Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    おーり

    ゲン/千とゲ/黒千と黒千/千、千/黒千が散らかってます。
    地雷踏み防止に冒頭にカプ名(攻のあと/)入れてます。ご注意ください。
    シリーズと一万字超えた長い物はベッターにあります。https://privatter.net/u/XmGW0hCsfzjyBU3

    ※性癖ごった煮なので、パスついてます。
    ※時々、見直して加筆訂正することがあります。
    ※地味に量が多いらしいので検索避け中。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 55

    おーり

    ☆quiet follow

    ◇ゲン/千で現代パロ
    ◆年齢操作あり
    ◇ゲンはヘタレ攻め、千空は強気の受けです。

    ##ゲン千

    初恋の味「きりーつ、きょーつけー、礼……」

     日直の着席の指示言い終わらぬうちにゲンは教室を出た。ほぼ駆け足で長い渡り廊下から隣の中等部校舎へと急ぐ。今日は移動教室だったから終わってからすぐ行けるようにとリュックごと持って来ていて正解。あの先生は講義の最後が長い。今日は特に長かった。時間内に言い終わればいいのに残り五分の内容が濃い。

    『金払うから俺の弁当も作ってくれ』

    初対面で会った後輩にいきなり話を持ち掛けられたのは数週間前のこと。
    いつも食べている屋上がフェンスの工事のために入れず、その日は中等部と高等部を結ぶ建物の屋根を利用して作られた渡り廊下で弁当を広げていた。そこで出会ったのが弁当の依頼人である石神千空だった。
     
    ☆☆☆

    「千空ちゃん、いる?」

     上がってしまった息で声が掠れる。
     昼休みになって解放された教室の入り口で俺が声をかけると、緑の髪が揺れた。白菜、ダイコン……千空ちゃんはそんな形容が思い浮かぶ特徴的な髪の少年だ。

    「おう、走ってきたのか?」
    「うん、今日はいつもより教室が遠かったからね」

     訪れるのは必ず四時間目の終わり。
     初日に空腹に間に合うようにと朝から届けてみたら、「テメーは一緒に食べないのか」と不貞腐れられた。別に説明を必要とするほど変ったものは入れていないし、好き嫌いや味の好みは交換したスマホに連絡くれればいい。どうして一緒に食べたいのかがわからないが誘われて嫌ではなかったので一緒に食べることにした。
    ただ気になるのは二人きりでのランチということ。千空ちゃんは俺と二人で食べるのがいいらしい。それとなく聞いた友人であるらしい大樹ちゃんや杠ちゃんの名前も出してみたけれど、「あの二人を一緒にしたいからテメ―と食べる」とのことで、そこでようやく俺は自分が千空ちゃんに少なくとも気分を害さない程度には気に入られているのだということに気が付いた。

    「でも、俺ジーマーで千空ちゃんにお弁当作ってるの、まだ信じられない」

     石神千空、広末学園中等部の有名人。高等部の人間でも一度は名前を聞いたことがある天才科学少年。そんな有名人に近づける日が来るなんて思ってもみなかった。たまたま屋上のフェンス工事がなければ卒業まで縁がなかっただろう。
     中等部と高等部の間に設けられた中庭に着くと、千空は渡された弁当をランチバックから取り出した。濃い緑色の弁当箱は俺が用意したものだ。食べる量や大きさがわからなかったので、弁当箱のサイズを聞いたら一緒くらいでいいと弁当箱代も渡されたので自分と同じサイズにした。

    「そうか。俺はテメーを知ってたけどな」

     だし巻き卵、の見た目で実は焼いてないレンジでチンしたなんちゃってだし巻きを千空が頬張る。焦げ目のついていない卵焼きもどきであるが味には自信がある。特に今日のは火の通りが上手くいった。今日のおかずの中での最高作だ。

    「えぇぇ? どこで?」

     鶏のチーズ焼きを食べようとした手が驚きで止まる。
     目立つ髪の少年だ。一度見たら忘れない自信があるのに記憶の海を探っても全く思い出せない。町ですれ違ったレベルでも印象に残るだろうに。

    「んーっ」

     驚きと衝撃で目をパチパチさせている俺を見て千空が呻った。
    食べながら喋るのは行儀が悪いと躾けられたのだろうか。俺を見たままもぐもぐと咀嚼し、口の中の卵をゴクンと飲み込む。

    「去年、文化祭で手品ショーしてたじゃねぇか」
    「へぇ、観に来てたの?」
    「まぁな、高等部の下見ついでに見に行ったら面白い髪形してるやつがいるなぁって」
    「いや、そこはマジック褒める流れでしょ? あと、千空ちゃんも人のこと言えない髪型だからね。第一俺の第一印象髪なの?」
    「……この卵、美味しかったからまた作ってくれ」
    「話の流れっ! っていいや。気に入ってもらえたんなら明日もまた入れてあげる」
    「おう」

     お弁当代五百円。
    俺の弁当と同じ材料、同じ量。食材はまとめ買いして、小分け冷凍して味付けや調理法を変えて使いまわしている。材料費だけ考えても三百円でお釣りがくるのだが、配達料含めた手間費とのことで五百円と千空ちゃんが決めた。
     五百円あれば学食で日替わりセットが食べられるし、好き嫌いがあっても融通がきくのだが込み合っている場所に行って、混ざり合ったにおいを嗅ぎながらご飯を食べたくないらしい。今までどうしていたのかを聞けば、カップ麺にコンビニのパンなど栄養の偏りに心配なものばかりを羅列され、線が細く、目の下にはクマまでこさえた彼の健康が心配になり、気が付けば首を縦に振ってしまっていた。
     されど、冷静になると下級生からお金をもらうという若干の罪の意識の重たさに断ろうとした翌日これはビジネスだと立派な契約書を作ってこられたのが記憶に新しい。
     なおも躊躇っている俺に金の問題かと勘違いした千空ちゃんが「じゃあ一食千円」とトドメを刺した際には金銭感覚に吃驚し、交渉下手なこの後輩を何だか知らないけど守ってあげなければという庇護欲からサインしてしまった。

    「そういえば千空ちゃんって好き嫌い今のところ言わないけど、どうなの?」
    「不味けりゃ食べてねぇよ」
    「いや、そうなんだけどさ。お金もらってるんだから好きなものがあったら入れたいかなって」
    「じゃあ、ラーメン」
    「カップ麺? それとも俺に本格的にお弁当でラーメンを用意しろっていうのならリームー」
    「ん~、親父と一緒になってハマっちまってな、たまに食べたくなるんだが食い手がいないと作っても無駄がある。ってことで今度うちでラーメンな」
    「えっとぉ、そういう話だったっけ?」

     またもや強引に会話の軸をずらされ、俺は首を傾げた。好きな食べ物の話には違いないが、弁当のおかずから家に訪問してラーメンを振る舞う話にすり替わっている。もしかしてこれは遊びに来いというとこだろうか。または都合が悪いことがあるので何かを隠したいのか。
     ゆくゆくはメンタリストという職業につきたい俺は独学ではあるが心理学を学んでいた。表情、視線、話し方、話の内容……他人を観察するのは昔から得意だった。それなのに石神千空という少年が掴めない。思えば出会った時からずっと年下の少年に翻弄され続けている。
    緑の木々が風に煽られ揺れている。池に飼われて数年の鯉が水面からはねる音を聞きながら、湿った空気を吸い込んだ。
     もうすぐ夏が近づいていた。

    ☆☆☆

     招かれて食べたラーメンはとても美味しかった。
     麺は市販品だったものの、チャーシュー、煮卵、スープは一からの自作だった。お弁当を頼むぐらいなのでてっきりどこかお気に入りの店の商品を取り寄せたくらいに思っていたのに。
     こんなに美味しい料理が作れるのに一体どうして俺に弁当を頼むのか疑問をぶつけてしまった。曰く、料理は科学だが毎日の弁当は面倒、らしい。料理に時間をかけるよりもロケットの論文を読む方が時間は有意義だと根っからの科学少年は言った。しかし、美味しい料理は食べたい、だから俺にお弁当を依頼したらしい。

    「食べている弁当が美味しそうに見えた」
    「あ~、だから初対面で物欲しそうに見てたのね」

     弁当を食べている横にしゃがみこんだかと思うと、『美味しそうだから一口もらっていいか』それが出会いの第一声だった。あの時は変な下級生だと思ったが、どこでどう縁が繋がってのかなんてわからないものだ

    「ああ、一応飯は食ったんだけどな」
    「会ったの、昼休みすぐだったでしょ? あの時はもう食べ終わってたの」

     ラーメンのスープまで平らげてしまって空の器を前にしばらく二人で出会った時の話を重ねた。
     会話するたびに驚きの連続だ。
     初めて会ったときにいきなり話しかけられたのだけど、今まで周りにいた誰とも違う個性に興味を持って話が弾んだ。何を話しても楽しい。相手が欲しい言葉を探しての駆け引きも腹の探り合いもいらない。素直に反応しているだけでいいのが楽だ。
     締めに何か食べたいというので、簡単でいいならと焼きおにぎりの茶漬けを作ってやった。家にあるもので出来るのに、特別な味付けなどないのに千空ちゃんは何度もうまいという言葉を繰り返した。
     そんなに気に入ったならとレシピを教えてやろうとしたら「テメーが作ったのがいい」と無下に断られた。千空ちゃんの家の調味料で作るのだから別に俺は関係ないと思うんだけど悪い気がしなかったので言い返すのはやめた。

    「ところでテメー、進路どうするんだ?」
    「いきなりどうしたの?」
    「いや、気になったんで聞いたんだが」

     何を気にするのだろう。今後の自分の参考に、だろうか。いや、千空ちゃんには宇宙へ行くという夢がちゃんとあるのだからそれはないはずだ。だとしたらこれは俺への純粋な興味だろうか。
     科学にしか興味のない人間から向けられた好奇心に俺は自分の顔が緩むのが分かった。

    「うーん、笑わない?」
    「他人の夢を笑ってどうするんだ?」
    「はーっ、千空ちゃんって不思議だよねぇ。俺はあんまりプライベート話すの好きじゃなくてこれでも雰囲気とか話し方で自衛してんのに、千空ちゃんはそういうのお構いなしに入ってきちゃうよね」
    「知りたいことを知りたい、それだけだ」
    「いやいやいや、プライバシーってものがあるでしょ? そこは」
    「で、どうすんだ?」

     笑わないといった通り、千空ちゃんの目は真剣そのものだった。
     じっと俺の顔を見たまま、一言一句を漏らさないように、そんな顔をしていた。

    「マジシャン目指してんの、ジーマーでね」
    「悪くねぇじゃねぇか」
    「でもね、めちゃくちゃお金かかるのよ。うちは親がさ、事情があっていなくて。で、生活費だけもらって実質一人暮らし」
    「ほーん」

     さらっと言い切ってしまったが、こんな重たいことを言って良かったものだろうか。
     自分の夢を他人に聞かせるのは大事な宝箱の中身を見せてしまうようで恥ずかしかった。他人と深く関わってこなかった俺は内心、この間まで他人同然だった人間にここまで自分の中に踏み込ませたことを驚いた。硬い殻の中に閉じ込めていた人に見せない柔らかい部分。

    「すげぇな。俺のとこも親父一人で……まぁ血は繋がってねぇし、ほぼ家にいねぇけど金には不自由してねぇ」
    「千空ちゃんも一人で生活してるの?」
    「ああ、だから飯が困るな。ハウスキーパー雇うって言われたんだが、こっちは思春期だからな。反抗期を盾にして拒否した」
    「勇者だねぇ~」

     俺だけに喋らすのは悪いとでも思ったのだろうか、千空ちゃんも千空ちゃんでプライベートを隠すことなく話してくれた。相手に踏み込んだら同じ分だけ踏み込ませることを許す、千空ちゃんが俺に気を許してくれているのだと分かった時にはもう遅かったのかもしれない。

    「俺はいつか稀代のマジシャンになる。高校出たらアメリカで武者修行したいからそのためにお金貯めてんの」
    「そうか。じゃあ、帰ってきたら俺が養ってやるから一緒に住むぞ」
    「へっ? 何でいきなりそうなるの?」
    「修行終わってから、日本に帰ってきて売れるようになるまで生活の基盤が必要だろうが」
    「うん、だからちょっと落ち着こうか。俺と千空ちゃんはつい最近会ったばかりだよね? で、何で未来の約束をすることになってんのかな?」
    「……何でってテメーは俺のことが好きだろ? 俺もテメーが好きだからそれでいいんじゃないか?」

     さも当然のように言われたが、出会ってから俺は告白された覚えも告白した覚えもない。俺が千空ちゃんを好きで、千空ちゃんが俺を好き? 告げられた言葉を脳が分析できずに同じ場所をグルグル巡り続けている。

    「どういうこと?」
    「文化祭の時に一目惚れした。声かけたら上手くいったし、飯美味しいし、話ししてていいやつだし」

     視線を交わしたまま、両手を握りしめ、延々と俺の好きなところを語られる。これはバイヤー。気を許してしまっている相手から、こんなことされてはとても耐えきれない。

    「れ、れ、恋愛は脳のバグだから。ほら、先のことはわからないじゃない。何も今すぐに将来を決めなくてもいいよ。お互いに未成年だし……ね」
    「成人するまでに俺に惚れさせろってことか。ククク、唆る挑戦じゃねぇか」

     掴んでしまっていたのは胃袋ではなくて、最大級の愛だった。


     これは後にメンタリストとしても長けた今世紀稀代のマジシャンが、世に広く知られることになる、ほんの少し前の恋の話。

    《END》

    支部にて2021年5月30日に初出
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works