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    524

    @conishi524

    地雷がある方は閲覧しないでください。

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    524

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    ツーエンツーパロ
    地雷がある方は読まないでください。


    ボロボロのアパルトメントの中でも更にボロボロのヤネウラに住むウダツの上がらないイヌ、二本足で歩く毛のないイヌ、ソレがオレの相棒であるトージクン。
    周囲には売れない作曲家を自称しとって、金がなくなるとパトロンの下を渡り歩き生活費を工面してもらっとる。ココも、そんなパトロンのヒトリが自由に使ってヨイと都合してくれた場所やが、マア、屋根があるだけマシ、といったトコロや。
    しかしトージクンが何やっててもオレには関係ない。
    ダルメシアンイチ強なるため毎日鍛錬を欠かさんし、スポンサーのレストランへ行きVIP待遇で栄養バランスのとれたメシを喰う。タンパク質がメインや。
    しかしこの辺でダルメシアンはオレばかりで、ウデ試ししようにも細くて長いの、ハデでスカシたの、小さくてポチャッとしたの、オバアにチビッコなどロクなイヌがおらん。
    トージクンはたまに、しかもテキトーにしか相手してくれん。変わらぬ日々にヘキエキして、自分マデ堕落していくのが耐えられん。このままやとオレは停滞してまうヨウで、毎日焦燥感に苛まれとった。
    薄汚れたマドから下方を見下ろし、通り過ぎる毛のないイヌに連れられて歩くイヌを検分しておったその時、オレの全感覚がアラートを鳴らした。
    このキョリでもわかる、強者のオーラ。

    しかもオレと同し、ダルメシアン!

    「ワンワンワンッ!」
    「オイナオヤ、ウルセーぞ」
    「ブワンッ!!ワンワンワンッ!!」

    ゴチャゴチャ物が積み重なるソファから、毛なしイヌがオレらにつけたがるリードを探し出しトージクンに突き付ける。

    「アア?出てーンならヒトリで行けよ。つかイツモ勝手にしてンジャン」
    「バウバウ!!」

    アカン!!
    さっきのダルメシアンは毛なしイヌを連れとったから、足止めが必要なんや!!
    オレはトージクンのキッタなくってクッサイスウェットに噛み付いてアタマを左右にブンブンと振った。

    「ケツが!!」
    「バゥウウウ……!!」
    「わァッたよ!ッたく!」

    トージクンがズボンを履き直してオレにリードを付けた瞬間、ドアノブにマエアシを掛けロケットのヨウに飛び出す!
    あのイヌはイエの前の道路を左へ上って行った。その先には街中にしては大きい自然公園があって、きっとソコに向かったに違いない。飛び出してくるスクーターの目の前を横切り、一直線に公園に駆け出した。

    「オイ!!何ハシャイでんだテメー!!」
    「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」
    「ざけンなバカイヌ!!」

    トージクンは二足歩行やのにオレに着いてこられる唯一の毛なしイヌや。文句垂れ垂れ、シッカリオレのリードを握って離さん。
    多くのザコイヌを追い越し、公園のゲートを潜った。
    道がくねり木々が生い茂る園内は視界が悪く、さっきのイヌを見つけるンに時間を喰う。フンフンと、嗅いだコトもないイヌのニオイを必死で辿る。
    ついにピリリとしたモンをハナが捉え、カオを上げその方向へ駆ける。何やイケ好かんフロ~ラルなニオイがジャマやけど、間違いない。ゼッタイコレがあのイヌのニオイや!!
    果たして辿り着いた先には、ベンチに座る毛なしイヌのアシモトで退屈ソーに座っとる、あのイヌがおった。ソチラへ一目散に向かおうとしたトコロで、ビインとウシロから強いチカラで制される。

    「あ~~もおムリ~。ちょっとキューケー」
    「ウ゛ゥウウウ!!」
    「ハイハイ大人しくしてろ~」

    ブットイウデに抱きかかえられシバに転がられてまい、ジタバタもがいてようやっと抜け出すも、シッカリリードを握ったまま離さんトージクンから、数メートルも離れられん。
    トージクンはポッケから小さなオンボロラジオを取り出し、イツモ聴いとる競馬中継を流し始めた。朝早くに競馬場に赴いたモノの、混雑具合にイヤケが差し馬券だけを買ってトンボ返りしてきたんや。軍資金はなく大した額でもない馬券を片手で浚いボンヤリとしている。
    オレはその馬券に噛み付き取り上げ、チョンチョンチョン、リードイッパイトージクンとキョリを取った。

    「ナオヤァ……」
    「ゥウ!ゥウ!」

    乗ってこい、乗ってこいとワザと挑発的にカラダを左右に跳ねさせて誘う。トージクンはダルそうにシバにヒジをついて馬券を返すようオレに促した。

    「失くしたらどーすンだ。大穴で万馬券に化けるカモしんねエーだろ」
    「クゥウン…………」
    「ヨーーシわかった遊んで欲しンだな?お望み通り相手してやんよ」

    一縷の望みに縋る哀れに思わず憐憫の眼差しを向けると、トージクンはヒトコマで起き上がりオレに飛び掛かってきた。
    パッと身を引いて避け、右に、左にヒラリヒラリと跳ね、銜えた馬券をピラピラと見せつける。トージクンはリードをムリヤリ引いたりはせず、オレの相手をしてくれた。パッパと避けながらドンドン後退して、ベンチへ近付いていく。
    目線もくれんが、向こうもオレを注視しているのがわかりワクワクする。リードがたわみヨユーが出来た刹那、咥えていた馬券を放り出しショーブを仕掛けた。

    「ヴワンワンワンッ!!ガァアアウ!!」
    「ァアアア!!ガウガウッ!!」
    「何やこのイヌッ!!トージクン!!アカンよ!!」
    「アガァ!!」
    「アホイヌ~~ッ!!」

    ベンチの毛なしも中々の根性しとって、オレよりひと回りデカイダルメシアンが急進してもリードを離さんかった。しかしその根性がアダとなり、オレ達のキバ迫り合いでグウンと身を乗り出したヒョーシに、カラダがポーンと前に飛び出してしまう。

    「アブねッ」

    同じくリードを離さんかったトージクンがソレを受け止め事なきを得たが、二頭の毛なしイヌのキョリがゼロになったコトでオレらの行動範囲はその二頭を中心に無限に展開される。
    キバを繰り出し、躱し、オシアイ、ヘシアイしとる内に、互いのリードが絡まり毛なしイヌ同士をグルングルンに巻き上げてまった。
    ソレでもオレ達はキバを納めず周りをジャカジャカ走り回る。

    「ちょ、フザケ…………!!」

    バシャーーーン!!

    ハデな音と水シブキに思わず動きを止め、お互い目を見合わせる。サーーッと同時に駆け出しベンチのウシロに隠れた。
    ソオと覗くと、毛なし二頭は公園の池にシリモチをついて呆然としておって、そのオーラはダンダンとドス黒く変化していき、イッキに爆発し殺気で木々から鳥が飛び去りおった。

    「トォジクンッ!!!」
    「ナオヤァッ!!!」
    「「ハッ?」」

    キョトンとカオを見合わせて、先にトージクンが我に返り立ち上がる。トージクンが手を差し出すと、不承不承、ソレを掴んで立ち上がった。

    「…………何でウチの名前知っとるん?」
    「アンタの名前?」
    「呼んだやん……ナオヤッて」

    何ィ?
    あの毛なしイヌ、オレと同し名前なんか。パクんなや。

    「イヤ、あのバカイヌの名前」
    「エエ!?サイアク……パクんなや」
    「ヴヴヴヴヴ」

    唸ったら、ギロリと睨まれた。品のないイヌやな。

    「ってコトは、アイツも“トージ”?」

    トージクンが、アゴをシャクッてコチラを指す。つられてヨコを見ると、ブチのついたダルメシアンはウゲエとカオを顰め、ペロリと舌を出した。

    『トージクン?』
    『…………何だよ』
    『なア、水差されたケド、オレとショーブしようや』
    『ヤダね。メンドウだ』
    『何ィ~~』

    マズルを軽く噛んで仕掛けたら、マエアシで叩かれた。アグアグと何度もチョッカイを出し、ベンチの下をゴロゴロ転げ出て飛び跳ねながら池の周りで軽い追いかけ合いをする。

    「…………アンタのイヌ、ホンマシツケがなってヘンな。新しく作った春のスーツがオジャンなってもた」
    「悪かったよ、アイツバカなんだ。クリーニング代……」
    「そない金あるヨウには見えんケド?」
    「チョードイイや。金はコレから、」

    そのトキ、シバに置きっぱなしのラジオから大歓声が上がり、実況がレースの結果、着順を大声で何度も叫ぶ。オレはチラリと放り出された馬券を思い、フンスとハナイキを吐いた。

    「…………………………」
    「金はコレから?」
    「……………………ウチでシャワーでも浴びてく?」

    二頭はシバシ見つめ合った後、カラダを寄り添わせ来たのと逆方向の出口へ向かった。多分、合い鍵を貰ってるパトロンのイエに向かったんや。昼間は仕事でルスやから。
    シバに座って二頭を見送り、改めてトージクンの黒いブチを観察する

    『同しイヌで、名前も同しやのに、トージクンとトージクンはエライ違うな』
    『何言ってンだ。アイツらはイヌじゃなくてニンゲンだろ』
    『フン?やから、ニンゲンって種類のイヌやろ?』
    『オマエ、他のドーブツ見たコトねーのかよ』

    ウマは知っとる。デカクて速いクセに扱き使われとるダサイヤツらや。あとネコとネズミ。ハトも。
    トージクンはイヌとウマとネコとネズミとハト以外にもたくさんドーブツを知っとって、オレが質問攻めにすると、着いて来いと自分のリードを銜えてトコトコ、公園の出口へ向かった。ソレに倣いリードを銜え追いかける。

    『ナア、ろこに行くん?』
    『だぁって着いへ来い』

    リードを銜えてイーとなったクチで話すんはハタから見てドレホドマヌケやったろう。でも不思議と気にならんとたくさん話し掛けてまう。
    そうこうしてる内に着いたのは、イワユルトコロのドーブツ園とゆうヤツで、“NO DOG ALLOWED(犬はお断り)”のムカつく看板にゲエと舌を出す。
    入口に立つ毛なしイヌ……ニンゲンをどう躱すのか見てたら、通りがかったヒゲの紳士然としたジジイにまとわり懐き、アタカモ連れ合いであるかのヨウに演じ、そのジジイと門番がモメてる内に知らんカオで中に入ってもうた。オレもソレに続く。

    『ムチャクチャすんなア』
    『オレは元ノラだからな。オマエらみてエな温室育ちとはオツムの出来が違エンだ』

    ドツキ合いジャレ合いでエントランスを抜け、トージクンはオリの前で立ち止まり中のドーブツを覗かせてくれた。鉄柵にマエアシを引っ掛けて覗き込むと、昼間ッからダラダラと、デカイ図体を転がしているオモンナイヤツらがヨーサン居って、オレは何だかガッカリする。

    『やっぱ、ダルメシアンがイチバンエエなア』
    『ナマイキなヤツだな、喰われちまえ』
    『あない図体だけのザコに負けヘン』

    キョロキョロと様々なオリを覗いて歩くも、引き摺ったリードがジャマでシャーナイ。銜えて歩くとアホみたいなシャベリ方ンなるし、どうにかとれんやろか。

    『だったらチョードイイヤツがいる』

    そう言ってトージクンがオレを引っ張ってきたのは、水辺のあるジメッとしたオリの前やった。鉄柵を潜り、オリの中に滑り込む。水辺をヒョイと飛び越えてマエアシでピシャピシャピシャ!と三度水面を叩いた。
    すると濁った池の中からヌラアと毛のないデカブツがカオを出し、トージクンを見て笑う。

    『さ、切って貰えよ』
    『何やねん、コイツは』
    『何って、ワニさ』

    ワニとか言うヤツは、カオの大半を占めるクチを大~きく開けてオレを待っている。クチん中は舌から何から真っ白で、鋭いキバが何本も生えとった。確かに、コレならリードを噛み切れそうや。
    オレはワニに近づき、リードを蹴ってクチの中に放り込んだ。
    ワニがより大きくクチを開け、イザリードを噛み千切らんとしたトキ、グンとクビネッコを思くそ引かれ後ろに転がされた。トージクンがオレのクビワを噛んでブン投げたンや。

    『何すんねん!!』
    『ハア、ニブイな……』
    『何やと!?』
    『アイツ、オマエごと噛み千切ろうとしてたンだぞ』

    ワニに目をやると、スデに水の中に引き返しかけとって、飛び出した目ン玉がニンマリとネコのヨウに歪んでオレらを見とった。

    『ざっけんなや!!戻て来い!!ブッ殺したる!!』
    『ムチャゆーなっつの。ホレ、次行くぞ』

    フンフン憤るオレのリードを引いて次にトージクンが向かったのは、沼から小さな川の流れるオリやった。
    さっきの一件で水場にロクな思いが無くなったオレは、舌を出してカオを歪める。

    『まァたワニィ?』
    『違う違う…………オ、いたいた』

    ドドオンと地響きの後、デッカイ木ィが遠くで倒れた。ヒョイヒョイと川を渡って倒れた木の近くへ行く。倒れた木の枝のアイダで、モソモソと毛むくじゃらのカタマリが蠢いとる。
    トージクンはソレに向かってウォン!とヒト吠えした。

    『ヨウ旦那!景気はドウだい』
    『シッポヨッツと七センチだからして……』

    毛むくじゃらはブツブツと何事かを呟きノッペリとしたシッポを倒れた木に当てて寸法を測っとるヨウやった。

    『モノは相談だが』
    『アア今はダメ忙しいの!この木を落とさなきゃ、沼へね』
    『だがハナシは一秒で済むんだがナア』
    『一秒だと?』

    一秒ゴトに水は七十センチ流れちまう、早いトコこの木で塞き止めなくちゃならないと憤る毛むくじゃらは、ビーバーと言うネズミの仲間らしい。ネズミにしてはデカイし、シッポはゴムベラのヨウで何やキショク悪い。
    デカイゆうてもネズミと比べたらのハナシで、木を切るのはトクイなヨウやが運ぶのに苦労しとるらしく、ブツクサ文句を垂れながら倒れた木を押して蹴ってしとる。
    ソレを見てトージクンはピンとミミを立てオレのリードを見た。

    『オマエに必要なのはこの“材木引き”だろ』
    『この木を半分に切らなきゃ……』

    トージクンのコトバをスルーして、ビーバーは夢中で木ィに齧り付いとる。
    一向にハナシが進まんのでオレもウシロアシでミミをカイカイと掻いて大アクビをした。

    『“材木引き”をいかがですか!!』

    ドコから出とんねんと言った大声でトージクンが叫び、オレは引っ繰り返る。ビーバーは両手でミミを塞ぎカオを顰めた。

    『“材木引き”だって!?』
    『引っ張る時間を六十六パーセントも節約出来るシロモンだ』
    『チョード前に貰った見本が壊れて途方に暮れてたトコロだ!』

    ビーバーは喜び勇んでオレとトージクンのクビワを噛み千切り、ワを木の枝に引っ掛けてからリードをグルリとカラダに巻き付けた。

    『今度こそ、お代を払わなくっちゃな』
    『イイんだ。タダでやるよ。とっときな』
    『無料サンプルやからな』

    オレが追従するとトージクンはニンマリと笑って舌を出した。
    ビーバーが喜んでイキオイヨクリードを引くと、丸太と一緒に転がって行き沼に転落した。オレらはソレに背を向けドーブツ園を去る。

    『アア、スッキリした』
    『クビワなんてナイホーが、サイコーだろ』
    『ホンマソレ』

    大きくカラダをブルブルと振り、久方ぶりの自由を味わう。
    解放感から空腹を思い出し、オレのハラが盛大に鳴る。

    『マ、イチオー礼儀としてナ、メシ誘うとくワ』
    『何でオマエそんなエラソーなんだ』
    『コッチや!行くで!』

    石畳をチャカチャカと蹴り、一軒のリストランテの裏口へ駆ける。オレはVIPやから、専用入口からテラス席を貸し切りなんや。
    カリカリカリと木製のトビラを引っ掻く。

    「ハイハイちょっと待ってくれ。今行くから…………オカシイな、四月馬鹿か?」
    「ウォンウォン!」
    「わっ、ナオヤじゃないか!またイエを抜け出したのか」
    「ヴヴヴヴ」

    コイツはスグルクン言うて、ココのリストランテのオーナー兼シェフ。いつも思てヘンお小言グチグチのウサンクサイヤツや。
    お説教にイーと歯を剥くと、苦笑いで中に声を掛ける。

    「サトル!ナオヤが来たよ」

    チャカチャカチャと軽快な音と共に白くてデカイ毛玉が飛び出して来た。コイツはスグルクンが飼うてるサモエドのサトルクン。オレとは会うタビ取っ組み合いのケンカになる。が、ヒートアップする前にスグルクンのクソゲンコが降ってくるので戦歴はアイコばかしや。
    しかし今日はサトルクンと遊んどるヒマはないねん。ゲストがおるんやから。

    「ワンワンワン、ワンワンッ!」

    木樽の陰からジイと様子を見ているトージクンの下へ戻り、紹介する。スグルクンは目を剥いてオオゲサに驚いて見せた。

    「オオ……何てコトだ……!ナオヤがトモダチを連れて来たぞ!同じダルメシアンとはスゴイな」

    スグルクンがアゴを撫でると、トージクンはワザとらしくシッポをピコピコピコ!と振り舌を出して媚びた。オレがジトリと軽蔑の目ェで見ていたら、処世術だろとヘラヘラ言う。何か、トージクンってトージクンに似とンな。

    『オマエがトモダチ何て明日はフォークとナイフが降るな…………ンで一体ダレなワケ~?』
    『トージクン』
    『エッ!?アイツ、イヌになっちゃったの!?』
    『アホ!』

    サトルクンは遠巻きにトージクンを観察して、チョット似てるカモと言うた。同しコト考えてしもた、ゲエと舌を出していたら、察したサトルクンが飛び掛かって来てゴロンゴロン石畳を転がりながらキバをガチガチ言わせる。
    ガウガウガウと吠え声が大きくなったコロ、スグルクンにクビネッコ掴まれて引き剝がされゲンコ落とされた。

    「アレ?またクビワ取っちゃったの?イイ加減収容所に連れてかれるよ」
    「ヴウウウ、ワンッ」
    「ハイハイディナーね。今日は何がいいかな?」

    折角のゲストだからと何時もと違う赤いチェックのテーブルクロスを敷き、キャンドルとグリッシーニを置かれた。雰囲気を出すな。
    メニューをグリッシーニにペラリと立てかけ、アラカルトか、ディナーかと問うスグルクンに、オマエが決めンなやと歯を剥いてメニューに目を滑らす。

    「オウオウオウ、オウッ」
    「そうかい、オーケイ」

    スグルクンは、パチンとウインクをして鼻歌混じりにキッチンへ戻って行った。
    テーブルに置かれたグリッシーニをフンフンと嗅いで、カプリと銜えて落とさんヨウ器用にボリボリ食うた。オレも続きコバラを満たす。
    クロスに落ちたグリッシーニのカケラをペロペロと舐めとってる内、辺りにパスタを茹でるニオイが広がり、次いで肉のジュウジュウ言う音が聞こえてきて、オレらは揃ってキッチンのホーに釘付けになりながらヨダレを垂らした。
    ペチャクチャとヨダレを飲み込みマエアシをフミフミとしていたら、キッチンのトビラが開きモウモウとユゲの立つ大皿を持ったスグルクンが戻って来た。

    「オン!オンオン!」
    「キュウウキュウ」
    「お待たせ!町一番の特製スパゲティ二人前、ミートボール多めだ」

    テーブルにドンと置かれた大皿にハナサキを向けると、モウレツなユゲにカオをぶたれ目を瞑る。スンとトマトのすっぱいニオイを頼りに前歯でスパゲティを掬いあげた。
    チュルリ、と音が鳴ってヨコに目をやると、トージクンもスパゲティに食らい付いとって、バチリと目が合う。ハム、ハムとパスタを銜えたまま目を合わせたままそのままおると、トージクンはチュルルル!とイッキにパスタを啜ってニヤリと笑った。
    そんくらい出来るワ!ツルル!と吸ったパスタのハシッコが、オレのハナを打ちソースがクロスに散る。よお見たら、トージクンの前にもソースのテンテンが散らばっとって、オレはフンとハナイキを吐いてまたパスタを食べ始めた。
    そんトキ、キッチンからプア~と喧しい音がして、スグルクンとサトルクンがカオを出した。
    スグルクンはアコーディオンを押したり引いたりしながらキモチヨサソーに歌い出す。やから雰囲気を出すな。

    「キ~レイな~♪」

    ヤメロ!何か……メンドクサイコトになるやろ!
    オレがイヤなカオをしてもウタゴエは止まず、むしろサトルクンが銜えて来たマンドリンをどのヨウにか掻き鳴らし、フタリの盛り上がりは留まるコトを知らンかった。
    サッサ食べて退散しよ、とハグリハグリとスパゲティやミートボールを食べる。
    皿の上の残りも少なくなったコロ、オレらは同じパスタのハシとハシを銜えてまい、ソースで濡れたハナサキ同士がチョン……と一瞬触れ合う。

    「「……………………」」
    「愛するゥ~~二人ィが~~♪」

    やからヤメロ言うてるやろ!!アブナイやっちゃな……。
    オレはワレに返りパスタを引き抜き奪い、皿に残るスパゲティをガツガツと食うた。フと、皿にミートボールがヒトツだけ残っとるコトに気付いて、ハナでツンと転がしてトージクンのホーへ押しやる。
    トージクンはパチリと目を瞬いて、オレを見つめながらユックリとミートボールにハナを近付け、パクリと食うた。イヌらしく、ハグ、ハグとスグにノドの奥に放り込むと、長い舌でペエロリとクチの回りを舐める。
    その目がチカチカとロウソクの光を反射して、まるで…………。

    「夜空ァに~の~ぼ~るゥ~ォオ~~♪」

    エエ加減にせエ!
    皿もカラになったトコロで、バウ!と吠えて元来た路地に駆け出す。チラリとウシロを見るとトージクンもゲンナリしたカオで着いて来とって、そのまたウシロにはノリノリで歌い奏で続けるアホフタリがおった。オレらおらんくても続けるンかい!
    目に着いた公園に飛び込むと、噴水の周りに“WET CEMENT(セメント注意)”というカンバンがあり、オレはソコを避けようと進路をずらした。しかし、走るオレの真上をポオンと飛び越え、トージクンはそのセメントにズドン!と着地し、得意げにオレを振り返る。その目はオマエも来いと誘うとるヨウやった。
    オレは後を追い、フタリでセメントにメチャクチャにアシアトを付けて回った。ニンゲンの描いたハートマークに、“TF NZ”のイニシャルに、全部踏みつけて読めんくして、ハアハア息を上げながら公園を走り抜けた。
    雑木林を抜けて、大きな池に架かるハシを全速力で渡る。そんトキ雲が掃けて、月明かりが届いた。
    青い毛並みにテンテンと黒いブチのある後ろスガタを見ていたらムショウに追い抜かしたくなって、ハシの欄干に駆け上ってムリクリ前へ飛び出た。
    先頭は夜風を浴びれて気分がエエ。
    やがて小高い丘の更に上にある丘、ニンゲンらァには到底登って来れんヨウな丘で絡まり合いながら草原に転げて、寄り添い息を整え草の葉先にマブタを擽られとる内に、オレらはイツの間にかそろって眠ってまった。
















    遠くでオンドリの鳴くのが微かにして、パッとマヨコでトージクンが起き上がった。

    『ヤベッ、スッカリ寝こけちまった』
    『フワァア…………やから?』
    『ナオヤがウルセーんだ』

    オレェ?
    アア、そうやあのニンゲン。オレと同し名前なんやった。
    朝マデに帰るツモリだったのによとボヤき、マエアシを伸ばしてその場でアシブミするとパッと身を翻し丘を下る道を行く。
    オレはそのセナカのブチが小さくなるのをシバシ見つめてから、もう一度大アクビをしてマエアシにアゴを乗せた。

    「ガウッ!」
    「ギャン!?」

    シッポに激痛が走り飛び起きると、トージクンがいつの間にやら戻ってきとってジトリとコッチを睨め付けとる。

    『ぁにすんじゃワレッ!!』
    『何二度寝してンだテメ~!!』
    『ハァ!?』

    トージクンは新台入れ替えやG1でもない限りは昼過ぎマデ寝とるし、そも二、三日イエを開けたトコロで特段コメントされたコトもナイ。そんなオレからしたら早朝の湿った空気の中をセカセカ帰るイミもなく、ソッポを向いて噛まれたシッポをペロペロと慰めた。

    『オマエんトコの飼い主も、ウチにいる、たぶん』
    『そやろか。昼には解散しとるんやないか』
    『ウチのはメッタにオトコに着いてかねエーンだ。その分気に入ったヤツはスグ持ち帰る』

    オレもそうだった、とドヤガオされても。
    そしてそのドヤガオのクチハシが、真っ赤なシミになっとるコトに気付いた。スパゲッティのソースや。よお見ると、顔中にテンテンと朱色のシミが付いとって、フンスと笑ってもうた。
    夜の間は気ィ付かんかったのが、朝日に照らされて見えるヨウなったんやな。白地に朱やからよお目立つワ。

    『ププ……』
    『あ?何笑ってンだゴラ』
    『やってさア………………ペロ』

    ペチョ、ペチョ、ペロ…………
    ユックリ梳るヨウにツラ周りの短い毛ェを繰り返し舐める。クチモトも。開いたクチから歯ァに触れて、口ン中もくまなく舐め、またカオの朱いテンテンに移る。
    顔中舐って、オノレのクチモトを拭うヨウに舐めてから舌を仕舞う。極々至近距離でカオを検めたが、朱色のテンテンは消えず、ブチ模様と一緒に毛に馴染んでしまっとるヨウやった。

    『自分、ヒッドイで。顔中トマトソースだらけや』

    トージクンはキョトンとして、ソレからオレのハナサキをマエアシではたいた。

    『アデッ!教えてやったンに、この恩知らず!』
    『オメーも同じツラになってンよ』

    そう言ってトージクンはガブリとオレのマズルを噛んだ。
    その粗暴さとはまるで無縁な舌付きで、オレがやったヨウにオレの顔中を舐め始める。好きヨウにさせたると、クチをの隙間からペロペロ歯ァを舐められ、思わずコチラも舌がハミ出る。その舌同士をザリリザリリと繰り返し擦り合わせて、ハナッツラが正面からぶつかった。剥き出しになった前歯がカチ、カチとぶつかっても、トージクンはオレを舐めるのを止めヘン。オレも、アツイトージクンの舌を味わうンに…………夢中になっとった。
    朝霧の中カラダを十分に湿らせ、再びオンドリが鳴くマデ舌を舐って、ペチャクチャと舌を仕舞い直しお互いを見る。

    『…………全然落ちてヘンな』
    『…………オウ』

    どうやらヨソで何か食って帰ってもウルサク言われるヨウや。
    ホンでどーしたか言えば、オレらは道すがら見つけた廃墟の暖炉でススを体中になすり付け、トマトソースのシミを隠ぺいして帰ったンやが、フツーにキチャナイとゲンコ落とされて、フロ場に叩き込まれるコトとなった。

    「こないマックロケッケで、ダルメシアンやのうてラブラドールやないの!」

    トージクンの予想ドーリ、ナオヤのイエにはトージクンもおって、スッパダカでソファに転がりピザを食うとった。

    「トージクン、ついでに一緒にオフロ入っておいで」
    「エエ~~」
    「ホラ、行った行った!」

    ケツをピシャリと叩かれる音がして、ややあってフロ場にノソノソとトージクンが入ってくる。二本足のアイダでブラブラ揺れとるチンポに狩猟本能が刺激されギラギラ狙いを定めると、アタマッからシャワーをブッ掛けられた。

    「ガブブブブ」
    「またチンポ狙ってただろこのバカイヌ………………ン?」

    アゴをグイと上げられカオをジロジロ見られる。何やねん……オトコマエがそない珍しいか?
    トージクンはニヤアとイヤな笑い方をし、トナリのトージクンにもシャワーをブッ掛けた。

    「バボボボボ」
    「ハーンやっぱり。オメーらどっかでメシ食ったな?キッタネーススはカムフラージュか」

    ソッコーでバレた!
    バラされたくなかったらオレのシゴト手伝えよとニヤニヤしよる。ココで言うシゴトとは音楽関係ではなく、コヅカイ稼ぎにやっとるユスリ、タタキ、トリタテ等のコトや。今までも他人のイエのモンをブッ壊したりしたトキに、たま~に手伝わされとった。
    そーゆうトキ、トージクンはオレにクビワやリードを付けヘン。ホンでズゥット唸って、ターゲットから目を離すなと言う。ツマランシゴトや。オレは好かん。
    マアしかし、ヨソでメシ食うたンがバレてメンドウなんはトージクンだけや。オレには関係のナイハナシ。

    「他人事みてーなカオしてンなよナオヤァ。ど~せゲトーんトコだろ?オメーが唆したってチクッてやる」
    「!?」
    「イヤならシゴトだ。ハタラカザルモノクウベカラズ」

    前屈みンなってオレのセナカを泡だらけにしながらヘラヘラ笑う。ア~~アッサイアクや!せめてモノイヤガラセにカラダを大きくブルブルッと震わせた。

    「グーーーーッ!?」
    「ギャウ!?」

    途端、トージクンが家中、イヤ街中に聞こえるヨウな大きな悲鳴を上げもんどり打って、フロ場の床に転がる。オレはパニクッて狭いフロ場をグルグルグルと周った。その際、うずくまるトージクンを何度も踏んでしまったのは故意やない。
    未だ倒れ縮こまるトージクンが流石に気になって、フンフンとカオを覗き込む。ミミをツンツン、ペロペロしても、トージクンは何やらブツブツ言うてるダケや。

    『アカン。トージクンがオカシなってまった。どないしよ』
    『エラソーにブラブラ揺らしてるご自慢のソーセージを試食してやったのサ』
    『エエ!?ズッコイで!オレが先に目ェ付けてたンに!』
    『早いモン勝ちだろ』

    トージクンはペロンとオレのハナッツラを舐めニヤリと笑い、ブルブルブル!と身震いし、フロ場から飛び出していった。トージクンのせーでビショビショんなったオレもモッカイブルブルとカラダを震わせ、後を追う。

    『待てやゴラーッ』
    『待たねエ~よッ』

    トージクンが飛び込んでった先の大きなベッドでフタリで取っ組み合いして、倒れ込んだトージクンに伸し掛かりアグアグとミミを食う。トージクンはマエアシでオレのマズルをバシバシ叩いた。
    やがてドチラともなくハナを擦り合わせ、重なり合ってチカラが抜けていく。
    プウ、プウ、というマヌケな音を聞きながら、シパ、シパマバタキして、目を閉じた。
    ドン!ドン!ドン!ドン!
    バンッ!!

    「ゴラァッ!!バカイヌ共ォッ!!シャレにならんイタズラすなッ!!」

    ドアが乱暴に開き驚いて飛び起きる。ドアの前にはナオヤがメラメラとヒトミを燃やして仁王立ちしておって、トージクンとくっついてゴクリとツバを飲んだ。

    「ハーーッ!?アンタら、ビショビショのマンマドコで寝とンねん!!コロス!!」

    逃げヨウとベッドを降りるもトキ遅く、周り込んだナオヤにゴイン!ゴイン!とゲンコ落とされ床にバタンバタンとカラダを打った。

    『グエエエエ!!何やコイツ~~!!』
    『ゼッテアタマ割れた!!~~!!』

    そしてクビワを失くしたコトもグチグチ責められ、その上サイアクなコトに何とか復活したトージクンに結局外食をバラされて、オレらは“stupid mutt(バカな雑種)”と言う屈辱的なカンバンをクビからブラ下げて、一日掛けて街中を連れ回された。このオンナ、今にコロス!!

    ちなみに爆笑しとったスグルクンとサトルクンもコロス!!


















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