ミサキと「そういう仲」になったのは、黄泉に引き摺られた天司を救うと決めたあの日の夜。
無事に二人で帰還できたことを喜び、巣籠もりの動物の如く互いを慈しみながら夜を迎え、京一郎はミサキを再び同じ寝台へと誘った。
「お前なあ、男を寝台に誘うって意味わかってんのか?」
ミサキのいつものぶっきらぼうな口調に甘さが滲んでいるのは、きっと思い過ごしではないだろう。
無論、京一郎とて最初からそのつもりだ。
「もちろんわかってるよ。それにミサキ、根の道で言っていたじゃないか」
身体を寄せ、ずっと上背のあるミサキを見上げる。
延べた指先で、その形の良い唇に触れた。
「唇は帰ってからのお楽しみだ、って」
「ああ、もう……!」
ミサキの腕に強く抱き締められる。
近づいてくるミサキの唇に、京一郎も背伸びをするようにして唇を寄せた。
初めての口づけは京一郎がミサキを救うため、二度目はミサキが京一郎から息吹を抜くためのものだった。
しかし、今は違う。
三度目の今宵は、二人は恋人として互いを求め合う、情愛と官能に満ちたそれだった。
「っ、は……、ミサキ……」
角度を変えながら繰り返される口づけに、京一郎は陶然となる。
ふふ、とミサキが忍び笑う声が聞こえた。
「一丁前に色っぺえ顔しやがって」
そう言うミサキこそ、瞳には情欲が宿っている。
それはきっと、京一郎も同じだろう。
「口、開けてみな」
促されるままにそっと唇を開くと、再び口づけられ、そこからミサキの熱い舌が入ってきた。
「ん、ん……!」
反射的に引いてしまった舌を絡め取られ、上顎を舐められる。口の中がこんなに感じるだなんて知らなかった。
「んっ、ふ、ぁ……、ぁ……っ!」
うまく呼吸ができなくて苦しい。逃げ場のない熱が胸の辺りで渦を巻く。
無意識に逃れようとする身体は、ミサキの腕に阻まれ、さらに強く抱きしめられた。
「は……ぁ、ふ……ミサ、キ……」
ミサキの舌に誘われるように、身体の奥からどんどん熱が呼び覚まされる。
苦しくて、でも気持ちが良くて、頭の芯がくらくらする。
「……っ、と」
いよいよ立っていられず、京一郎が膝を折ったその瞬間、力強い腕に抱き留められた。
口づけから解放された京一郎は、ミサキの腕の中で大きく胸を喘がせた。
「はは、酸欠起こしちまったか」
「もう……ミサキが長くするから……」
「悪いな。けど、すぐに慣れるだろうよ」
「助平……」
「お、意味わかったか」
京一郎の呼吸が落ち着くまで、ミサキはそのまま背中を撫でていてくれた。
やがて落ち着いてくると、今度は置き去りにされていた快楽の先触れが燻りだしてくる。苦しいほどの愉悦の記憶が、今や快美に変わっていた。
「……ねえ、ミサキ」
「どうしたよ」
ミサキに縋りつき、京一郎は乞う。
「さっきみたいなの、もう一回しよ?」
「なんだよ。下手すぎて酸欠起こしたばかりのくせしてよ」
「すぐに慣れるから。ね?」
「……ったく、しょうがねえな」
そう言うミサキの声色は、やはり甘い。
礼を言う代わりに、今度は京一郎から口づけた。
ほどなくして、再び舌が絡み合う。
今宵二度目の口づけは、過ぎるほどに甘く、優しかった。