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    おーり

    ゲン/千とゲ/黒千と黒千/千、千/黒千が散らかってます。
    地雷踏み防止に冒頭にカプ名(攻のあと/)入れてます。ご注意ください。
    シリーズと一万字超えた長い物はベッターにあります。https://privatter.net/u/XmGW0hCsfzjyBU3

    ※性癖ごった煮なので、パスついてます。
    ※時々、見直して加筆訂正することがあります。
    ※地味に量が多いらしいので検索避け中。

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    おーり

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    ◆何でも許せる人向け
    ◇ゲン/千二人とも人外
    ◆ゲンが女遊びしてる表現あり

    ##ゲン千
    ##人外

    やさしい時間 パチパチと暖炉の中で薪が弾ける音がする。
     大きく爆ぜることもなく良い音で燃え続ける火からは煙も少ない。しっかりと乾かしたクヌギの薪が出す音色を子守歌代わりに俺の用意した毛布の上で千空ちゃんが丸まってうたた寝をしていた。
     白い毛皮に覆われ、頭部の耳の間と尻尾の先だけ緑色のグラデーションがかかった珍しい色。今は閉じられた瞼の下に隠されている瞳は紅玉のように美しい猫だ。
     以前は人間の飼い主に飼われていたようで相当大事にされたらしい。老いて妖怪になっても人間に仇をなすことはせず、元の飼い主が追いかけた宇宙に興味を示し、人間に化けて科学を研究したいと俺の元へ人化薬を求めてやってきた。
     もちろんただで高価な薬や術をかけてやるほど俺もお人よしではなく、断ろうとしたところ対価として住み込みで働くといって引き下がらなかった。彼がいなくても魔法で全部何でも出来てしまう。
     最初にやってきたときに「身体で支払って」とからかってやったら冗談が通じずに「いいぞ、存分に触りやがれ」とコロンとお腹を見せて千空ちゃんが床に転がった。その無防備な所作が愛くるしすぎて気が付いたら首を縦に振っていた。
     あの軽率さは自分でも反省しているが後悔はしていない。
     その後住み込みで掃除や家事をしてもらい、朝寝ぼけて人に化けている千空ちゃんを一夜限りの彼女たちと間違ってキスをしたら「こ、こういうことしたら赤ちゃん出来んだぞ」と顔を真っ赤にして怒っていたのは吃驚してしまった。
     拾われて去勢されたのならわかるが、立派にまだ股間の物は健在。それなのに知らないと言うことは新品童貞ということ。
    (そもそも猫又になるくらい長い時間生きていて恋愛関係全くわかんないってところが純粋培養ゴイスー)
     足音を抑えながら彼の横にあるテーブルへと近づいていく。
     踏まれた床の振動に二本の尻尾が小さく揺れる。寝ている邪魔をするなとの合図をわざと誤訳して「ああ、起こしちゃった?」とひょいと身体を持ち上げてやる。
     小さな身体は抵抗なく俺の懐に納まったが、不満はあったらしい。もそもそと顔だけを俺に向けて千空ちゃんが俺を睨みつけた。

    「おい、俺は眠てぇんだが」

     もちろん彼が抱っこして欲しいと思わないことはわかっていた。けれど、見ていたらちょっかいを出したくなったのだから仕方ない。

    「ちょっとくらいサービスしてよ。千空ちゃんは俺の癒しなんだから~」

     引っ掛かれないことをいいことにすりすりと千空ちゃんに頬ずりする。毛は短いが艶があって心地よい。ふわふわの肉球の柔らかさを堪能して、彼の胸元に頭を埋めて思いっきり匂いを嗅ぐ。

    「あ~、幸せ~。癒される~」
    「おい、ゲンっ! やめろ。俺は風呂入ってねぇから臭いぞ。癒しが欲しいなら魔法でどうにかしやがれ」

     別に臭くはないのに。むしろその獣臭を嗅ぎたいのに千空ちゃんは俺が求めているものがわかっていない。千空ちゃんは匂いを嗅がれるまいと身をよじって俺の腕の中から抜け出した。

    「千空ちゃん以上の癒しがない」
    「テメーの癒しのために俺の昼寝を犠牲にする価値があるとは思えねぇし、匂い嗅がれんのもごめんだ」

     ちょんっと前足の肉球で俺の鼻を押すと、千空ちゃんはそっぽを向いてトンと床の上に着地した。猫のしなやかな動作は何度見ても飽きない。そのままぺろぺろと毛づくろいし始めた千空ちゃんは足を高らかに上げて一生懸命身体を舐めている。
    (人間だったらあそこまで出来るだろうか、硬いから出来ないだろうな)

    「お風呂入る?」
    「やっぱり匂うんじゃねぇか……自分で入るから人化薬寄越せ」
    「えーっ、どうしようかなぁ~」
    「じゃあ薬も自分で作るから材料と作り方教えろ」
    「それはリームー。あれは仕上げに呪文が必要だから」

     最初の頃、千空ちゃんは隙あれば人化薬の作り方を盗もうとしていた。科学大好きの千空ちゃんは人に化けたいだけでなく、魔法使いしか作り方を知らない魔法薬にも興味があり、科学的に研究がしたいようだった。ただ、魔法使いの薬は誰でも作れるものでない。

    「じゃあ、俺に魔法を教えろ」
    「千空ちゃんは黒猫じゃないからリームー」

     これは俺の嘘。
     別に黒猫でなくても猫又になるくらいまで生きてきた千空ちゃんなら修行次第では薬も作れるようになるはずだし、薬なしで人に化けることも出来るようになるだろう。だけど、教えてしまったら俺を頼ってくれなくなりそうでずっと隠している。
     パチンと弾けた薪の上でゆらゆらと揺らめく炎が輝いている。小さく形を変えていく炎にサクラの薪を足していく。ほのかにサクラの甘い匂いが漂い始める。

    「いい香り。燻製食べたくなっちゃったな」
    「ほーん。そいつはいい提案だな」

     くるりと壁に向かって杖で魔法陣を描く。
     壁がぐにゃぐにゃと動いてそこに魔法の戸棚が現れた。戸棚をまた杖で突けば戸が開いた。中から飛び出してきた薄紫の魔法薬が入った小瓶をそのまま杖で千空ちゃんの方へと誘導する。
     千空ちゃんは上手にお座りの姿勢で小さな口をめいっぱい開けて小瓶から垂らされる魔法薬を受け止めた。こくんと咽喉を鳴らしてすぐにぽふんという音と共に猫の姿から髪の毛が逆立った青年の姿へと変わる。

    「あ˝―、テメーのせいで風呂より先に腹が減ったじゃねぇか」
    「えー、俺のせいなのー? 裸ついでにさっさとお風呂入ってきたらいいじゃない」
    「テメーが燻製なんて言い出すからだろ。おら、こないだ燻したやつ用意しやがれ」

     とことこと裸で近づく千空ちゃんに俺は「仕方ないなぁ」と杖を振る。一瞬で彼に服を着せ、次にテーブルに向って杖を振り、先日燻したベーコンとチーズ、それからサーモンを乗せた皿を並べた。
     無から生み出すのではなく、どこか別の場所にあるものを移動、召喚する魔法。こんな便利な魔法があるのに聡いはずの千空ちゃんは自分の存在が要らないとは気が付かない。それどころか「俺がいないと誰がテメーの世話をするんだ」と張り切って俺の世話をしようとしてくれる。
     ふかふかの癒しは何物にも代え難く、何なら家事で肉球が痛むので本当に何もせずそこにいてくれるだけでいい。だけど、猫の姿で必死にシーツを引っ張ってベッドメイキングしようとしたり、前足を水につけてちゃぷちゃぷ洗濯している姿をみたらとてもじゃないけど可愛くて言えなかった。
     人間の姿になる薬のために頑張って人間になったら一分一秒も惜しいと科学の研究のために人間の図書館や研究材料集めに行ってしまう。猫の姿での家事は効率が悪く、合理性を愛する彼にしては奇妙な拘り。だがそれだけ科学に唆られているのだろう。
     黙って電化製品のカタログを置いたら「俺というものがありながら」とフーフー怒っていたけれど、あとでこっそり開いて楽しそうに目を輝かせて尻尾を揺らしながらスペックを確認し、買うならこれだとおススメをつけてくれていた。

    「千空ちゃん、飲み物は?」
    「マタタビ酒」
    「お酒飲むなら先にお風呂に入りなよ」
    「一舐めで我慢するから大丈夫だ」
    「いつもそう言って我慢出来たことないじゃない。ほらほら、行ってきなよ」

     すでに食べる姿勢になっていた千空ちゃんはむすっと口を尖らせながら、のろのろと椅子から立ち上がった。

    「先に喰うの、なしだからな」
    「はいはい。ちゃんと待ってる」

     ひらひらと手を振って見送れば、途中で振り返って念押しするようにテーブルを指さされた。猫なのに水や風呂が苦手でないのは飼われ方か性格か。
     暖炉の中の薪がまたパチンと弾ける音がした。

    <END>
    支部にて2021年10月25日に初出
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