聡実くん、こっち向いて(あれ、)
ぱたぱたと雨が二、三粒。フロントガラスを打ちつけてからまばたきをした一瞬のうち、降り出した雨はアスファルトをすっかり変色させるほどの驟雨になる。横殴りの風に煽られ波打つように揺れる雨の影を見ていると、冷房の効いた車内では感じるはずのない湿度が思い起こされて胸の内が咽せかえった。
空は明るいままで雨は降り続けている。どうやら天気雨らしい。雨は大粒でガラスを伝い流れていたかと思えば、いつのまにか次第に霧と見紛うほどの細かい線になる。勢いがあったのも一瞬だけで、すでに音もなく静かなものに変わっていた。
雨は好きではない。湿気で重くなる空気も水に濡れる不快感も厭わしい。ここで巻き込まれた渋滞がかえって功を奏して、濡れることがないのは助かった。
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