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    icq_1wan

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    類司♀。2-Bモブから見た類と司♀の他愛のない話。
    〇女体化、多少のキャラクター崩壊

    魔王とジュリエット 突然だが、俺の話を聞いて欲しい。少し長くなると思うが、この話を誰かに聞いてもらいたくて仕方が無いんだ。
     ああ、すまない。俺の名は模部(もぶ)。神山高校2年B組の一介のモブだ。エキストラよりは出番がある程度の、名前のあるその他登場人物といった所。
     俺の話における俺の存在なんてそんなものだ。つまり、主役は別にいるという事。
     俺自身の事はどうでもいい。とにかく、俺の話を聞いて欲しい。

    ***

     同じクラスにえらくスタイルと顔と頭の良い男がいる。奴の名は神代類。進学校から何故か転校してきた謎多き人物であり、奇抜な髪色と発想と行動からか教師陣、風紀委員会から目を付けられている要注意人物だ。
     と言っても、授業中は大人しく機械を弄っており時折漏らす不気味な笑い以外特に気になる点はない。授業を聞いていない時点でアウトだろうと言われそうだが、奴はそれでも勉強が出来るのだから今更教師の話を聞く必要も無いのだろう。授業態度で追試組と一緒にテストを受けさせられていることもあるようだが。
     そんな神代はどうやらテーマパークのキャストアルバイトをしているらしく、授業中弄っている機械もそれに使うものらしい。それだけ聞くと、ああバイト熱心なんだな、くらいなのだが、奴のヤバい所はその機械の実験を人間でしている所なのである。安全性は保証されているらしいが、毎日実験台にされている生徒の悲鳴が昼休みには聞こえてくるのだ。
     その憐れな実験台となってるのが隣のクラス、2年A組の天馬司。頑丈でちょっとの事ではへこたれない意志の強さを持つ女子生徒である。女子生徒。大事なことなので2回言ったぞ。
     そう、神代類は女子生徒を試験台にしているのだ。いくら天馬が頑丈とは言え、流石に女の子に悲鳴を上げさせるようなことを繰り返しているのは神経を疑ってしまう。
     俺はそう思っていたのだが。
    「え、でもつかぴ、結構楽しんでるっぽいよ」
    「誰だよつかぴって」
    「司に決まってんじゃん」
     A組に在籍する彼女からそんな事を聞けば、意外とあのふたりの関係は健全なのかもしれないと思えてきてしまう。
     そもそも天馬は神代が来る前までは神高の変人一強だった。神代が転校してきたことで変人ワンツーフィニッシュなんて呼ばれるようになったが、そもそも天馬が変人ワンなのだ。変人には変人にしか分からない何かがあるのかもしれない。意外とお似合いなふたりだな、と言えば彼女は笑っていた。
    「ま、神代くんの片思いだけどね」
     片思い。そうか、切ないな。俺も今の彼女に長いこと片思いしていたが、一人思い続ける期間が長ければ長いほど焦がれてしまうものだ。想いを伝えるのは早い方がいいぞ、と思わず心の中で神代を応援してしまった。
    「ていうか何でつかぴなんだ?」
    「ほら、司ってテーマパークでショーのバイトしてんじゃん? その役で王子とか勇者とか、とにかく男役が多いんだけど、それがもう様になり過ぎててめちゃくちゃにカッコイイわけよ! 私も含めて女の子たちが挙ってファンになっちゃってさ、つかぴ〜って黄色い声が上がるわけ」
     所謂ガチ恋勢、というやつか。好きな男を「ぴ」と呼ぶあれなのか分からないが、下手したら彼女を天馬に取られかねない。女はカッコイイ女が好きだと最近読んだライトノベルにも書いてあった。
    「神代くんもカッコイイんだけどさ、やっぱ同じ女としてはああいうカッコイイ女に憧れるというか……そもそも神代くんってヒール役多いし、やられ役として出てくるからねぇ」
     やられ役。あの背が高くて顔が良くて比較的穏やかなアイツがやられ役をしている姿が想像できない。彼女は何度も天馬たちのショーを見に行っているようだが、生憎俺はあまり人が多いところが得意では無いため、彼女とのデートに遊園地を選んだことが無いのである。
    「今度行ってみるか、フェニラン」
    「えっ、連れてってくれんの?」
    「やられ役してる神代に興味が湧いた」
     そう言えば、彼女は笑窪を深めて笑ってくれた。

     天馬たちのショーは王道の英雄譚だった。ツカサリオンに扮した天馬はステージの上では確かに王子様だった。よく通る声は高いが、それでも勇者のような威厳がある。旅の途中で助けた異種族のヒロインと共に魔王を打ち倒す。そんなストーリー。
     シナリオも王道ながら惹き込まれるものがあり、ステージ上に小さな雷が落ちた時は思わず声が出た。後に知ったのだが、あの雷発生装置も神代が作ったものらしい。アイツはドラえもんかキテレツか平賀源内か何かなのだろうか。
     そんな事を考えていたが、魔王役として出てきた神代の迫力に息を飲んだ。顔がいい男の凄んだ表情はとんでもない。あの顔で見つめられている天馬はよくポーカーフェイスを保てるものだと素直に感心した。天馬だけでは無い。ヒロイン役の少女も、先程ツカサリオンに倒されて魔王に叱られていた手下役の少女も。役に入っているのか、一切地を出す事無くショーは進行していった。
     そしてラストシーン。ツカサリオンの剣が魔王の胸を貫いて、魔王はよろけながら一歩、二歩と下がっていく。苦しそうな呻き声とフラつく演技は、普段の飄々とした神代からは想像が出来なかった。
    『私の……支配を、拒むか……! ツカサリオン……!』
    『この世界はお前のものでは無い! 去ね、闇の者よ!』
     天馬の──ツカサリオンの声と共に再び雷が鳴ると、魔王の断末魔が上がり、その体はステージの奈落に落ちていった。
    『ありがとう、ツカサリオン……あなたのおかげよ』
    『ネ・ネー、これは私ひとりの力で成し遂げたことではないのだ。ここまで着いてきてくれて、本当にありがとう』
     片膝を着いたツカサリオンは、ヒロイン──ネ・ネーの手を取ると、その手に触れるだけのキスをした。うおお、様になっている、と何故か俺がドキドキした。隣では彼女が黄色い悲鳴を上げていたが、嫉妬とか羨ましいとかそんな気持ちにはならなかった。天馬は、完璧に王子を、勇者をやり遂げたのだ。
    「ありがとうございました!」
     天馬の言葉に神代も女子ふたりも頭を下げて舞台の幕はおりた。興奮冷めやらぬ彼女は、何度もあのシーンがよかった、あの場面の天馬がカッコよかったと鼻息をあらくする。
    「確かに、普段の様子からは想像出来なかったな、あのふたり」
    「すごいよねー、司たちのステージってフェニランでも今や一番人気なんだって」
    「え? あんな小さいステージなのに?」
    「元々取り壊し寸前だったらしいんだけど、司たちが頑張って立て直したんだって。今じゃフェニランの宣伝大使だし」
     想像以上に凄いことをしている。神代の天馬を巻き込んだ実験も、立て直しに一役買っているのかもしれない。そう考えると毎度悲鳴をあげる天馬には申し訳ないが、神代のやっている事は人の役に立っているのだろう。
     今日のショーの感想を神代に伝えなければ、とそう思いながら俺はその日床に就いた。
     思えば、それが変人ワンツーバカップル(未成立)に巻き込まれる日々の始まりだったのだ。

    ***

     おはよーはよー。至る所から聞こえる朝の挨拶。欠伸をしながら俺は自分のクラスの扉を開けた。廊下と面している壁の殆どがガラスである我が校は、扉を開ける前から教室の様子が分かるのだが廊下から既に神代が居ることは確認済みである。
     細かい部品を机の上に広げながら、少し眠そうに手先を動かす彼は、昨日のステージの上の魔王とは別人のようだ。クラスメイトたちに適当に挨拶を交わして神代の元へ行くと、奴は不思議そうに顔を上げた。
    「はよ」
    「やあ、おはよう」
     俺の適当な挨拶にも神代は人の好さげな笑みを浮かべて挨拶をしてくる。前までは顔すら上げなかったというのに、愛想というものを覚えたようだ。いや、何度か天馬に「挨拶くらいせんか!」と怒られている場面を目撃したことはある。これが調教の賜物というものか。
    「昨日のショー、見たよ」
     そう言えば神代は普段は細い目を少しだけ開いた。そうして嬉しそうに目じりを下げる。
    「おや……それはありがとう」
    「お前、あんな演技するんだな。悪役が似合いすぎて思わず惹き込まれたわ」
     素直な感想を告げると、ついに神代は身体ごと俺に向き直ってきた。そのとっ散らかっている机の上のものは片付けなくていいのか。小さいネジなんて落としたらどこに行ったか分からなくなりそうなものだが、コイツはそんなことを全く気にしていないのか、ニコニコしながら俺の感想を聞いてくれていた。
    「天馬の演技も王道な主役って感じで、ああいうのは子供ウケしそうだよな。というか、舞台の上だとスゲー凛々しいのな。思わず感心しちゃったわ」
    「司くんはいつだって僕の演出希望を聞いてくれるんだ。少し危なそうに思える演出だって僕を信じてやってくれる。本当にいい役者魂だと思うよ」
    「へえ~……つか、そうだ。俺の彼女が天馬にゾッコンでさあ」
     と、俺がここまで言った途端、神代の目の色が変わった。今までどことなくふんわりとしていた雰囲気が一変して教室の温度が少しだけ下がったような気さえする。後ろから「なんか急に寒くなった?」なんて聞こえてきたので、俺の感覚は間違っちゃいないだろう。
    「君の彼女が……?」
    「え、ああ……天馬と同じA組なんだけど、もうずっと『つかぴカッコいい~!』って、俺が彼氏なんだが!? みたいな気持ちになってさ」
     明らかに奴の纏う雰囲気が変わったことは感じ取っていたが、ここで話を中断するのもおかしいだろうと俺は会話を続けた。それが間違いだったと後に公開することになるとは知らず。
    「つ……つかぴ……? つか……司くんは……司くんは……ッ!」
    「か、神代……?」
    「ぼく、僕は…………ッは!?」
     急に頭を垂れて唸りだしたかと思えば、急に何かを思い出したかのように顔を上げて俺を見た。その顔を見た瞬間、俺の脳内では警鐘が鳴り響く。あまりにうるさいソレに、俺は自分の席に戻ろうとかと一歩後ずさるが、神代は素早く俺の腕を掴んできた。
    「君の彼女が司くんにゾッコンで、君はそれが気に食わないんだよね!?」
    「いや、気に食わないわけじゃないけど彼女を女子に取られるのはちょっと悔しいというか寂しいというか」
    「つまり僕たちの利害は一致しているわけだ!」
    「何がだ!?」
     流石は変人。思考回路が全く読めない。一体どういう事象の繋ぎ合わせで利害の一致なんていう答えに辿り着いたのかは分からないが、奴の中では何かが繋がっているのだろう。こちらに一切の思考を落とさないせいで神代の想いなんて全く分からないが。コイツ、人狼ゲーム強いんだろうな。
    「君の彼女を司くんから取り返そうじゃないか!」
     一体何を言っているんだ、と俺の脳内が混乱を極めたところで朝礼のチャイムが鳴り響いた。

     昼休み、購買にでも行こと席を立った俺は、俺よりも高い位置から影を落とす存在に気が付いた。なんとなく嫌な予感がしてその影の正体を見やれば、やはりというか、予想通り神代が立っていた。しかも物凄く良い笑顔で。その笑顔、なんだか既視感があるが何だったか。
    「やあ佐藤くん。作戦会議と行こうじゃないか」
    「いや俺、模部だけど。ていうか購買に昼買いに行きたいんだが……」
    「僕のお昼ご飯をあげるよ。さあ行こう」
     そう言って半ば強引に屋上へ連行されることになってしまった。そういえば良く天馬がこんな感じで神代に引っ張られていることがあった。アイツも今の俺と同じような気持ちだったのだろうか。自分の身に降りかかってきて初めて知ることになるとは。
     普段は天馬と過ごすことが多い神代だが、毎日一緒にいるわけではないらしい。それとなく聞いてみれば、そう返ってきた。
    「君たちからは僕らが常に一緒にいるように見えているのかい?」
    「まあ、常にっていうか、目につくときは大抵一緒にいるように思うけど」
    「ふうん」
     神代から渡されたサンドイッチを頬張る。レタスがふんだんに使われているコンビニのサンドイッチは今朝買われたのだろうが新鮮なままおいしく俺の腹の中に納まっていく。俺に昼を渡してしまって、コイツは昼飯抜きにでもする気かと思えばガサガサとコンビニの袋をまさぐってゼリー飲料を取り出した。慣れているのか、器用に片手で小さな蓋を回している。
    「お前それだけで足りるのか? 貰っておいてアレだけど、半分食わねえ?」
    「遠慮しておくよ。僕は野菜が大嫌いだからね」
    「じゃあなんで買ったんだよこの野菜サンド」
    「……」
     露骨に視線を逸らされた。何かコイツにとって不都合な事があるのだろう。
    「あと俺の彼女が天馬にゾッコンの件だけど、あれはなんつーかアイドルを応援しているファンみたいな感じで……本気で恋してるとかそういうわけじゃないと思うんだけど……」
    「そんな余裕な態度取ってたらいつの間にか司くんに取られてしまっているかもしれないよ? 彼女は無意識にいろんな人を魅了してしまう、無自覚な人たらしなんだ。まさに現代の豊臣秀吉だね」
     その例えは良く分からないが、天馬が無自覚なタラシだということは何となく理解できる。アイツは神代が来る前まで神山高校の変人オンリーワンだった。しかしそれでも上級生に目を付けられることなく順風満帆な学生生活を送っていたのだ。クラスメイトからも教師陣からも『少し変わっているが良い女子生徒』という評価を得ているようで、現在はA組の学級委員長を務めているとも聞く。
    「それに、推しを推しすぎて別れたカップルの話なんてごまんと聞くよ。君たちもそうなりたくないなら、僕と協力をするべきだと思うんだ」
     いつになく真剣なまなざしで俺を見る神代。なんだかとんでもなく面倒な事に巻き込まれた気がする。
    「いや、お前なんでそんな俺たちの仲を心配してるんだ?」
    「……」
     また露骨に目を反らされる。さっきまでの真剣さはどこ行った。
     俺なりに思考を繋ぎ合わせてみる。コイツは俺の彼女が天馬にゾッコンであることに何かしらの危機感を感じているのか、彼女がまた俺に気がいくようにしようとしてくれている。そもそも俺と彼女の仲は良好であり、神代が気を揉むような事柄は一切ないのだが。
     そして天馬の事を人たらしだと俺に力説した。その時の神代の表情は、なんというか、悲壮……いや、非常に困っているような顔をしていた気がする。天馬が天然タラシであることにやきもきしているような……。
     そこで、俺はふと彼女の言葉を思い出す。
    『ま、神代くんの片思いだけどね』
     あの時は本当にそうだとは思っていなかった。そもそもロケットを背負わせたり、風で吹き飛ばしたり、爆発寸前のスモーク騒ぎだったり、そんな感情を持ち合わせていないのだとばかり思っていた。けれど、コイツの謎な行動は、それが答えだとすれば全て納得がいく。
    「お前、もしかして……ガチで天馬に恋してる……?」
     好きな女にそんな危ない実験をさせるな! と声を大にして言ってやりたい気持ちをぐっと抑えて、まずは事実確認。問えば神代はトマトみたいに顔を真っ赤にしたままなんとかポーカーフェイスを保とうとしている。相変わらず目線は泳いでいて俺と合わせようとしない。昨日ステージの上で見た堂々たる悪役の魔王と同一人物とは思えない人間くささだ。
    「あ……いや、別に、そういうわけではないけれど」
    「じゃあ俺の彼女に天馬取られちゃうかもな。アイツ、マジで推しには押しが強いから」
    「そ、それは困るね!」
     もしこの世界が漫画だったら、きっと神代の頭部からは大量の汗マークが描かれているだろう。それくらいしどろもどろになっていた。
    「だから、お前からちゃんと告白しろ。思いは早めに伝えた方がいい」
    「……それが出来たらきっと、苦労はしないんだろうね」
     これは認めたと言ってもいいだろう。どことなく諦めた様子なのが気になるが、神代類は確かに天馬司に恋をしているのだ。
    「天馬のファンは何も俺の彼女だけじゃない。A組の女子にも、ウチのクラスの女子にも天馬のファンはいる。もしかすると天馬のガチ恋勢だっているかもしれない。同じショーをする仲間で近くにいるからって、それが牽制になるわけでもないんだ。余裕こいてると、また奈落に落ちることになるかもしれないぞ。今度はステージじゃなくて、現実でな」
     俺も説教できる立場ではないが、長い片思いは想いを拗らせやすい。そうして拗らせている間に横から奪われてしまうのが一番絶望を味わってしまうだろう。残るのは後悔だけ。
    「やらない後悔よりやる後悔の方が、気持ちの整理も付けやすくないか? それに、後悔するって決まったわけじゃないし」
    「物部くん……」
    「模部な」
     コイツ俺の名前覚える気ないな? と思うが、今は天馬のことで頭がいっぱいなのだろう。寛大な俺は名前の間違えくらい許してやろうではないか。
    「そうだよね、やっぱりちゃんと司くんに伝えなきゃ……」
     どことなく覚悟が決まったような横顔は、ステージに立つ俳優だけあってイケメンだった。
    「ありがとう野辺くん」
    「模部! お前わざとだろう!」

    ***

     それからというもの、神代はホームルームが終わると即行で荷物を片付けて誰よりも早く教室を出ていくようになった。向かう先は隣のクラス。いつもとんでもなく恐ろしい形相をしているため(恐らく死ぬほど緊張していて顔が怖くなっているだけ)周りからは『魔王』と密かに囁かれている。神代たちのショーがこの神山高校でじわじわブームになっているらしく、見に行っている生徒も増えてきているからか、神代に対してのイメージが『変人』から『魔王』に変化していっているのも原因かもしれない。俺もあれから数度彼女と一緒に観劇に行っているが、本当に神代はヒール役が似合う。当の本人は人間関係初心者の赤ちゃんなのだが。
     そうしてA組のホームルームが終わるとすぐに扉を開けて飛び込んでいく。
    「司くん!」
     必死の形相で天馬の手を取って早くいこうとせがむのだ。まるで母親に駄々をこねる子供のようにも見えるが、身長一八〇センチの大男が恐ろしい顔でしているのだから絵面は全然可愛くない。
    「おお、今日も早いな類」
     対する天馬はにっこり笑いながらカバンに教科書やノートを詰め込む。置き勉をしない優等生の鑑。成績は置いておき、神代に巻き込まれていなければ学校生活態度は随一だろう。これぞ品行方正を絵に描いたような存在。ステージの上では凛々しい王子様役が板についているが、女子制服に身を包んでいる今はまさに『お姫様』だった。
     神代の後を追って教室を何となく出た俺は天馬の腕を掴んでいる姿を見ながら、やっぱりフェニランのステージで見る姿とは大違いだなと笑いが込み上げてしまう。
    「おいあまり引っ張るな!」
     天馬の悲鳴にも似た叫び声が教室内に木霊して、廊下にまで響く。そろそろ他のクラスからも生徒が出てきて、毎日の定番になっているやり取りを聞いているのだろう。各所から「またやってる」など苦笑交じりの声が聞こえてくる。
    「神代も毎日飽きないよな」
     廊下に出てきた彼女に告げると、彼女はおかしそうに眉を下げた。
    「魔王がお姫様を浚いに来る時間、って言われてるの。今のこの時間」
     なんだそれ。まるで昔から続いている大御所ゲームの大亀とお姫様を思い浮かべてしまう。神代をあの亀と同列に語るのはあまりにもビジュアルに差がありすぎるが、周りから見た立場は似たようなものなのだろうか。
    「ていうか、神代くん急に積極的になったけど何かあったんかな?」
    「何かあったというか……まあ、事態の緊急性に気づいたというか」
    「いつも真っ先に教室に入って司のこと連れていくじゃん。周りから見てバレバレだよね~神代くん可愛すぎて思わず応援したくなっちゃうっていうか」
    「俺もほぼ同じ気持ちだぞ」
     あの屋上でのやりとりから二人の仲が進展したのかは分からないが、あれからというもの神代は毎日俺に話しかけてくるようになった。その内容はほとんど天馬とのやりとりだったが、昨日はこんな話をした、昨日は手が触れあった、なんて恋愛初心者の小中学生みたいな内容を報告してくるのだ。まるで初々しいその姿に、俺はいつの間にか心の底から神代の恋路を応援してしまっているのだ。
     神代の淡──くはない、分かりやすい恋心はきっとダイレクトに天馬に伝わっているだろう。天馬の表情を見ていればそれは何となくわかる。お前らきっと両想いだぞ、と言ってやりたいがそれは野暮ってもんだろう。男を見せろ、神代。いつ告白する気なんだ。
     なんとなくやきもきする気持ちを抱えながら、俺は彼女と帰路に就く。それがここ数日のルーティンのようになっていた。

     今日のホームルームは長かった。とあるクラスメイトのおふざけが過ぎて担任から長い説教が入ってしまっているのだ。神代はどうしているだろうかと視線で追ってみると、アイツは右手の肘をついて、その手のひらの上に顎を乗せ、退屈そうにしていた。どことなくそわそわしている。そら毎日真っ先に教室を出て天馬を連れて帰っている身からしたら、今日の長い説教は耐えかねるものがあるのだろう。ぼんやりと窓の外に視線が向いているようだ。
     俺も数度欠伸をしていると、廊下側の席がほんのりざわついていた。決して大きな声ではないが、何やらヒソヒソとした声が耳に入ってきたのだ。
     廊下へと視線を向ける。一体何があるというのか。それは確かに珍しいものだった。
     学生鞄を背負って両手を前で組んで品行方正に佇む美少女。天馬司が、そこにいた。
     健気に黙って廊下で待っているのだ。誰をって、ここはB組の前なのだからお目当ては一人しかいないだろう。神代だ。あの大魔王神代類を待っているのだ。
     教室という壁が二人を阻んでいる。そんなに壮大なものではないが、まるでロミオとジュリエットのような。しかし何度も言うが神代はロミオだの王子様だなんてものはきっと柄ではないのだろう。
     ブーッ、とスマホにメッセージの着信を知らせるバイブが鳴る。机の下でこっそり開いてみれば、それは彼女からで。
    『お姫様が魔王にさらわれに行ってる』
     そのメッセージを見た瞬間、ほんの少し噴出してしまった。良かったな神代。廊下で待ってる天馬は、今鏡で前髪のチェックなんかもしてるぞ。お前に万全の状態でさらわれるためにな。
     俺はこれからもこの愉快な変人カップルを見守っていこうと思っている。この二人がちゃんと卒業までに恋人という形におさまるのか、興味もあるし、純粋に頑張っているクラスメイトを応援したいのだ。そうして成就した暁には思いっきりお祝いもしてやりたい。
     ここまで俺の話を聞いてくれてありがとう。魔王に見初められたお姫様はきっと魔王の事を愛している。さらわれた姫を取り戻しに来る王子も、一緒に仮死状態になろうと言ってくるロミオもここにはいない。
     この二人の行く先はきっとハッピーエンドだと信じている。
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