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    ebizou_1127

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    ebizou_1127

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    陛下による『お姫様抱っこ』

    公主抱「汪植、『公主抱』とはどういうものか分かる?」

    久しぶりに貴妃様の宮殿をお訪ねした折に、意外なご下問があった。

    「ええ、どのようなものかは存じておりますが」

    「そう…」

    貴妃様はそれっきり、黙り込んでしまわれた。

    「あぁ、このあと陛下に拝謁するのね?下がっていいわ」


    貴妃様は一体どうなさったのだろう。

    『公主抱』されてみたい、という事なのだろうか。もしそうであれば、陛下にそれとなくお話をしておいたほうが良いかもしれない。

    私はその足で御書房へ伺い、陛下に拝謁した。

    今日は重要な案件がないので、少しゆっくりできそうだと思った矢先に、養心殿へついてくるように、と陛下が仰った。

    養心殿に入られると、いきなり人払いをされ、


    「汪植、『公主抱』を知っているか?」


    と陛下が私にお尋ねになった。

    後宮では何かが流行する時はいつでも、一気呵成に来るのだな、とぼんやりと考えながら答えた。


    「はい、存じております」

    「そうか」


    陛下は、立っている私を頭からつま先まで、じっとご覧になったあと、


    「汪植で出来るなら、何とかなるだろうか…」


    と呟かれた。

    私で出来るなら?


    「万が一、貴妃を落としてしまっては大変だからな。そなたで練習しよう」


    練習⁉

    私はあっという間に軽々と持ち上げられてしまった。


    「ん?蟒袍の上からではよく分からなかったが、随分軽いな。あぁ、腕を首に回してくれねば落としてしまう」

    「で、ですが…」

    「早く」

    「…はい」


    高くて怖い。

    そして、余りにも畏れ多い。


    「あの…そろそろ下ろして下さいませんか」


    陛下は何かを思案なさっているようで、難しい顔をなさっている。


    「出来ることは出来るが…こう、何というか自然な流れではないな…」


    陛下はそのままの体勢で急に歩き出すと、窓際に設えられた長椅子にお座りになった。

    …私を抱っこなさったままで。

    畏れ多くも、陛下のお膝の上に乗せて頂いている状態だ。

    しかも首に手を回すように命じられていて、私の様子はまるで子供が抱っこされているかのようだ。

    「やはりこの体勢が良いかもしれぬ。さて…汪植。それにしても軽過ぎる。子供の頃のように相変わらず好き嫌いをしているのではあるまいな?」


    陛下は、私が子供の頃から耳許で囁かれるなのが苦手なのをご存知の筈なのに、そう、なさった。

    これはきっと故意に、なさっている。


    「申し訳ありません…」


    すると、陛下は突然私をぎゅっと抱きしめて


    「あぁ、これでは後宮の女と然程変わらないではないか。とにかくちゃんと食べるように。本当に悪い子だな…」


    と私を窘めるように、また耳許で仰った。

    私は何も申し上げる事が出来ず、ただ黙って俯いて、陛下が私を下ろしてくださるのを待つしかなかった。


    次の日は、特に急ぐ仕事もなく、のんびりしていたので、丁容が用意した茶菓子を食べながら、白氏文集を眺めていた。


    「丁容。『公主抱』を知っているか?」

    「意外なご質問ですね。ええ、存じておりますよ。やってみたいというご要望には物理的に無理がございますので、お応えしかねますが、されてみたいと言う事でしたら、喜んで」

    「あぁ、されるのはもう良いのだ。ただ知っ…」

    「え?されるのはもう良いとは一体どういう事ですか!!」

    「丁容、落ち着け」

    「そんな事が許されるのは、只お一人、陛下のみではありませんか!いや…毎日剣を振り回しておられるという万貴妃様なら何とか…」

    「いくら何でも貴妃様は、ない」

    「はい、では、陛下と言う事ですね!一体、何がどうなって、そんな事になるんです?」


    どうも巧く引っ掛けられたような気がする。


    「何がって、陛下が『公主抱』を知っているかと仰って」

    「だから何故、そこで、督公が『公主抱』されてしまうのです?」

    「…ん?いや、そう言われればそうだな。とにかくいきなりだったし、練習をすると仰って」

    「練習?後宮の女官では駄目なのでしょうか」

    「さぁ…女官だとなにか差し障りがあったのではないか?ただ、陛下は私が耳許で囁かれるのが苦手なのをご存知の筈なのに…」

    「!!!」


    丁容の眼が怖すぎる。

    眉間の皺が険しくなってきた。


    「理由になっていませんね…」


    丁容は、いつも懐に入れているあの小刀を取り出すと、こちらにまで寒気を感じさせるような冷たい視線で切っ先を見つめ、その刃を指でなぞりながら呟いた。
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