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    めしこ

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    めしこ

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    伏乙ウェブオンリー展示作品です。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17530347のつづきになりますので、先にそちらから読んでいただければと思います。
    前作の二人がさらに距離を縮めて、伏乙未満から伏乙に片足を突っ込むところまでを描いています。

    #伏乙
    voltB

    甘えさせ上手な人「先輩、焼肉でもいいですか?」

    俺のいきなりの提案に、先輩は心当たりがまったくなかったようで、大きな目を更に大きくして驚いていた。

    「えーと…なんのこと?」
    「こないだのお礼です」
    「なんだっけ?」
    「だから…その…膝枕の…」

    『膝枕』と言葉を口に出したらあの日の出来事が妙に生々しく蘇って、途端に恥ずかしさが込み上げて、俺は思わず視線を先輩から逸らした。
    焼肉に誘ったのは連日の任務で倒れかけていた俺に膝枕をしてくれた先輩へのお礼だった。怪我や呪力の使い過ぎで自分史上最高に疲れていた体は、不思議なことにあの日の先輩の膝枕でゲージ満タンと言っていいほど回復した。エナジードリンクを何本も飲んだり、しっかり眠ってもなかなか取れなかった体のダルさがすっきりと取れたのだ。先輩の膝はRPGに出てくるようなヒーリングスポット的ななにかではないかと思ったほどだった。
    お陰で俺は五条悟から与えられたイジメとも取れるような滅茶苦茶な任務スケジュールを最後まで成し遂げることができた。先輩の膝枕がなかったら途中で心折れていたかもしれない。呪術師としてのスキルも相当上がった。だから、お礼をするのは俺の中で当然のことだった。

    「え…もしかしてあの日のこと!?いいよ、そんな!たったあれだけのことで焼肉とか不相応すぎるよ!」

    『たったあれだけのこと』という言葉に、グサリとナイフのようなもので胸を刺された感覚がした。先輩からしたらそうなのかもしれないけど俺にとっては貴重で、忘れ難い出来事だった。
    正直、あの日から何回も先輩の膝枕を思い出していた。思い出していた…というか頭から離れなくて、さすがに自分でも気持ち悪いから掻き消そうと試みるのだけど、なぜか消しても消してもまた浮かんでくるのだ。
    だから先輩の反応に残念な気持ちになってしまった。焼肉に誘ったのだって、単にお礼だけじゃない。先輩ともっと一緒に過ごしてみたいという下心めいたものもあった。

    「いいんです。お礼しないと俺の気がどうしても済まないんで。何も気にせず、先輩はただただ美味しく食べてください」
    「で、でも…。あの連日任務を労う意味でむしろ僕がご馳走したいくらいなんだけど」
    「ダメです。俺がご馳走します」

    でも…だって…。どっちがご馳走するかの押し問答を10ターンくらいしたところで、俺がちょっと凄んだらそれに怯んだ先輩がついに折れた。たぶんきっと、まぁまぁ脅迫めいていた。最終的にはバカ強い先輩が怯えたウサギみたいな表情で了承した。
    先輩ってあまりこだわりのない柔軟なタイプに見えて、変なとこで頑固なのだと知った。






    「えーっと…僕焼肉ってほとんど初めてで…」

    約束の日、俺たちは高専のある山から一番近い街にある焼肉屋に来ていた。高校生だけで飲食していてもなんの違和感もない、大衆的な店だ。席に通されると先輩はメニューとずっと睨めっこしては何を頼むのかずっと悩んでいた。俺は先輩の食べたいものを食べて欲しかったから、急かすわけでもなくただその様子を静かに眺めていた。

    「…じゃあ僕これがいい」

    悩みに悩んだ先輩がようやく選んで指差したのは、キャベツをごま油と塩昆布で和えたサラダだった。

    「いや…先輩ここ焼肉屋ですよ。これも頼みますけど、もっと肉を頼んでくださいよ」
    「ん〜。僕、焼肉って何を頼んでいいのかよく分からなくて」
    「じゃあ俺が適当に頼むんで、とにかく食べてください」

    俺が適当に2人前くらいの注文をすると、しばらくして肉やら野菜やらが運ばれて来た。焼肉なんて珍しいものでもなんでもないと思うけど、俺がそれらを焼く様子を先輩は珍しそうに眺めていた。先輩の言葉通り焼肉はほとんど初体験のようだ。
    「僕も焼いてみたい!」なんてまるで子どもみたいな目で言われて、キラキラと瞳を輝かせながら肉を焼く姿は何というか…シンプルに形容すれば、まぁ、それはかわいかった。先輩の任務に何度か付いて行ったこともあるけど、呪霊に対してあんなに容赦のない戦い方をする人と同一人物と思えない、子どもみたいな無邪気さがそこにはあった。
    自分で焼いた肉を、先輩はとても嬉しそうに口の中へ運んでいく。その様子を見ていたら、俺はそんなに食べてないのになんだかお腹いっぱいになってしまった。

    「…僕さ、実はお肉ってあんまり得意じゃなかったんだけど、すごく美味しいね」

    先輩が肉を頬張りながらふにゃりと幸せそうに笑ってそう言う。

    「え、そうだったんすか。それならもっと早く教えてくださいよ。そしたら違う店選んだのに」

    このくらいの年の男だったら全員肉好きかと踏んでいたが完全に読みが外れた。俺って全然先輩のこと、苦手な食べ物すら知らないんだなとなんだか少し落ち込む。

    「ううん、それは全然気にしないで。美味しかったから嬉しい」
    「…そう言われると救われます」
    「自分で焼いたからかなぁ…」

    そこまで言って先輩は食べる手を止め、俯いてじっと焼き肉のタレを眺めながらしばし考える。

    「それとも伏黒くんと一緒だからかな?」

    俯いていた顔を上げた先輩が、少し照れくさそうに笑いながらそう言った。
    先輩の言葉がわざとなのかわざとじゃないのか知らないが、膝枕してもらった日みたいに心臓がキューッと締め付けられて鼓動が早まる。
    なんだこれ…なんだこの感覚。それは人生で未だかつてない感覚だった。これはもしかして、恋とかときめきとかそう言った類のものなのだろうか。いやいや、まさか。だって先輩って男だし。おかしいだろ。頭の中は否定と肯定でグルグルと混乱していた。

    「あ、伏黒くん」
    「え…」

    俺が固まっていると、先輩が自分のおしぼりを使って俺の口の端を拭う。

    「ふふ、口の端にタレがついてたよ。伏黒くんって案外かわいいところあるんだね」

    先輩がまた微笑む。さっき肉を頬張っていた時と同じ、ふにゃっとした、柔らかい羽毛みたいな笑顔。天使って実在したらこんな感じなんだろうか。なんて、リアルなものしか信じない主義なのに、そんな馬鹿みたいなことが一瞬頭をよぎった。

    「あ、ごめん。かわいいとか嫌だし、男に口拭かれるのとかよく考えたらキモいよね」
    「や…あの、いっいいです、別に…」

    だめだ、言葉が上手く出てこなくてどもる。顔が真っ赤になって先輩を見ることができない。先輩にされても嫌じゃない。むしろ嬉しい。というか嬉しいを通り越してもはや自分じゃ処理不可能な感情になっていた。
    俺が俯いたまま黙っていると「大丈夫?」と先輩に顔を覗き込まれる。大丈夫じゃないです、ぜんぜん。お願いだからあんまり顔見ないでください。今、最高にダサい顔してるんです。しかもその覗き込んだ顔、大きい目がさらに強調されてめちゃくちゃ可愛いんです。やめてください、心臓が爆発しそうで。

    「ごめんね、僕妹がいるからつい妹にしてたみたいにしちゃった。初めての後輩だからかな。なんか…ついついお世話焼きたくなっちゃってさ」

    心臓が爆発しそうになったのも束の間、今度は先輩の言葉に心にもやがかかる。今日の俺は先輩の言動にいちいち一喜一憂振り回されて感情が忙しい。こういう落ち着かないのは苦手で、自分が自分じゃないみたいで気持ち悪い。
    現時点では先輩からしたら、俺は妹みたいとか、ただの後輩というだけの存在なんだと思い知る。でもそれじゃ満足できない自分がどこかにいた。もっと違う、先輩の特別になりたいと思う自分が。






    焼肉屋を出て駅までの道を歩く。夕方に店に入って、外に出たらすっかり辺りは暗くなっていた。決して大きな駅ではないが駅前にはいくつか飲食店があって、灯りや人通りで暗いにも関わらず賑わいがあった。
    時計を見ると夜19時30分。門限の21時までまだ時間はある。

    (このまま帰りたくない)

    自分の心に正直になればそう思っていた。焼肉屋での時間はヤキモキすることもあったけど本当に楽しい時間で、決して普段はあまり自分の話をペラペラ喋るタイプではないのに、なぜだか自分の話をいつの間にかよくしていた。
    乙骨先輩は、不思議だ。戦闘中を除けば二つも年上なのにちょっとドジっぽいというか、頼りなさそうだったり見ていて危なっかしいところもあるのに、不思議と自分の全てを曝け出してもいいと思わせるなにかがある…と今日二人きりでじっくりと話してそう思った。
    たぶん、先輩は真っ直ぐ目を見つめて、ただただ話を聞いてくれるからかもしれない。決して人を否定したり、押し付けがましいアドバイスをしたり、変に茶化したりすることがないからつい心の内を話してしまう。この人ならばなにを言ってもふざけたりしないで真剣に受け止めてくれる…そんな気がした。
    まだ、話し足りない。もっと知りたい。焼肉屋では自分の話ばかりしてしまったから、今度は先輩の話をもっと聞きたい。そう思っていた。

    「先輩、まだ…。もう少しいいですか?」

    駅舎が見えかかった頃、俺は立ち止まってそう聞いた。立ち止まった場所は人気のない、滑り台とブランコが一つあるだけの小さい公園の前。ここでもう少し一緒に過ごしたかった。

    「えっ、うん。もちろん!」

    先輩は少し驚いて、公園の時計に一瞬目を見遣ったあとそう答えた。
    ブランコに横並びに座る。吹く風は冷たい中にも少し生暖かさが混じった、もうすぐ春に変わる風だった。

    「…楽しかったね、焼肉」

    自分で誘っておきながら何から話そうか俺が悩んでいると、先輩が先に口を開いた。
    肉が苦手だと知った時は焦った。その上結局自分の話ばかりになってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだったのに、楽しかったと言われて少しホッとする。

    「…なんかさ、後輩っていいなって今日思ったよ。僕、これまで後輩っていう存在ができたことなかったから、なんか新鮮で。真希さんとか、同級生ともちょっとまた違うっていうか…」
    「…はい」

    また、後輩。自分の中で残念に思う気持ちと少しの苛立ちが交差する。
    なぜ先輩の言葉一つでこんなにもイライラしたり、心が躍ったりするのだろう。その答えに俺はもうとっくに気がついわていた。

    「伏黒くんが今日は自分のことたくさん話してくれて嬉しかった。なんか頼られてるみたいでさ。でも先輩なのに奢られっぱなしだとなんか申し訳ないから、お礼させてよ。何がいい?」

    先輩がブランコを軽く揺らしながら笑顔でそういう。その笑顔が宝石みたいにキラキラ光って見えたのは、月明かりと公園の照明のせいだろうか。綺麗だと思った。

    「何がいいって…」

    そう聞かれて言葉に詰まる。真っ先に頭に思い浮かんでしまったのは、膝枕だ。あの日からずっと頭から離れなくなってしまった先輩の膝枕の感触。できることならもう一度味わいたかった。だけど膝枕なんてまたリクエストしたら、それはもう俺が先輩に、先輩後輩以上の気持ちを抱いていることがバレてしまうのではないかと思った。今先輩に好意を伝えてもきっと先輩を困らせるだけだ。

    「また膝枕にする?」

    そんなことを考えたいたら先輩が俺の心を読んだかのようにまさかのタイミングでそう聞いてきた。

    「あはは、なんてね「…お願いします」

    先輩は本当に冗談のつもりだったのだろう。俺の間髪入れない答えに、少し驚いた顔をしていた。

    「えと、伏黒くん。今のは冗談で…。膝枕なんかより、もっと伏黒くんが好きな食べ物とか、欲しいものとか、そういうのでいいんだよ?」
    「…先輩の膝枕がいいです」
    「も〜!遠慮しないでよ!お金のこととか気にしなくていいからなんでも言って!」
    「膝枕がいいんです」
    「だから遠慮しないでってば!僕の膝枕なんてご褒美でもなんでもないよ?」
    「…」
    「…あ…えと…。ほ、ほんとに膝枕でいいの?」

    押し黙った俺の表情を見て、先輩がそう聞いてきた。
    食べたいものも、欲しいものも、なにもない。俺は乙骨先輩が欲しい。

    「えーっと、じゃあ、こんなんでよければ」

    公園内のベンチに移動すると、先輩がズボンを手でパパッと払い、どうぞ?と言うようにおずおずと膝を差し出してきた。俺はありがとうございますと一言断って、遠慮なく膝に頭を乗せた。
    あの日から頭の中で何度も何度も反芻していた先輩の膝枕。でも、あの日の膝枕とは違う。気持ちいいとか、心地よくて眠くなるとか、そんなんじゃない。ドキドキする。心臓が強く鼓動を打ちすぎて先輩に聞こえるんじゃないかと思うくらいだ。

    「あれ?伏黒くん、なんか具合悪い?顔が赤いけど大丈夫?」

    俺が先輩を直視できなくて固く目を瞑っていると、先輩が俺の額に手を置いてきた。

    「熱は…ないみたいだね。でもなんだか疲れてるのかもね。僕の膝でよければゆっくり休んでね」

    先輩が熱を確認するために置いた手のひらで、俺の額をふわりと撫でる。手のひらから先輩の優しすぎるくらいの優しさを感じる。だけど優しいだけじゃなくて、刀を握るためにできるマメのザラザラとした感触もして、先輩が普段どれだけ厳しい努力を積んで死と隣り合わせのところで戦っているのかが伝わってくる。

    「…好きです」

    気がついたら想いを口にしていた。自分でも思っても見ない発言だった。今告白しようなんて微塵も思ってなかったし、そもそも好きだと気づいたのも今日のことだ。それなのに気持ちが溢れて止まらなかった。

    「え?えーっと…。うん、ありがとう」

    だけど先輩はいかにも先輩らしく、俺の言葉の真意には気づいていないようだ。でもここまで来てしまったのだから、もうここで引き下がることはできない。後になるか、先になるかの話だ。先輩への想いはこれからも変わらないし、どうせいつかはこうなるのだから勢いに任せてしまおう。俺は膝枕から起き上がり、ぽかんとしている先輩の瞳を真剣にじっと見つめた。

    「好きって言うのは、恋愛的な意味で、です」
    「…え!?そういう…!?えと、あの…どうしよう」

    先輩の驚いてまん丸になった目がみるみるうちに戸惑いを帯びていく。

    「いきなりでどうしたらいいのか…わからなくて…。うん…ごめん」

    先輩の心底困ったという表情を見て、膨らんだ風船からシューっと空気が抜けるように、勢いに任せて告白したことを悔やんだ。普段の俺なら後先考えてから行動するのに、柄にもなくそうしなかった結果、目の前に所在なく狼狽えているしている先輩がいる。己の勝手で先輩を困らせていることが無性に不甲斐ない。クソ真面目な先輩のことだから、気に病みまくって眠れなくなるくらい悩んでしまうかもしれないってわかってたのに。

    「…すいません。いきなりこんなこと言われても困りますよね。別に気持ち伝えられただけで十分なんで。忘れてもらって構いません」
    「あ…うん…」

    先輩が下を向いて押し黙る。バカ強い先輩がなんだか小さく見える。誰かに告白されるとか、慣れていないのかもしれない。

    「あの…伏黒くん」

    門限も近いし、これ以上ここにいても先輩に気まづい思いをさせるだけだから、もう帰った方がいいのかもしれないと思って俺がベンチから立ち上がった時だった。立ち上がった俺のTシャツの裾を掴んで、先輩が呼び止める。振り返って見下ろすとこの薄暗い中でもわかるくらい、頬を赤く染めた先輩がいた。

    「…忘れてくださいは悲しいなと思ったよ。こんなこと言われてさ、忘れられるわけないじゃんか」

    先輩の瞳はなんだか潤んでいて、吸い込まれそうなくらい澄んでいた。Tシャツの裾を握る手に力が入っている。

    「えっと…、それって…」
    「まだ付き合うとか、恋愛感情とか、そういうのはよく分かんないけど。伏黒くんのこともっと知りたい。それじゃだめかな?」

    そこまで言って耐えられなくなったのか先輩が俺を見つめていた視線を外す。先輩の頬はさっきよりももっと赤くなっていた。と言うか俺も人のこと言えない。頬どころか耳たぶまで熱くて、先輩のことがまともに見れない。脈拍は上がって、手には汗が滲んできた。嬉しい。シンプルに、嬉しい。それも今まで生きてきた中で一番と言っても過言でないくらい、特上に。

    「ダメじゃない、す。十分です。ありがとう…ございます」
    「う、うん。よろしくお願い…しま…す?」
    「…はい!」

    先輩がきごちなく差し出してきた手のひらを、俺はTシャツで自分の手を軽く拭いて、強く握り返した。
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