短夜の蝉つけていたはずのエアコンも身体を重ねているうちに自動オフになり、湿度が高くなったこの部屋には先ほどまでの行為で乱れた呼吸を整えている2人の吐息しか聞こえない。
いつもより熱を持った身体は汗でしっとりして、「場地さん」と声をかけながら覆いかぶさってくる身体は暑さを増して仕方がないのか、ペタペタと吸い付いてくる皮膚を離すように身体を捻る。
「千冬、あっつい」
「ちょっ、場地さん逃げないで」
「あちぃーんだって、クーラーのリモコンどこ」
「あとで」と言うと熱った身体を腕の中に収め、満足そうに微笑み耳元ではわざとらしく、ちゅっちゅっと音をたてる。
諦めて腕の中に収まる彼の視線の先の窓からは、差し込む光の量が多くなり、部屋全体も明るくなっていることに気がついた。
「今、何時?」
「ん、5時ちょい前です」
「まじか」
「一晩中やっちゃいましたね」と笑う男の前髪をくしゃっと撫でて、
「やりすぎだろ」と口角をあげて笑い、「シャワーしてくるワ」と続けて声をかけた。
あーベタベタする…と思いながら、バスルームに向かう。
洗濯機の前に置かれている体重計に目が止まる。思い立って乗ってみると、表示された数字は56。
前に計った時によりも2キロも減っていて、一晩かけて愛された身体からはいろんな体液が出たことを思い出した。
「あーすげーいろいろ出たもんな、どうりでベタベタするわけだ」なんて思いながら、シャワーを浴びた。
スッキリした気持ちで髪の毛をタオルドライしながら、リビングにいる男に「体重計乗ったら、2キロ減ってたワ」なんてヘラヘラ笑いながら言うと、すごい形相で冷蔵庫からスポーツ飲料水を取り出して、
キャップを開けながら彼の方に近づいて「すぐ飲んで!!」と手渡した。
「ん?ありがと」と手渡されたスポーツ飲料水をごくごくと喉を鳴らしながら、水分補給をする彼を見て、
「あの細い体から更に水分抜けたの…2キロも…」と声にならない空気を漏らす。
スポーツ飲料水を片手に、前の行為で千冬もいっぱい汗かいたことを思い出して、
「千冬も飲む?半分こな?」とニコっと笑いペットボトルを手渡すが、
目の前の男の表情は険しいままで、「全部飲んで!!」と声を荒げてしまう。
思っていない反応に目をパチくりと大きくするがが、
「次から枕元に飲料水置かないとな」とまた空気を噛んでいるような声を漏らす。
「場地さん、体調変化ない?大丈夫?」
「んー、腹減ったくらい…ってか何怒ってんの」とずっと眉も口角も下がった男の機嫌を取ろうと、背中から腰に手を回しながら、恋人の肩に顎を乗せて尋ねてみる。
「俺はこの世界から2キロも場地さんがいなくなった事に責任感じてます…これ飲んでも500しか…」
思ってもみない答えに「何言ってンだ、お前」と男の前髪をくしゃっと撫で、
「じゃあ朝ごはん千冬が担当な」と続けて、笑った。
「場地さんを取り返すためにいっぱい作りますね!!」と表情が明るくなったことを確認すると
「はよシャワー行け」と背中を押す。
恋人の背中を尻目に、手慣れた手つきでコーヒー豆をセットした。
恋人が戻ってくるまでの間に、汗と体液と夏の匂いのする部屋を朝の匂いへと上書きしていく。
半分こ出来なかったペットボトルの中身をごくりと飲み干して。
おしまい