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    さわら

    @sawaragomu
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    さわら

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    いのちゃんとカカイル(ホワイトデー)
    もう…7月ですけど…書き終わってませんけど…

    バレンタイン→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19952701

     その後カカシがいのに会ったのは、アカデミーの卒業式があった翌週だった。卒業式に飾る花を火影名義で注文していた為、いのがその請求書を火影室に持って来たのだ。
     彼女は火影室の隣にある事務室に最近なにかと出入りしていたようだが、カカシは火影室を空けることも多かったので顔を合わせたのは先月以来だった。その間何度か火影室を手伝いに来たイルカは、いのにあれこれ問い詰められて辟易していたようだ。
    「こちらが請求書です。よろしくお願いします」
     書類が山積みになっている書斎机の前に立ったいのは、店名の横に花のイラストが入った封筒をカカシに差し出した。請求書在中と朱書きされている。
    「わざわざありがと……入学式も頼むね」
    「はい。任せてください!」
    「……」
     カカシは受け取った請求書を横に置きながら、やや眉を顰めた。請求書なんて隣の事務室に預けておけばいい物だ。他に何かあるから、わざわざ火影室まで直に持って来たことは明白だった。
     案の定、いのは何か言いたげにカカシをじっと見つめている。目が合うとニコッと笑顔を向けられた。
    「ところで……そろそろご入用じゃないですか?」
    「なにが?」
    「花束ですよ! は、な、た、ば! 今週末、三月十四日!!」
     いのは少し苛ついた様子で力説した。恋人たちのイベントデーでもある二月十四日のお返しをする日が、来たる三月十四日だった。
     カカシは二月にイルカからプレゼントを貰ったことになっているので、確かにお返しは必要だろう。でもイルカがくれたプレゼントは実はいのが用意したもので、それでお返しに彼女の店の花を買えと言うのだから、なかなか強引な商売をしている。ただ彼女が好意でそうしてくれていることは分かっていた。
     いのに期待に満ちた目を向けられて無下に断る訳にもいかず、しかも彼女はカカシから良い返事を聞くまで帰ってくれそうになかった。
    「うーん……じゃあ、ひとつお願いしようかな」
    「わ。ありがとうございます! ご希望はありますか?」
     いのは胸の前で手を組んでニッコリ笑った。人当たりのいい営業スマイルが板に付いている。
    「あんまり大袈裟じゃなくて、あの人に似合うやつ」
     あのひと、と言った瞬間に、いのの表情が輝いた。本当に恋バナが好きだな、とカカシはマスクの下で苦笑した。この調子だと彼女の上官だった悪友も苦労させられたんじゃないだろうか。そう考えると可笑しかった。
    「それから、日持ちする方法があったら教えて」
     次に俺がイルカ先生の家に行くまで咲いてて欲しいから、なんて言ったらこの子は喜ぶだろうか――カカシは正面に立ついのを見ながらそんなことを考えた。言っても良かったが、実際には口にしなかった。下手に食いつかれたら話が面倒くさくなるし、どうせ言うならイルカの前で言いたい。
     いのはカカシの思惑を知ってか知らずかパッと笑顔を見せた。
    「お安い御用です! お花は当日お持ちしますね」
     さてこれで彼女も帰ってくれるかとカカシが椅子の背凭れに背中を預けると、いのは帰るどころか一歩前へ歩み出てカカシの目の前にある書斎机に両手を突いた。カカシは机に高く積んでいた書類が崩れそうになったのを横目に見てから、いのへと視線を向けた。
    「……なに。どうしたの」
    「もうひとつお話があります」
     いのは、さっきまでの愛想の良い顔はどこへ行ったのか、少し強張った表情でカカシを睨んでいる。
    「イルカ先生とプライベートで会ってないって本当ですか」
     いのが真剣な顔をして尋ねた。何の話をされるのかと思っていたが、予想より踏み込んだ話でカカシは少しばかり驚いていた。もちろん顔には出していない。
     でも質問の回答には一瞬迷った。イルカが火影室に来てくれるから顔は合わせているが、プライベートで会っているかと言うと、恋バナが大好物の彼女の前で『会っている』と自信を持って言えるほどイルカと会っている訳では無かった。最後にイルカの家に行ったのは一ケ月前のことだ。これで大威張りで会ってるなんて言ったら怒られそうだとカカシは思った。
    「……まあ、忙しいからあんまり会ってないけど。なんでそんなこと……」
    「イルカ先生から聞きました! 全然一緒に過ごせてないって。火影様が忙しいのは重々承知ですけど、もっとちゃんと相手してあげてください! まさか遊びじゃないですよね?」
     いのが突然そんなことを言ったので、カカシは内心動揺した。イルカの為に時間を作れていない後ろめたさは常に身に覚えがあったからだ。
    「それイルカ先生が言ったの?」
    「イルカ先生がこんなこと言う訳ないじゃないですか」
     いのは憤慨している。カカシは、面白い子だなと思い始めていた。
    「ちゃんと本気なんですよね? イルカ先生のこと弄んでる訳じゃないんですよね?」
    「俺はそのつもりだけど……」
     どうやらいのは、先月媚薬入りのチョコレートを用意してイルカをけしかけたことを気にしているようだった。
     しかし、けしかけたと思っているのは彼女だけで、カカシとイルカの関係は最初から何も変わっていなかった。もちろんあの日は存分に愉しませて貰ったけれど。
    「イルカ先生を泣かせたら、私たち絶対許さないですから! それだけ言いたかったんです」
     カカシはいのの言い分を黙って聞いていたが、彼女の発言で気になった部分を聞き返した。
    「"私たち"?」
    「イルカ先生の教え子全員です! 先生泣かせたら、みんなでボコりに来ますから!」
     いのが真面目な顔をして言う。カカシは吃驚して目を丸くしたあとに、可笑しくなって声を出して笑った。
    「ははっ……全員で来られたら敵わないなあ」
     確かにナルトを含む彼女の同期たちなら全員で殴りに来そうだし、その下の代も似たようなものだろう。自分の好きな人が随分と慕われているようで、カカシは何故かとても嬉しくなった。でも、その中で一番は自分だと思う。
    「心配しなくても、君たちに顔向けできないことはしないよ」
    「絶対ですか?」
    「誓うよ」 
     まあベッドでは泣かせてるけどね——と調子よく言いそうになってカカシは口を閉じた。
     いのはカカシの返答に満足したのか、ひと仕事終えた顔をしてすっと身を引いた。書斎机から数歩離れて立ち、姿勢を正して咳払いをする。
    「でしゃばってすみませんでした、六代目。でも私……私たち、イルカ先生のこと大好きなので」
    「うん。わかってるよ」
     イルカ先生が聞いたら泣きそうだな、とカカシは思った。微笑ましく思うと同時に、少し羨ましくなった。カカシの為にこんな風に言ってくれる者は居ないだろう。
     いのは、カカシの言葉を聞いてほっとしたような表情をした。怒られるとでも思っていたのだろうか。
    「じゃあ、私はこれで失礼します! プロポーズする時は教えてくださいね! とびきりのブーケ作って来ますから!」
     今後ともうちの店をよろしくお願いします、と調子よく言って、いのは火影室を出て行った。
     カカシはぽかんとして彼女を見送ったが、火影室に一人になると暫くの間笑っていた。それは隣の部屋に居た事務員が心配して様子を見に来るほどだった。
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