳。ネグリジェに似た象牙色の寝巻きは、子供の頃に着ていたものだ。闇の中にあっても、彼の姿は月光を受けているかのようによく見えた。
     鍾離はベッド横までぺたぺたと裸足で駆け寄ってくる。
    「ひっぱってくれ。」
    大人用の寝台は幼い子供にはよじのぼるのに少々高い。ベッドの側で両手を挙げ、俺へアピールするように振っている。
     俺は上体を鍾離の方へ向け、一瞬躊躇った後、振られた手をそっと握る。俺の手の中にすっかり収まる小さな手は柔らかく、力を込めれば簡単に潰れてしまいそうで恐ろしい。そのままゆっくりとベッドの上まで引き上げてやる。近くで見てもやはり鍾離だ。何を喋ろうか考えあぐねる俺より早く、鍾離が口を開く。
    「ひろいベッドだな。まいにちこっちでねてもいいか?」
    予想だにしていない質問に面食らう。鍾離はそんな俺を横目に、低反発枕が気に入ったのか真面目な顔をして手のひらをししきりに枕へ押し付け、遊び始める。
    「寝て良いが…明日も来るのか?」
    「やっぱりいやか?」
      俺の返事が悪かったからか、鍾離の手が止まり、表情が一瞬で暗くなる。
    「…突然のことで少し驚いただけだ。お前がそうしたいなら構わない。」
     そう付け加えると安心したように表情を和らげ、ベッドに寝転がった。にこにこしながら俺の顔を見上げている。
    「…鍾離、お前は…」
    「うん?」
    「……いや、何でもない。」
     彼の実在を問おうとしてやめた。本物だと思えは本物だ。今が夢か現実かを他人と照会する気はない。この部屋限りのごっこ遊びでも、孤独を埋めるのには十分だろう。他にも聞きたいことがったが、答えてくれるとは限らない。
     鍾離に倣って俺も横になる。
    「もう遅いから寝よう」
    「うん。もうおそいからねよう」
     鍾離の手が俺の頬に触れる。
    「これからもいっしょだからな」
     まるで親が子に言い聞かせるような喋り方だ。もしかすると、さっきから頬をくすぐっている彼の手は、頭を撫でているつもりなのかもしれない。
     鍾離の背に手を回す。子供の体温は高く、両腕の中に収まる小さな体躯は抱き締めると暖かい。病院で眠る鍾離も暖かいのだろうか。また家で一緒に眠れる日が来たら確かめようと思った。
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