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    sanmenroppi03

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    sanmenroppi03

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    七夕の夜のウーミンです

    眠れぬ七夕 ここ数日、ミンミンは姿を現さなかった。いつものように厨房に遊びにきてくれるどころか、どうやらハランやリーチの授業も休んでいるようだった。

    「特に理由もなく休まれてしまってね……私もどうしたらいいか困ってるんだ。メッセージも既読が付かないから……」

     訳を聞きにきたウーロンに、リーチが困ったように首を傾げた。

    「全く何を考えているやら。まあ、あのように常日頃フラフラ眠そうにしておるから、体調不良もありえるですぞ」

     ハランが首を振りながら呟く。ウーロンは心配になってきたので、リーチを食事に誘うハランを後に厨房へ向かった。


     あの世と、日本の現世をつなぐ入り口の近くにひっそりと立つ「アパート木の虚」にウーロンはやってきた。お化けが出そうな築四十年のオンボロアパートだが、中に入ると近代的で綺麗な廊下が伸び、それぞれの扉に「雷羅」「クレイシャ」と住民のネームプレートが付いている。なんとオートロック式だ。ミンミンはここに住んでいる。ウーロンは、お見舞いとして食べやすい杏仁豆腐をボウルに作って持ってきた。少し緊張しながらインターホンを鳴らそうとする。

    「もう‼︎毎年毎年なんなんですの⁉︎眠れないからってそんなにお薬飲んで‼︎良い加減になさい‼︎」

     けたたましい叫び声が部屋から聞こえたので、ウーロンは思わず固まった。何やら中で言い争っているようだ。

    (そうか、ミンミンさんはマツリ様とルームシェアしてたんだった……)

     マツリはいつも寝てばかりのミンミンに世話を焼いている。たまに鬱陶しいネとミンミンが溢しているのを聞いた覚えがあった。ウーロンは少し迷って、ようやくインターホンを押す。不機嫌そうな足音が近づいてきて扉が勢いよく開くと、マツリが怒ったように金の髪を揺らしていた。が、扉の向こうに立っているのがウーロンだと気づくと、

    「まあ、ウーロンさんじゃありませんの!ごめんなさいね、てっきりクレイシャか雷羅かと……!」

    と慌てて謝り出した。ウーロンが気にしていないと告げると、

    「あら。……それは、ミンミンに?」

    と、杏仁豆腐でいっぱいのボウルに目を留めた。ウーロンはちょっと照れながらコクリと頷く。

    「あいにくミンミンは今日あまり調子が良くなくて……誰にも会いたくないと言ってましたわ」

     マツリが申し訳なさそうに言うと、ウーロンは代わりに渡して欲しい旨を伝え、ボウルを差し出した。しかし、マツリがふと黙り込んだ。

    「……そうね。ええ。ひょっとするとウーロンさんなら……」

     何やらブツブツ呟いているのでウーロンが恐々マツリを見つめると、急に腕を捕まれ部屋の中に連れ込まれた。

    「貴方なら会ってくれるかも!ミンミンたらもう三日ほど何も食べてなくて、貴方の作った物なら食べてくれるかもしれませんわ!」
    『三日⁉︎そんなに体調が悪いのか⁉︎』
    「どっちかというと、心の問題ですわ」

     訳もわからず、ミンミンの部屋の前まで連れてこられてしまった。マツリがコンコンとノックをし、

    「ミンミン!素晴らしいことが起きましたわ!貴方の最愛の彼氏、ウーロンさんが来てくれましたわよ〜‼︎」

    と高らかに言う。最愛の彼氏、というワードに思わず変な汗をかくウーロンだが、

    「ほらほら、出てきて見てごらんなさいな!あなたのために美味しそ〜うな杏仁豆腐を作って持ってきてくださったのよ!健気ですわ〜!愛らしいですわ〜!まるで七夕伝説の織姫と彦星のようですわね!」

    とさらに捲し立てる。マツリが口を閉じると、シンと静まり返るが、やがて扉の向こうから、

    「……今日は、か、帰ってもらっ、て」

    と微かな声が返ってきた。相当具合が悪いのだ、とウーロンが愕然としていると、マツリが横で盛大に鼻を鳴らした。

    「あ〜ら、よろしくてよ?それならウーロンさんと一緒にベルフェゴールに行って、レムとスローンと一緒に流しそうめん大会やってきますからね。杏仁豆腐も頂いちゃおうかしら〜?ね?ウーロンさん、こんないじけ虫放っておいて、世界一の美少女と流しそうめんやってた方が楽しいですわよね〜?」

     マツリがニッコリとこちらに笑いかけるので、ウーロンがあわあわとしていると、いきなり扉が素早く開いてウーロンを中へ引き連れてしまった。

    「……ふう、今年は、一緒に過ごしてくれる人がいてよかったですわね。ミンミン」

     固く閉ざされた扉を見つめて微笑み、いそいそと出かける準備をするマツリだった。



     何日も閉めっぱなしの遮光カーテン。空気の入れ替えもままならなず、水と、睡眠薬が床に散乱している。青を基調とした落ち着いた部屋は、より陰鬱さを増していた。
     尋常でない部屋の様子に困惑するウーロンの手を掴んでいる背の高いミンミンが、酷く追い詰められたような目で見下ろしてくる。ウーロンとミンミンは最近出会ったばかりだが、こんなに弱りきった表情のミンミンは見たことが無かった。

    「……しばらく顔出さなくてごめんネ。心配して会いに来てくれたアルか?」

     ミンミンが笑う。いつもの、心から嬉しい時の笑顔と違って、かなり無理をしているようだった。

    『杏仁豆腐なら、具合悪い時でも食べやすいかなと思って』

     ウーロンがボウルの杏仁豆腐を差し出す。プルンと弾ける純白の杏仁豆腐は、少し輝いているようにも見える。ミンミンはしばらく黙っていたが、小さくため息をついた。

    「……ごめん。私、今は何も食べたくないアル」

     眠そうな目が、一層暗さを増している。これは無理にでも食べさせた方がいいだろう、とウーロンは判断した。扉の外に、マツリが気を利かせて置いていった取り分け用の小皿とスプーンがあり、ウーロンはそれを拝借することにした。
     スプーンに少量杏仁豆腐を取り、ミンミンの口元に持っていった。平常時だったら恥ずかしくてできない行動だが、今はミンミンに食べて欲しい一心で整った唇をスプーンの先で突く。やがてミンミンはおずおずと杏仁豆腐を口に含んだ。舌で味わい、小さな喉が上下に動く。

    「やっぱり……ウーロンの料理はなんだって美味しいアルな」

     ウットリと呟いた。血の気を失って真っ白だった顔に、生気の紅がほんのりと差す。綺麗な唇が僅かにだが弧を描いた。ウーロンはそれを見てホッと笑う。ミンミンに自分の料理を食べてもらうのが何より嬉しいので、尚更だ。
     そこから二人で杏仁豆腐を少しずつ食べながら、静かに過ごした。ミンミンは落ち込んでいるようだったが、なんと声をかけて良いのかわからない。

    (うう……俺は口下手だから、こういう時どうしたらいいのかいつも困ってしまう……)

     そんなウーロンを見て、ミンミンがふ、と笑う。

    「お前は本当に優しい男アル。大丈夫、ウーロンの気持ちはよくわかっているヨ。ありがとう」

     逆に気を遣わせてしまった……とウーロンはしょげる。

    「本当は、七夕だからウーロンと過ごしたかったヨ……でも、私は七夕にいい思い出がなくて……毎年、七夕が近くなるととても……不安定になるし、過去にやってしまった失敗を思い出して、消えてしまいたくなるネ」

     ウーロンはミンミンのその心の内を聞いて仰天した。かつて天女だったと聞いていたので、華々しい過去があると思い込んでいたばかりに、恋人の悔恨が意外だった。思わずミンミンの華奢な白い手を握る。

    「そう。ウーロンは優しいから、そういう反応をしてくれるアル。そのせいで心配かけてしまうのが申し訳なかったから、言い出せなかった……それでも今年は、とてもマシ。お薬の量だってすごく少ない方アル。なんだか今回は耐えられる気がしたネ」

    ミンミンは目尻を下げ、ウーロンを見つめた。

    「ウーロンのおかげネ」
    『俺の……?』
    「ウーロンと恋に落ちることができたから、生きるのが楽しいと思えるようになったアル。今まで碌な人生じゃなかったけど、お前に会うために待った年月だと思うと、無駄じゃなかったと思えるヨ」

     ウーロンは元々赤い肌をさらに赤くする。ミンミンがその肌を優しく撫でた。

    「ウーロン、もう少し待ってて。私がちゃんと、七夕でも普通でいられるようになるまで」
    『……待たない』

     ウーロンが唸ったので、ミンミンは驚いたように口を閉じた。

    『ミンミンさんが普通じゃなくても、側にいたい』

     たとえミンミンの体調も精神面も優れない日があっても、一緒に過ごしたいとウーロンは思った。

    『……ミンミンさんが、よければだけど』

     自信がなさそうに小声で言うと、ミンミンはウーロンをソッと抱き寄せた。

    「来年は一緒に七夕過ごそうネ」
    『……ああ』

     ウーロンも嬉しそうにミンミンの肩を抱いた。そうやって寄り添っていると、やがてミンミンは穏やかな寝息を立て始めた。ウーロンは口の端を吊り上げると、ソッとベッドに寝かしつけてやった。

    (良い夢が見れていますように……)

     そう願いながら優しい頭を撫でてやると、ミンミンの目尻から涙が流れ星のようにスッと流れていった。
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