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    ごま子

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    ごま子

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    #bnym

    恋愛指導する万斉と童貞山崎のやつ 七月になったばかりのある日のことだ。
     山崎は校門へ続く道へ視線を向けた。
     太陽が照りつけ、ギラギラと光を反射する地面からは陽炎がのぼり、降り立った小鳥が慌てて空へと羽ばたく。
     考えただけでも汗の流れる光景が目に映った。
     梅雨が明け、やっとじめじめとした季節が過ぎたと思えば、今はもう灼熱の日々だ。
     これからあの太陽の下を帰らなければならないのかと溜め息をつきながら、山崎は自分の名前が書かれた靴箱の前に立った。
     肩に引っ掛けたバッグを一度掛け直し、上履きを脱ごうと立ったまま踵部分を踏みつけるがなかなか脱げない。仕方なく背中を丸めて手を足に伸ばすが、「あ」と小さく声を上げて、ピタリと止まった。
     忘れ物をしたことを思い出したのである。
     忘れ物は、二階の教室だ。
     山崎はこのまま忘れてしまったことにして帰ろうかとも一瞬悩んだ。だが、引っ掛けていた指をすぐに離し、キュッキュッと軽い音を立てながら教室へと向かう。忘れたのは体操着だった。たった一枚とはいえ、この暑い時期に汗を吸った体操着を放置しておくのは若干だが気が引ける上に、ふざけたクラスメイトにより転倒したせいで砂埃も付いている。
     更に言えば明日も体育はあるのだ。明日の洗濯に二枚も出せば、放置したことがバレて親に口煩く言われてしまう。
     山崎は顔を真っ赤にして怒る親の顔を忘れるように顔を振ると、運動部の声を聞きながら二年の教室が並ぶ廊下を歩いた。
     今月を乗りきれば、もう夏休みだ。きっとリア充は、彼氏や彼女と楽しい思い出作りに励むのだろう。
     残念なことに山崎には彼女がいない為、男同士で花火をし、祭りへ行き、プールや海へ行き、彼女持ちの知り合いに合えばからかってやる。何て楽しい夏休みだろう。知らず知らずのうち、山崎の口元には笑みが浮かんでいた。目には涙も滲んでいた。
     あっという間に到着した教室には、もちろん誰も残っては居なかった。

    「ん?」

     ロッカーの中で忘れられていた体操服をバッグにねじ込んで、ふと窓の方へと顔を向けると、向かいの校舎に二人の人影がちらりと見えた。
     そこには男女二人が、顔を近づけている姿があった。顔を寄せられている男子生徒には見覚えがあり過ぎるほどあり、山崎は思わずハッと息を呑んだ。
     男子生徒は、やれ不良だ、ヤンキーだと噂されている河上万斉だ。
     河上に顔を寄せる女子生徒の方はこちらに背中を向けており、誰かは分からないが小柄に見える。いや、河上が相手ならば、基本的には誰でも小柄に見えるかもしれないが。

    「えっ。まじか!」

     何だか見てはいけないものを見てしまったような気持ちになった山崎は、慌ててその場にしゃがみ込むと、そのまま低姿勢でそろそろと教室を立ち去ることにした。
     山崎が見ていたことがバレたとしても、きっと河上はさほど気にはしないだろう。
     だがこちらが耐えられない。
     見つかる前に退散すべきと判断した山崎は、素早く廊下へ飛び出すと、そのまま玄関へと走り出した。
     向かいの校舎では、脱兎の如く逃げ出したその姿を河上がしっかりと見ていたが、山崎が気付くわけもなかった。

    「あの者は…」

     接点のない二人であったが、このことをきっかけに、奇妙な関係へと転がり落ちてしまうこととなる。


    **


    「なぁ、聞いた?」

     前の席に座る友人から小声で話しかけられた山崎は、紙パックについているストローを伸ばしながら顔を上げた。

    「何?」
    「ほら、隣のクラスの河上っているじゃん。あいつさぁ、すっげーヤリチンらしい」
    「はぁー、まじでか」

     山崎は、先日見た河上を思い浮かべながらリンゴジュースを吸い上げた。
     噂好きの友人によると、河上は百人斬りだとか何とか、いつの時代の話? という例え方をされるほど、女を取っ替え引っ替えしているそうだ。
     口元を手で隠しながら顔を寄せた友人は、こそこそと耳打ちしてきた。

    「一人で暮らしてるって噂もあるし、それでヤリたい放題なんじゃね? 連れ込みまくって毎日ヤッてたりして」
    「えぇ、なんかそれ逆に胡散臭い」
    「お前、童貞だろ? 仲良くなって女子紹介して貰ったら」
    「バカかお前! 仲良くなるとか無理だし、童貞とか言うなし」

     小声とはいえデリカシーのない事を言い出した友人の上履きを、山崎は思い切り踏みつけながら鋭く睨みつける。
     そんな視線をものともせず、山崎の足から抜け出した友人は軽い調子で謝ると、自分の席へ戻ると言い残してさっさと離れてしまった。
     すっかり空になったジュースを乱暴に潰した山崎は、席を立って教室の後方へと向かう。歩きながら、先程の友人の言葉を思い出した山崎はぼんやりと想像をしていた。
     高校生でひとり暮らしなんて、自分だったら出来るだろうか?
     それこそイケメンであれば、女子が気にかけて自宅へ来る事もあるだろうかとも考えたが、確実に友人たちの溜まり場になる光景しか想像できなくなってしまい、山崎は考えるのを止めた。
     そんな山崎がゴミ箱の前に立ったとき、ざわり、と教室の空気が変わった。
     それまで賑わっていたクラスが、一瞬静まり返ったかと思うと、小声での話し声が波紋のように広がり始める。
     皆が皆一様に揃って廊下を伺っている光景に、山崎も何事かとすぐ側の出入り口から廊下に視線をやれば、皆の注目を集めている正体が何なのかは、すぐに分かった。
     相変わらず校則違反のシャツを着て、ヘッドホンとサングラスを着けた河上が珍しく女子を連れて歩いていたからだ。
     纏わり付くように腕を組んでいる女子生徒も、河上程ではないが不良との付き合いが囁かれている生徒で、まぁまぁに派手な見た目をしている。コソコソと噂を立てられても気にした素振りは一切見せない所か、男好きという噂のせいか、一部の女子からはよく思われていないようだ。
     つい数日前に、恐らく可愛かったであろう女子に顔を寄せられていたというのに、もう違う女子と歩いているとは。

    「うわ、違う女連れてるし」

     ポロッと口からこぼれた瞬間、山崎と、女子生徒と河上は一線上に並んでいた。その他大勢の注目を浴び、それなりに騒々しい廊下で山崎の一言が河上に聞こえていたとは思えない。
     もしかしたら、山崎と河上の間に居た女子に目を向けたのかもしれない。
     だが、サングラス越しの視線は確実に山崎をチリリと射抜いた。ほんの少し傾けられた顔に光が反射し、見えないはずの視線がぶつかってしまった。
     ただそれだけの事だったが、山崎はまさかの出来事にバクバクと鼓動を早めた心臓を押さえながら席に戻る。
     聞こえてしまったのだろうか。だが、あの小さな声が届いているとも考えにくい。
     自分の机に戻った山崎は、答えが出ずにぐるぐるとひたすら回転し続ける頭を抱えて額に汗を浮かべた。
     他の生徒も珍しいものを見たとはいえ、興味を失ったのかすぐにまた別の話題で盛り上がっている。どうせ暫くすれば昼休みも終わる事だと、山崎は机に伏せて過ごす事にした。




     山崎はその日の夜、嫌な夢を見た。

     誰もいない教室で、山崎は廊下のど真ん中に立っていた。ふわふわとした感覚に、あぁこれは夢だと気が付いた瞬間、目の前には昼休みに廊下を歩いていたあの二人が現れた。
     そして、山崎など見えていない様子で二人はいちゃつき始め、ついにはおっ始めたのだ。
     逃げ出そうにも体は硬直したように動かない。視線すら逸らすことも出来ない山崎は、ただ目の前で繰り広げられる熱いキスと、突っ込む河上に突っ込まれる女子生徒というカオスな光景を見せつけられている。
     悲しいことに、未だ見たことのない女子の服の中は想像でしかないからか、靄が掛かったようにしか見えないところが夢らしい。いやらしい気持ちよりも、段々と腹が立ってきた山崎は、大声で二人を罵倒した。
     あっちいけ、変態! 露出狂!
     声にならない声が、頭の中で回っている。
     そして山崎の方を振り向いた河上が、ずいっと顔を近づけてこういった。

    「童貞の僻みでござるか」

     少しでも動けば触れてしまいそうなほど近くで、河上の唇が弧を描いている。
     いつの間にか女子生徒は消えていて、驚いて腰を抜かした山崎は、河上を見上げていた。
     にんまりと笑った河上は、動けずにいる山崎の目の前に屈んで大きな両手で山崎の頬を挟む。
     ひい! と情けない声を出す山崎に構わず、河上は頬に触れたままだ。そのまま首筋を撫でる手つきにぞわぞわと背筋を震わした山崎は、再び顔を寄せてきた河上をどかそうと必死でもがいた。
     動かしているはずの腕は届かず、ついに河上の唇が山崎の唇を捉えかけたその時、山崎は目を見開いて飛び起きた。

    「ハーッ! ハーッ! お、起きれた……」

     とんでもない夢を見てしまった。
     うっすらと額にかいた汗を拭い、時計を見ると早朝五時。まだまだ寝ていていい時間だ。
     ひとまず早い鼓動を落ち着かせようと、三角座りで深呼吸を繰り返している山崎は、ん、と違和感に気付いてしまった。

    「…………は?」

     おへその下。ちょうど股の間についているアレは、何をどう間違えてしまったのだろうか。
     冷や汗を垂らす山崎の表情とは裏腹に、ひっそりと立ち上がっていた。
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