寂しい娘と優しい鬼 物心ついた時から[[rb:亥狸子 > いりこ]]は寂しかった。
母親の狸沙子は朝から晩まで戻らず、父親の炎人は面倒を見てくれるものの式神にほとんど亥狸子を任せて自室に篭ってしまう。
唯一世話してくれたのが、遠い西からやってくるマツリというお節介な風の神様だけだった。マツリが来てくれている間はとても良く可愛がってくれたのだが、頻繁に来ることができない距離なので、亥狸子は基本的に放って置かれて育った。
たまに狸沙子の気まぐれで猫可愛がりされたり、亥狸子の頭の良さを見込んで炎人が勉学を教えたりするくらいしか、家族団欒はなかった。
狸沙子も炎人も、自分のことの方がかわいくて仕方がない大人だったので、亥狸子は己が望まないまま、他人に期待をすることを諦めることになった。
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