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    おーり

    ゲン/千とゲ/黒千と黒千/千、千/黒千が散らかってます。
    地雷踏み防止に冒頭にカプ名(攻のあと/)入れてます。ご注意ください。
    シリーズと一万字超えた長い物はベッターにあります。https://privatter.net/u/XmGW0hCsfzjyBU3

    ※性癖ごった煮なので、パスついてます。
    ※時々、見直して加筆訂正することがあります。
    ※地味に量が多いらしいので検索避け中。

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    おーり

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    ◆何でも許せる人向けです
    ◇原作にいない千空そっくりの架空キャラ(黒千空)がいます
    ◆黒千/千。千空が人外で妖精です

    ##黒千千

    妖精王子「クッソ、しくじったわ」

     コンビニからの帰り道、ロードバイクに乗ってこなかったことをさっそく後悔した。馴染みの店にカスタムを頼んだその日にいきなりアイスが食べたくなってしまい、どうしようもなく外に出た。食欲は性欲、睡眠欲と並ぶ三大欲求。しかも、日々溜まるストレスを抱えながらどうにかこうにか生活している自分へのご褒美に突如新作のアイスが食べたくなってしまったのだから仕方ない。

     徒歩だと店までの距離にいつもより倍以上の所要時間がかかる。行きは良かったが、帰り道は急がねばアイスが溶けてしまう。ドライアイス代わりに買った飯用の冷凍食品と新発売のチューハイでレジ袋が重い。自転車ならすぐの距離なのにと不満をこぼしながら見慣れた景色を通り過ぎていく。
     閑静な住宅街の車も入り込まない細い道。バイクや自転車を足としている人間たちが多く住むアパートが立ち並んでいる。車が入らない分家賃は安いが、隠れられる路地が多いせいで夜の治安はあまりよろしくない。その中でも、まぁまぁ良いアパートを借りたのは養父百夜に押し切られたからである。
     緩やかな坂を上るあたりで、ふと足を止めて空を見上げた。完全に満ちてはいないがあと数日で完成する満月が目に映った。

    「悪くねぇな」

     天体観測は趣味ではないが、月は嫌いじゃない。今日は月を見上げながら飲むのも悪くない。わざわざ冷食を買ったが、冷蔵庫に何かなかっただろうか。簡単に出来るつまみを想像しながら一人思案していると、頭上から悲鳴声が近づいてきた。

    「うわぁぁぁぁっ!」
    「は?」

     ポスンと間抜けな音がして俺の頭の中に何かが飛び込む感触がした。虫か、鳥の糞なら最悪この上ないが、今確かに叫び声が近づいてきてからの衝撃だった。恐る恐る髪に手を入れようとすると、もぞもぞと何かが俺の頭の中を移動して俺が伸ばした手に捕まってきた。

    「あっ! 手ぇ振んなよ! 落ちちまう!」

     親指にぶら下がるものを確認するべく、ゆっくりと手を引き出してみると人間をそのまま小さくしたような、言ってしまえば手のひらサイズの小人がぶら下がっていた。
     服装は白い裾のひらひらしたワンピースのようだが、見た目がまんま俺とそっくりで、違いがあるとしたらサイズと色くらいなものだ。
     体型はそのまま縮小したようなものでなく、手足が短くて肉付きがよい。まるで幼児体型。
     髪の色は毛先が緑で瞳は赤の俺そっくりの小人は俺が差し伸べた手のひらにちょこんと座りこむと俺を見あげて「何だ、テメー、俺と同じ顔かよ」と俺よりも先に同じ感想を述べた。

    「……何だ、テメー。つーか、俺は確かに起きていたと思ったんだが、もしかして起きたまま寝てんのか?」
    「ククク、そんな器用な人間がいやがるかよ、バーカ。俺はテメーらでいうところの妖精ってやつだ」
    「ほーん、白菜の妖精か」
    「あ˝ぁ? 白菜は一ミリも関係ねぇよ! 人を色と髪型で判断するな! まぁ、俺の話を聞けよ。助けてもらったお礼にテメーの願いを叶えてやる、悪くねぇ話だろ?」
    「そうか、じゃあ俺の叶えて欲しい願い事だが、ちゃんと無事に家に帰れ、以上だ」
    「はぁっ? そんなの願い事に入るかよ! ふざけんな」
    「ふざけるも何も自分の願いをどうして他人に叶えてもらわなきゃなんねぇんだよ。俺も帰るから、テメーも家に帰れ」

     こんなことに時間を喰っていてはせっかくのアイスが溶けてしまう。怪奇現象の場合場所が原因ということもある。つまり場を離れてしまうのが得策だ。
     自称妖精の小人を地面にゆっくりおろすと俺は何事もなかったように再び歩き始めた。後ろから「ちょっと、待て! 置いていくな!」と騒ぐ声が聞こえたが気にしない。存在が現実でも変なものには極力関わらないのが一番だ。
     あれだけ小さいと猫やカラスの餌食になりやしないかと心配もあるが、威勢がいいので何とか自分で対処出来るだろう。
     関わりたくないし、帰ったら風呂入って月見酒して寝よう、そう心に決めて俺は帰路へ着いた。
     

     
     冷えた床に座って月を見上げながら食べるアイスは格別だった。
     ほんのり酒に酔って熱を帯びた身体に入っていく冷菓が舌の上でとろりと溶けてまとわりつくのが堪らない。ゆっくり味わって食べていると、不意に物音が聞こえてきた。
     ガラス窓越しに響く音に目をやると、見たこともない猫がサッシの隙間を引っ掻いていた。野良猫にエサをやることはしないのにここまで猫が来ることも珍しい。俺の視線に気が付くと猫は尻尾を揺らしてサッシから離れた。
     高い場所、細い場所を自由気ままに移動できるしなやかな動物。ここがアパートの三階でなければなんとも思わなかっただろう。
     近所で飼われている猫だろうか。見たところ毛並みも綺麗で愛嬌の振る舞い方から見て人間に懐いているようだ。首輪を見れば飼い主の手がかりがあるだろう。
     迷い猫の帰宅が心配になって俺はベランダの窓を開けた。
     
    「わざわざこんなところまで登るなんて家でも間違え……」
    「やっとみつけたぞ! 黒!」
    「あ˝ぁ?」
     
     声に驚く俺の前に猫の頭の後ろに生えた緑のふさふさが飛び込んできた。猫がゆっくりと身体を地面に伏せると、首輪を手綱に跨って乗っている目つきの悪い小人の姿があった。

    「よくもテメー、置いていきやがったな。探すの苦労したんだからな! って言っても俺と同じ顔の人間って猫に聞きまくれば早かったぜ。本当は鳥の方が良かったんだろうけど、夜だからな」

     ぴょんと猫から飛び降りると、えっへんとふんぞり返る自分そっくりの妖精はどうやら動物と意思疎通出来るらしい。メルヘンチックだが、あいにく俺は夢見る少女でなくリアリストの部類に入る。一気に酔いが醒めていくのが分かった。

    「テメー今度は何しに来やがった? 追っかけかよ。ストーカーなら余所あたれ」
    「ふざけんな! ストーカーじゃねぇ! 助けてもらって、お礼もせずに帰れるかよ!」
    「ただ、テメーが勝手に落ちてきただけじゃねぇか。お礼はいらねぇって言ってんだろ」

     いきなり空から人の髪の中に落ちてきた。言ってみればただの迷惑行為なのだが、それにお詫びではなくお礼とは。落とされた側は迷惑、落ちてきた側は感謝の立場で認識しているようで双方における物の見方と感じ方の差が大きい。

    「そういうわけにはいかねぇ。お礼はきっちりするからな。俺の名前は千空だ」
    「あ˝ぁ? 千空は俺の名前だ」
    「テメーは黒いし、俺は三千七百二十歳。テメーより長く千空を名乗ってんだ。だからテメーの名前は黒でいいだろ?」
    「勝手に決めんな、白チビ」
    「あー、んじゃ俺も白でいいわ。だからテメーは黒な。おら、願い事を言ってみろ。叶えられる奴なら叶えてやる」
    「そこは何でも叶えるじゃねぇのかよ。別に叶えたい願いなんてねぇよ。あるとしたらテメーに家に帰って欲しいことくれぇだ」
    「絶対帰らねぇ! 帰る以外の願い事にしろ! あと適当に考えんなよ!」

     わぁわぁ騒ぎながら白は家の中に飛び込むと、俺の置いていたアイスの食べかけを見つけて立ち止まっていた。

    「何だこれ? 風呂桶か?」
    「テメーのサイズで考えんなよ! アイスだ。食べ物」
    「ほーん、冷たいのな。食べ物ってことは美味いのかよ」
    「……一口食べればわかる」

     ほぼ空になったカップの底、溶けた残骸を指の先にちょいと掬ってやって、白いチビの数センチ前に近づけてやる。加減を間違うと吹っ飛びそうなサイズの人間相手に何をしているのかと頭が痛くなったが、白はキラキラと目を輝かせて、小さな小さな指の先にアイスをつけてそれを口の中に運んだ。

    「冷たくてうめぇじゃねぇか!」
    「日頃の自分へのご褒美にいいやつ買ったからな。特別に美味いはずだ」
    「これ、黒の好きなやつか? だったらこの『アイス』ってやつを毎日食べれるようにするのがお礼でどうだ?」

     さっき適当に願い事を言うなと言ったのをもう忘れたのか、嬉々として白が宣った。余程気に入ったのか俺の指に近づきすぎて汚れるのも構わずに夢中で口に運んで舐めたので、顔や髪にべっとりとアイスがついてしまっていた。

    「好きな時にコンビニで買えるからいい。俺の願いはテメーが帰ることだ」
    「そんなことがお礼の願いにされたら、俺が役立たずみてぇだろうが! 妖精舐めるなよ!」
    「アイス塗れの顔で言われても怖くねぇよ」
    「あ˝ぁ? 願い叶えるまでは住み込みでテメーに張り付くからな!」

     こうして意図せず、妖精の、しかも俺と同じ顔のやつに勝手に願いを叶えるまで家に居候を決め込まれてしまった。こんなことならアイスで願い事に手を打てば良かったと後日気が付いたけれど、すでに後の祭りだった。

    <END>
    2021年9月17日
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