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    saruzoou

    @saruzoou

    さるぞうと申します。
    🐉7春趙をゆるゆると。

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    saruzoou

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    「触れたらわかること4」の蛇足的なお話。ナンバ視点です。私にしか需要がないとは思ったのですが、誰か楽しんでくれる人いるかしらと、アップしました。

    朝帰りと。人の出入りのあるはずのない早朝のサバイバー。その扉の開く音に、ナンバは目を覚ました。
    近江連合の残党らに、アジトにしていることを知られているこの場所に危険がないわけではないが、キチンと鍵を使って扉を開けたその音で、仲間の誰かが来たのだろうと思ってナンバは再び目を閉じた。
    程なく軽快に階段を上る足音とご機嫌な鼻歌が聞こえてきて、春日が帰ってきたのだとわかった。そしてもうひとつの控えめな足音は、趙のものだろう。
    いつも不思議に思うのが、あんなゴツい靴を履いている割に、元マフィアという身の上がそうさせるのか趙は足音や気配を消すのがうまかった。
    「…ちょっとぉ、静かにしなよ。寝てるでしょ、ナンバ」
    「あいつがこんくらいの物音で起きるかよ」
    嗜めるような趙の小声に答える春日の声音が浮かれきっていて、ナンバは気づいてしまった。
    あ、こりゃヤッたな。
    脳裏に浮かんだのはそんな言葉で、特に嫌悪もなにも感じていない自分に正直少しホッとした。
    そして、なんだか安心したような嬉しいような気持ちにもなる。
    裏社会に身を置いていた男二人がそういう関係になるというのは、世間的に見ればありえないことなのだろう。けれど、春日や趙のこれまでの人生を思えば、男だ女だ、ヤクザだマフィアだなんてことは、些細なことでしかないのだと思う。
    人の命がいくつも失われて、国の根幹を揺るがすような出来事に巻き込まれる中で、春日はかけがえのない存在を相次いで失った。一度は生きていく意味を見失ったような春日に、一緒にいられる人間がいたこと、それが趙であったことが衒いなく嬉しい。
    だが、それはまあ置いておくとして。
    この春日の浮かれようはどうだ。
    階段を上り切った春日が、音を立てないよう一応気をつけながら、扉を開けた。
    「大丈夫だよ、寝てるじゃねえか」
    春日のその言葉に、ナンバは起きていると伝えるタイミングを逃してしまう。
    しかし、春日の楽天的な言葉に趙が答えず無言でいるところを見ると、多分自分が目を覚ましていることに気づかれているだろう。
    「…でも静かにしてよ」
    しょうがないなとでも言うように告げた趙が靴を脱いで部屋にあがる気配がした。
    戸口と台所に背中を向ける形で寝ていたナンバはさてどうしようかな、と朝日がこぼれるカーテンの隙間を見つめる。
    「…ナンバが起きる前に間に合ってよかったぜ」
    そう言った春日が、ガサガサと買い物袋を漁る音がする。
    「お味噌汁?あ、春日くん先にお米研いでご飯炊いちゃって」
    「おう」
    「早炊きコースでセットしてね。わかる?」
    「わかる」
    二人のやりとりが恋人というより母親と子供のようで、ナンバは笑い出しそうになるのをぐっと堪えた。
    「お味噌汁何にしようか…。昨日の残りだとウインナーと卵と人参、玉ねぎ…」
    ブツブツと呟く趙の横で、春日が米を研ぐキレの良い音が聞こえてくる。
    「…お米研ぐの上手になったねえ…」
    「へへ、まあな」
    感心するように趙が言うと、春日は嬉しそうに声を弾ませる。
    「あ、そういやナンバがジャガイモ貰ったからカレー作って欲しいって言ってたな」
    「そうなの?じゃあ、人参と玉ねぎは残しておいた方がいいか…」
    「ウインナーと玉子焼いて、ケチャップかけて食いてえ」
    「わ〜子どもだ〜」
    「うるせえ」
    「そうするとお味噌汁の具が全滅じゃん…。下のプランター、なんか出来てるかな」
    「今トマトじゃなかったか」
    「そう?じゃあ、トマトのお味噌汁にする?」
    「いや、今度にしてくれ…」
    「出た〜。食わず嫌いだ。冗談じゃなくて、旨味が出て美味しいんだよ?」
    くだらないやりとりに、思わずナンバの口元が綻ぶ。そのうち、春日が炊飯器に釜をセットしてスイッチを操作する音が聞こえた。話しながら米を研ぐなんて芸当が出来るようになっていたのかと、妙なところで感心してしまう。
    「ナンバが貰ってきたっていうジャガイモってこれかな…?あ、けっこう量あるね。確か乾燥ワカメなかったっけ…あった、あった。よし、わかめとジャガイモのお味噌汁にしよ」
    台所のシンク下を漁る音がして、趙がそう言ったのでナンバは心の中でヨシ!と思った。
    「お、それナンバの好きな具じゃねえか?」
    「そうだっけ?」
    相変わらず春日の好み以外ちっとも覚える気のない趙が気のない返しをして、手際よくジャガイモを剥き始める音がする。
    シャリシャリと迷いなく皮が剥けていく音。手際のいい包丁さばきの音がこんなにも心地がいいなど、今まで思ったこともなかった。
    「ジャガイモそんな小さく切るのか?」
    「時短のためにね。火が通るの早くなるから。あ、ワカメ水で戻しておいて」
    「ん?」
    「あ、えーとね、ワカメ一握りくらいを水入れたボウルに入れて、水を吸わせて戻すの」
    「そのまんま味噌汁に入れて戻すんじゃダメなのか?」
    「うーん、時間ないなら仕方ないけど、あんまり美味しくないかなあ」
    「ふうん、そういうもんなんだな」
    春日は相変わらず、趙が味噌汁を作っているところに纏わりついて、アレコレと子供のように聞いている。そして覚えた知識を、ナンバに誇らしげに披露してくるのだ。
    今度はきっと乾燥ワカメの戻し方を自慢されるだろうなと思うと、自然と笑みが溢れそうになる。
    味噌汁を煮込む段階に入ったからか、二人の会話が途切れ、ガスの音と、炊飯器からの微かに水蒸気のあがる音だけが聞こえてくる。
    炊飯器と鍋から上がる蒸気で部屋の中がほんのり温まって、ナンバはこのまま起こされるまで寝てしまおうかと目を閉じた。
    「…春日くんさぁ、昨日ずっと『やべえ』って言ってて面白かったね」
    「だ…ッ、なに…!」
    しばらくしてウトウトしたところで趙が際どい発言をし、ナンバは一気に目が覚めた。
    「仕方ねえだろ!だって、あんな…!」
    「声でかいってば」
    狼狽えて声が大きくなる春日を、趙が咎めるように小声で嗜める。しかし、流石にこれは春日が気の毒だと思ってしまう。
    「やばかった?」
    「…やばかったよ」
    口を尖らせる様子が見えるような拗ねた声で春日が白状するのがおかしくて、ナンバは吹き出しそうになるのを必死で堪える。
    「ふふ、そりゃよかった」
    「…何だよ、いきなり…」
    「うん…俺さあ、春日くんとナンバと、三人のここでの暮らし、結構気に入ってるんだよね」
    「ん?おう、俺もだぜ?」
    「だからさ、ナンバが俺達に気を使って出て行くとか、そんなことになるのは嫌だなぁと思って」
    「そりゃ…」
    春日が複雑な感情を声に乗せて口籠る。
    こうして声だけを聞いてわかることだが、春日は顔だけでなく声も感情豊かで、戸惑った様子がよく伝わってくる。
    趙の言葉は、春日を言っているようで、ナンバに対しても出て行くなよと暗に牽制しているようなものだ。
    「…ここではそういうことしたくない。わかってくれる?」
    ナンバが起きているのをわかっていて、釘を刺すようなことを言うあたりなど、さすがに元総帥と言うべきか。やはり人身掌握に長けているなと、妙なところで感心してしまう。
    「い…」
    「え?イヤ?」
    意外そうに趙が聞き返すと、春日が少し口籠る。
    「…いない時に、イチャイチャすんのもダメか」
    思いがけないほど真剣な口調で告げられた春日の言葉に、趙は堪えきれずにブフッと噴き出した。
    ナンバも笑いそうになるのを必死で堪え、息を止めて背中を丸めた。
    「笑い事じゃねえよ。大事なことだ!」
    「ごめんごめん。フフフ、そっか大事なことかぁ」
    開き直って怒る春日に、趙はくすくすと笑い続ける。
    「うーん、どうしよっかな」
    「ちょっともダメか」
    「なあに、ちょっとって」
    思わせぶりな趙の言葉に春日が縋って、さらに趙が笑う。
    鍋の中身が沸騰する音が聞こえて、趙が動いた気配がする。小さく「もういいかな」と呟いた後に、ふわりと温かく味噌の匂いが漂った。
    そして、床の軋む音と、趙の愛用のレザージャケットが擦れるような音がする。
    「…これは?」
    「うーん、まあいいかな」
    春日の問いに、趙が笑含みの声で答える。
    「…じゃあ、これは?」
    「うーん…」
    趙の返事が曖昧になり、衣擦れの音がやけに聞こえる。
    言葉もなく、吐息だけで笑う二人がなにをしているのかは見えなかったが、部屋の温度が上がったような気がして、さすがにナンバが慌てた。
    おい、早速話が違うじゃねえかよ。
    「ふわ〜あ…」
    今起きましたよとばかりのナンバのわざとらしいあくびに、春日が文字通り飛び上がって驚いた気配がする。
    できるだけ台所を見ないよう、ナンバは伸びをしながら体を起こした。
    「…なんだ、うるせえなと思ってたら帰ってたのか」
    「ごめんごめん、起こしちゃったね。おはようナンバ」
    さすがに趙の声は、いつも通りの穏やかなものだった。
    「お、おう、ナンバ。遅くなったけど趙、連れて帰ってきたぜ」
    「はは、待望の味噌汁だな。よくやった一番」
    ナンバは小さく笑い、今度は本物のあくびをひとつして、台所に並ぶ男たちを見る。
    頭の後ろにお花畑が広がっていそうなほど浮かれ切った顔をした春日と、その横でいつものようにおたま片手に笑っている趙。
    しかしその趙の顔が、浮かれ切った春日よりもトロトロとしていて、ナンバは驚きを通り越して思わず真顔になる。
    「おい、趙」
    「ん?」
    「とりあえず、顔洗って来いよ」
    「え、なんで…」
    一瞬不思議そうに首を傾げた趙が、言葉の意味を正しく理解してみるみる赤くなっていく。
    春日がよくわかっていないままその顔を覗き込もうとして、趙は慌てて洗面所に駆け込んで行った。
    その様子を春日が狼狽えたように目で追いかけるのを見て、ナンバが呆れたように笑って立ち上がり、春日の隣に並んで鍋の中を覗き込む。
    時短のために小さく切られて角の取れた柔らかそうなジャガイモと、鮮やかなワカメの緑色。
    「お、ジャガイモとワカメじゃねえか」
    「へへ、ナンバ好きだったろ?」
    自分が作ったわけでもないのに、誇らしげに言う春日に苦笑する。
    「なあ、ワカメの戻し方って知ってるか?」
    趙が戻って来ないことをいいことに、さっそく春日が得意げに聞いてくる。ナンバがそれに「知ってるよ」と返すと、不満げに口を尖らせた。
    趙にあんな顔をさせておいて、本当にマイペースな男だと少し呆れる。わかってはいたが、こりゃ趙は苦労するなと僅かに同情してしまう。
    「…わっるい男だな、おめえは」
    ナンバがそう言うと、春日がまったく心当たりがないという顔をしたので、趙の代わりにその肩を小突いてやった。





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