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    牧 祥吾

    @operation_m

    水木しげる・平成以前悪魔くん(二埋・山田・松下)、仏ゾーン(アシュセン・八部衆)で活動中。

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    牧 祥吾

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    キスの日ということで、昔、オフ会の罰ゲームで承った『メフィスト×山田でちゅー!』を再掲載したいと思います!(あれ罰じゃなくね)

    三部作の、二話目です!

    ※設定は[救世主計画]準拠です。ご注意ください。

    xxx -side A- 生きていくには、一つのものがあればいい。
     どんなに傷ついても、苦しくても辛くても、それがあるだけで挫けずに済むもの。どれほどの失意と絶望を味わっても、それに縋れば生きていけるというもの。
     何でもいいのかもしれない。それが人によって各々違うということは、実際何でもいいのだろう。
     彼の場合は、既に否応なく決定してしまっていた。
     何があっても、生きていけるもの。

     憎悪。

     手にした剣が、甲高い音を立てて空を斬る。男はそれをぎりぎりでかわした。
     長剣。大剣のように、叩きつければいい、という武器ではない。どちらにせよ、当たらなければ意味はないが。
     慎重に間合いを計る。剣を振りながら扱える魔術は、自ずと限定される。この男相手にどれだけ通用するものか。
     そんなことを考えているうちに、男が一歩踏みこんできた。素早く後退するが、相手の方が早い。慌てて、呪文を唱えかける。
     が、それすらも許さず、男はまず剣を持つ右手を払いのけた。手首に激痛が走り、思わず剣を取り落とす。それは石造りの床に落ちる前に、空気に溶けるように消えた。
     一つ舌打ちをして、更に後退を試みるが、二歩も下がらないうちに背中が壁にぶつかった。一瞬視線が背後に向いたのを、男は見逃そうとしなかった。
     手荒に左手を捩じり上げられ、そのまま手の甲を壁に押しつけられる。悲鳴を上げそうになるのを、何とか飲みこんだ。男は自分よりも背が高い。吊り上げられた肩が、抜けそうなほどに、痛む。
     今の自分には、関節はいつにも増して急所となっている。彼がそれを知っているかどうかは判らないが。おそらく、彼の意図は自分の左手の甲から出現する〈風の紋章の剣〉を封じることだろう。
     魔術が使える以上、別に今の状況は危機ではない。冷静に、そう判断する。
     だが、それでも。
     至近距離で彼の顔を見ると、感情の抑えが効かなくなる。
     知らず、呟いていたのは呪文ではなかった。
     全く意味のない単語。
    「……メフィスト」
     彼の名前。

    「真吾」
     相手も、同様に意味のない言葉を呟いた。
     打つべき手はいくらでもある。
     右手は拘束されていない。両足も。彼の身体に一撃を入れて、この支配を脱することは可能なはずだ。
     または、左手一本を犠牲にするか。〈風の紋章の剣〉はおそらく扱えなくなるだろうが、それだけが攻撃手段だというわけでもない。
     若しくは、このまま決定的な魔術を放つか。致命傷に近い状態に追いこむことはできるだろう。自分も同等以上の被害を受けるにしても。
     メフィストフェレスの左手が動いた。無造作に山田の顎を掴み、上を向かせる。
    「……大きくなったものだ」
    「何を今更そんなことを云っているんですか?」
     苛立ちを隠せず、返す。再び出会ってから自分が封印されるまで、少なくとも数度、彼らは顔を合わせている。再会したときには、既に自分は成人していた。驚くようなことではないだろうに。
     だが、メフィストフェレスは更に続けた。
    「お前を置き去りにしてから、ずっと。儂が思い出すのは、いつもまだ子供のお前だった」
    「呆けているんですね」
     辛辣に云い切って、きつい視線で睨め上げる。
     が、メフィストフェレスはその言葉に何の反応も見せなかった。
    「生き延びてくれるとは思わなかった」
    「……貴方は……ッ!」
     云いたい言葉が多すぎて、胸が詰まる。
     その間に、メフィストフェレスが先に行動を起こした。
     軽く塞がれる、唇。
     山田が目を見開く。どうしても動揺を隠せない。
     きつく縛められた左手。柔らかく触れる唇。何の感情も宿していなかった瞳。
     ……一体、何を基準に判断すればいい?
     感情が、揺らぐ。
     縋るものは、ただ一つでいい。ただ一つでいいのに!

     ぎゃりっ!
     奥歯が疼くような音とともに、メフィストフェレスの身体が弾かれた。数歩、後ろへよろめく。
     壁に押しつけられていた左手の甲から、強引に〈風の紋章の剣〉を発現させたのだ。それが実体化して外へ押し出される勢いは、メフィストフェレスの力を上回っていた。
     山田が、息を荒げて立っている。左手を庇うように右手を添えているのは、相反する力の間に入ったことでかなりの反動を受けたためだろう。眼が、僅かに潤んでさえいる。
    「……真吾」
     短く、男が呼んだ。
     青年の唇が、薄く開く。
     もしかすると、それは笑みだったのかもしれない。
    「……僕は」

     縋るものは、ただ一つでいい。
     判断するに足るものは、純然たる事実しかない。

    「僕は、ずっと」

     あの時、この男が自分を見捨てていったという、事実。

    「貴方を、殺してみたかったんですよ」
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