狂月 二夜 初めて人前で肌を晒し身体を暴かれる相手が想い人ではなく、憎くて憎くて仕方がない人物だと誰が想像できただろうか。屈辱と拭いきれない殺意が胸の奥底で煮え滾る。
ノクスは予め用意していた油を指に塗り、ダスクのまだ固い蕾に指先で触れる。びくりと警戒するように跳ねるそこに油を馴染ませ、滑るように一本埋めた。
「っ……ふ……ッ」
せめてもの対抗心からなのだろう。声が漏れないようにきつく口を閉じれば皮肉にも体は強ばり、自らを開こうとする指の圧迫感は増すのだった。
「我慢はよくないぞ」
空いている手で突起をつまみ、指先で弄りながら、ダスクの首筋に顔を埋める。幼い頃から戯れに嗅いできた髪の匂いに汗が混じり、言いようも無い色香がぐるると喉を鳴らした。鼻先を掠めるさらりと整った髪を心地よく感じながら、白い喉元へ食らいつくように歯を立てた。
「イッ……っぐ……っ」
不意に与えられた鋭い痛みに苦悶の表情を浮かべ、じわりと血が滲む箇所へ舌が這う感触に嫌悪感を抱いた。
にちゃ、ぬちゃと粘着質な音をあげる油に混じり分泌された体液が指に絡む頃、あっさり飲み込んだ二本目の指で中をぐるりとかき混ぜる。
「あ、ぅ……っ」
続けざまに中を探っていると、ノクスの下腹部に熱を帯びたものがあたり、にやりと笑みをこぼす。
「ちゃんと気持ちいいんじゃん……そういえばまだこっち触ってなかったな。忘れてた」
「え、あッ……あぁ……っ!」
起ち上がっていたものが突然大きな手に包まれ、急激な刺激を与えられれば、ダスクは簡単にも果て分厚い手の中に熱を放った。
「っ……ふぅ…うッ」
「もっと声聞きたいなあ……」
「はぁっやめ、ぁ、あ……ッ!」
達したばかりで萎えかけた陰茎を再度扱いてやれば、ビクビクと手の中で生物のように脈打ち硬度を増した。甘さを含んだ嬌声が耳を満たし、ノクスは満足気に笑うとダスクの胸の突起に舌を這わせ、時に歯を立てたり吸い付いたりをした。
「ふぁ……っ!あ、はあ……っ」
爪で内壁を傷つけないよう注意を払いながら、中の一番敏感な部分を押し潰す。
「ひ、んァ……っ!」
とんとんと軽く突き、時にカリ、と掻く。
三ヶ所を同時に攻められ、強い快楽の波がダスクの身体中に流れ込む。
快楽を逃がさんと締め付けてくる熱い内壁。指ではなく自身を埋め込んだらどれだけ気持ちいいものかと興奮し、己の口角を舐める。
自分の下で喘ぐ想い人の姿に我慢は限界で、ノクスは腰布と衣類をずらすと赤黒く反り立つ男根を空気に触れさせた。
否が応でも目に入るそれにダスクは戦き、怯えきった目をノクスに向けた。
怒張したそれがどこへ向かうのかと想像しただけで萎縮し、今までとは違う汗が頬を伝う。
「……ッ……む、むり……っ」
「大丈夫」
「ひ……ッ」
逃げようとする腰を掴み、引き寄せる。柔らかくなった後膣へと先端をあてがい、慣らしていたとはいえ半ば強引に蕾を押し開けた。
「い、い…ッ痛い……!」
浅い箇所で馴染ませるように腰を回し、呼吸で緩んだ隙をついてじわじわと埋めていく。
「はぁっ、は…ッ待て、待ってくれ……っむりだ、入らない……!!」
「大丈夫、大丈夫」
ダスクの制止の言葉を無視し、赤髪を撫でながら腰を進める。一番太い部分まで入ったところで熱い杭を奥まで一気に打ち込んだ。
「カハ…ッあ、ぐぅ……ッ」
チカチカと目の前で火花が散り、呼吸の仕方を忘れる。
「はぁ…っあー……きもちー……」
「ふ、ぐぅ……ッ……っ!!」
指とは比べ物にならない質量の熱が中を満たし、痛みから逃げようと身体を少しよじっただけでギチギチと内壁が刺激を受け息苦しさが増す。
「萎えてないから気持ちいいんだろ?大丈夫、もっと気持ちよくなる」
「いや…ッむり…っむり…ッ!……ふぅ、あッあ…ッ!」
首を横に振って必死に否定するもノクスは受け入れず、腰をゆるやかに動かし小刻みに中を刺激する。埋まっている男根から溢れる先走りが中を濡らし、ある程度慣れたところで半分まで抜くとズグンと奥まで突き入れた。
「ア、が……ッ」
強い衝撃に内臓が押し上げられ息が詰まる。自分は呼吸もままならない状態だと言うのに本能のままに腰を打ち付けてくるノクスの熱い吐息が耳元にかかり、不快感が胸に渦巻く。
「ん、ぐう……ッ!あ、ッ、」
体に重くのしかかる体温が異様に熱く、無駄だとは知りながら引き剥がそうと必死にノクスの身体に爪を立てた。狼の爪は人型でも鋭く、赤い筋から血を滲ませる。そのお返しとも言わんばかりにノクスは獲物の首筋や肩口に歯を立て、汗と血の味を楽しんだ。
「あぐ…っハッ…!ぁあっ…ッ!やだ……ッやだぁ!ぃや……ヒッ…!っぬけ、ぬいてくれッ!」
恋焦がれ、求め続けた寡黙な青年がまるで少女のように自分に泣き縋る様はあまりにも情欲的で、律動を止めることなどできない。
内壁を抉るように進み、前立腺を攻め立てる律動は苦痛しかないというのにその奥底に芽生え始めるのは快楽の渦。その渦に困惑し、解放を懇願する口を噛み付くように塞いだ。
「ふ…っ!う、んん…っ!」
唇に牙を立てられるかと思ったがそれどころではないらしい。舌を絡め、歯のひとつひとつを確かめるようになぞる。逃げる顎を掴んでまた唇を重ね、長く求め続けた唇を貪った。
「はぁ……っダスク……」
「あ、あ……ッ!」
絶頂を求め腰を打付ける速度を早める。完全に色のついた声に酔いしれながら腹部に当たる熱を扱いてやればしなやかな肉体が弓なりに反れる。
「待、待っ……!ひあアッ……ッ!!」
絶頂に達したダスクがノクスにしがみつき精を吐き出すと、ノクスも収縮を繰り返す内部奥深くに熱を吐き出した。
同時にダスクは脱力し意識を飛ばしかけるも、ノクスは腰を掴んで突き上げる。
「アッあ!」
「はぁ……っ先に落ちるなよ……っ」
ぐっとダスクの身体を抱き上げ、自分の体を彼の下に滑り込ませるように仰向けになる。双丘を広げるように掴めば放った白濁が溢れ、突き上げる度に粘着質な音が耳を犯した。
「あぐッ!あっ、イッ!やだ…ッ!や.っ!うァッ」
腰を逃がさないよう爪がくい込むまで掴み、小刻みに、それでいて強く突き上げる。続けざまに与えられる快楽に思考は完全に支配され、堕ちきったダスクにノクスはうっとりと陶酔した。
「はぁ……っは……ッ」
体位を変えては何度も犯され、気絶することも許されない行為は拷問に近かった。ぐったりと抵抗する素振りすら見せないダスクの髪を掬うと、唇を寄せる。
「ころ、せ……」
掠れきった声で絞り出した言葉は解放を願うものだった。
「ころせ……っいっそ、殺してくれ……っ」
「殺すわけないだろ」
懇願を冷酷に否定されるのはもう何度目かも分からない。
ぐっ、と体を引き寄せられ、ぐちゃぐちゃに濡れそぼった蕾にまた雁首が押し付けられる。
「ふぅ、う……ッ」
ずり、と這って逃げようとするも叶うはずもない。掴まれた手を振り払う力すらなく緩みきった後膣は難なく男根を受け入れた。
「あ……ッア……っ」
「自殺なんかするんじゃねぇぞ……したら、アルバもそっちに行くと思えよ……」
「ッ……!!」
突然出された親友の名前に動揺し、歯を食いしばる。
心が折れてでも、もうこれ以上誰も失いたくはなかった。