君のことが好きだから 盗撮は犯罪である。が、傑はその腕がすこぶる良かった。
被写体にどうにかばれないように、それでいて捉えたいシーンを的確に収められるように。
自分なりに工夫し、試行錯誤をしているうちに上達していった傑の盗撮スキルは並の盗撮犯よりも優れていると言っても過言ではないだろう。
何せその年季は十年にも及ぶのだ。
好きこそものの上手なれとも言うが、それだけ続けていれば嫌でも腕は上がるだろう。
否、傑は別に盗撮が好きでも、ましてやライフワークにしている訳でもないのである。
そもそも傑が盗撮、もとい隠し撮りをするようになったのは、すぐ側でいつでも懐っこい笑顔を浮かべてくれる親友の存在があったからなのだ。
華やかな美しさを持つ悟は傑がカメラを向ければいつでも満点の笑顔または変顔をして撮影に応じてくれる。
だから悟も別に写真を撮られるのが嫌だというわけではないのだ。
誰よりも美しい悟は、写真写りもすこぶる良い。
携帯電話の画質がそれなりのカメラで写しても、なんだか味のある一枚に仕上がってしまうのである。
被写体が良すぎてカメラマンの腕でどうこうできる範疇を越えているのでは無いか?とすら傑は思うのだった。
それだけ悟の写真はいつ何時写しても百点満点の仕上がりであり、携帯電話の画像フォルダまたはデジカメのデータには麗しい悟の笑顔で溢れているのである。
しかしそれだけ悟の写真を撮っていると欲が出てきてしまうのが傑も立派に人間である証拠だった。
こういった写真撮影用の悟の顔ももちろん好き。
だがもう少し無防備というか、不意討ちを撮ったような写真も欲しかったのだ。
これまでもそういった写真が全く撮れなかったというわけではないがその数は圧倒的に少ない。
悟を撮った写真であればピントが合っていなくてもブレていても消さないので傑の画像フォルダはいつもぱんぱんだった。
でもそれでも足りないのである。
もっと悟自身に気付かれず、自然体の悟を撮りたい。
悟の警戒心は人一倍であるとはいえ、なんだかんだ油断もある男なのだ。
この前なんて幼い頃から呪詛師に賞金首を掛けられていたとは思えないくらい無用心に、傑のベッドを陣取って勝手に寝ていたのである。
部屋の鍵も空いていたし、何より傑は任務帰りでシャワーも明日にしたいほどの眠気を背負って帰ってきたものだから、ベッドの上の悟は間髪入れずに床へとひっくり返した。
その時悟は、ごんっと板張りの床に頭を打つまで起きなかったのである。
普通は部屋に誰かが入ってきた時点で起きないか?と床に落ちてもきっと起きないであろう自分の寝汚さを棚に上げて傑は思う。
それは悟の問題なのか、それとも自分の気配の消し方が上手いのかはわからない。
しかしこれは、自分は悟が油断している所に近づけるということなのだ。
ベッドから引っ張り出しても起きなかった悟に携帯電話のカメラを向けるくらいなんてことない。
悟をベッドから追い出したその夜はあまりの眠たさに写真のことなんて全く頭になかったのだが、後になって思えばあのシーンはシャッターチャンスだったのだ。
惜しいことをしたな……と思う反面、ああいったチャンスはこれから何度もまた巡ってくるだろうと傑は確信していた。
悟は傑のテリトリーで大の字に寝転がるような男なのだ。
ひととき寝床を明け渡すのと引き換えに君の間抜けな寝顔を貰うよ?と傑は悟をベッドから追い払う前にカメラを向けて一枚二枚写真を撮るようになっていったのである。
そしてそれが十年も続いてしまえば収集する写真が寝顔だけに留まるはずがなかったことは想像に容易いだろう。
欠伸をしたあとの間抜け面や遠くを眺めているような眺めていないようなぼんやりとした顔。
土産の甘い物を一人で平らげている様子、電話している姿など撮影対象となる範囲はどんどん広がり、盗撮はエスカレートしていったのだ。
生徒を指導している様子をとらえた一枚なんて、こんなの悟の痛いファンが撮って喜ぶような代物だろう。
無論それはブーメランとして傑にまっすぐ返ってきてしまうのだが。
我ながら大した悪癖がついてしまったものだと思う。
いつかはやめなきゃなあと思いつつ、こちらに気付いてない悟に向けてカメラを構えて早十年。
携帯電話はスマホに変わり、デジカメは一眼レフへと変貌を遂げていたのだった。
ここ数年で各種カメラの性能はぐんと上がり、保存できるデータ容量も学生の頃とは比べものにならないくらいに増えたなあと嬉しく思う一方で、いやいやだからこんな悪趣味は今すぐにでもやめるべきなんだと傑の中で二つある心が常に互いをにらみ合っている。
無論、優勢なのは常に悟を隠し撮りしたい気持ちの方であった。
こんなこと誰に相談できるわけもない。
相談したところでやめろと言われるに決まっているし、やめるべきなのは自分でも承知しているので無意味なのだ。
それに学生だったあの頃と違い、悟とは常に顔を合わせられているわけではないのである。
時に任務に行き、時に高専での授業を受け持ちと、大人になってから随分と忙しくなったものだから今では悟に週に一度会えれば良い方だった。
職場が同じであるとはいえ、地方出張の多い職種の自分たちだからそれは仕方が無いこと。
だが寂しいことに違いはないのだ。
誰だって、前は毎日嫌というほどに顔を見ていた相手になかなか会えなくなってしまえばそれだけ恋しくもなってしまうはずなのだ。
殊更それが好きな男であったならば、年甲斐も無くと思いつつも傑は悟に会えない時間を胸を焦がして持て余してしまっていたのである。
私物のノートパソコンでカメラから移し替えた写真データを管理し、ずらりと並ぶ悟の顔を見て「はーあ」と大きくため息を吐く。
本当は昨日高専に帰ってくるはずだった悟は急に入った任務で地方へとまた飛ばされてしまった。
加えて傑は今朝から任務のため別の地方へと出張に行っている。
昨日ならば高専で悟に会えたはずだったのにこうしてすれ違ってしまったため、もう次いつ会えるのかわからないのだ。
流石に半月以内には会えるもしれない。
否、実際それも希望的観測でしか無い。
呪術師の繁忙期はまだ始まったばかりなのだ。
だから隠し撮りフォルダも潤わない。
せっかくバックアップ用に外付けのハードディスクを用意したのに容量はすっかすかなのだ。
とはいえ悟以外の被写体を撮ろうという気持ちにもなれないものだから、傑の隠し撮りの腕は現在持ち腐れている真っ最中だったのだ。
このまま悟の盗撮からフェードアウトしたい。
しかし、遠くにいる悟を一目見つけてしまえば、きっと自分はカメラを向けずにはいられないだろう。
一種の病気だな……なんて自嘲しながら傑は膝の上に乗せていたノートパソコンをローテーブルの上に置き、よいしょとソファーから立ち上がった。
明日の任務のために用意されたビジネスホテルで今夜は一泊し、朝一で現場に向かって昼には別の任務地へと移動する。
きっと移動に多く時間を取られる一日になるだろう。
緩やかな憂鬱を感じ傑はとりあえずシャワーを浴びようとのろのろと浴室へと向かって行った。
ぎしっと古い木造の校舎に敷き詰められた廊下を歩いていると、ポケットの中でスマホが着信を告げた。
昼過ぎのこの時間帯ならば急遽任務に向かうようにという要請の可能性もある。
この後は学生たちの任務の引率が入っているので、場合に寄っては代わりの引率を誰かに頼まなければならないなと傑はスマホをポケットから取り出すまでのほんの数秒で考え、それから画面を見た。
どうやら任務の要請ではなさそうだった。
「もしもし」
「もしもし?僕さとるくん。いま高専の職員室にいるの」
「都市伝説を混ぜるんじゃないよ」
はーあとスピーカーの向こうにも聞こえるように傑はため息を吐いた。
どうやら悟が出張から帰ってきたらしい。
結局三日も延長させられたんだな。とさすがに気の毒な気持ちにもなる。
「悟お疲れ様、直帰しても良かったんだろ?」
「いやー、ちょっと文書作らなきゃなんなくてさ?」
「何壊したんだ?」
「ちがいますー!それでなんだけど、傑のパソコンちょっと借りて良い?」
聞こえてくる悟の声に耳を傾け、私のパソコン?と目をぱちくりさせた。
「自分のはどうしたんだよ」
「バッテリーが二倍に膨れてる」
「ちょっとした爆弾じゃ無いか」
「まじそれ」
いい?と悟が尋ねる。
しょうがないな。と傑が言った。
「パソコンの近くにいる?パスワード言うから打ち込みな」
「僕の誕生日?」
「いつだったかな」
「おい」
「ほら、一回しか言わないから……」
特に見られて困るものもない職場に置きっぱなしにしている古いパソコンだったが、傑はしっかり大文字小文字数字に記号のパスワードを設定している。
実際誕生日でも問題ないのだが、こういうところがだらしないと生徒に示しがつかないから。とひとりで小賢しいことをしている自覚があったのである。
「あーいいや。なんか画面あいてるし」
「え?」
「このまま使うね。三分くらいで終わるから」
「ああ、使ったらそのままでいいよ」
「おっけー」
あとさ傑。と悟が続ける。
かすかにかちかちっとマウスを押す音が聞こえる。
「この後暇?飯行こうよ」
「この後は一年の引率だよ」
「傑も出張終わったばっかでしょ?引率は誰かに代わってもらおうよ」
「誰かって誰だよ」
「うーん灰原とか?」
悟のその提案は先ほどの傑の頭の中に一瞬あった候補だった。
先ほどグラウンドで見かけた灰原に、もしこの後任務が入れば引率の代打をお願いしようと思っていたのである。
だが現在の状況は急な任務では無く、急な悟なのだ。
とはいえ灰原のことだから、悟に呼ばれてと言えば「それは大変ですね!」と快く引き受けてくれるだろう。
「灰原か……でも急に代わって貰うのもな」
「学生にも人気だし大丈夫でしょ?灰原には僕の名前で生徒らと飯行って良いって言っとくからさ」
「でも代わって貰うのは私だし悟は……いや、悟が原因でそうなるから別に良いのか」
「そうそう、灰原はさっきグラウンドにいるの見たからさ。話ついたら職員室来てよ」
「わかったよ。とりあえずは聞いてみるさ」
じゃあ。と言って、傑は電話を切った。
悟が帰ってきていることも予想外だったが、こうして電話を寄越してくるとも思わなかった。
もし引率を交代できたら悟と久しぶりにゆっくり顔を合わせることが出来そうだし、交代が難しくても引率後に悟の部屋を尋ねるのも良い。
食事に誘ってくれたということは、今夜悟に特に予定はないということなのだろう。
なんだがひさしぶりに胸の中がうきうきと踊り、まだ何も決まっていないのに浮き足立つような心地がした。
悟に会えることがうれしい。
半月以内に会えるかどうかと考えていたが、まさかこんなに早く機会が来るなんて。
今日は間違いなく良い日だろう。
「そういえば文書って何だったんだろ」
聞けば教えてくれるかな?と傑はぼんやりと考えながら、灰原の姿を探す。
悟のデスクワークは珍しい。
というか。バッテリーが膨らんだパソコンってどう処分すれば良いんだっけ?
そんなことを考えながら、傑ははたと足を止めた。
あれ、悟はパソコンの画面が開いてるって言ってたよな?
職員室に置きっぱなしの傑のパソコンにはパスワードを掛けているし、今日は使っていないからまず開いているはずがない。
であれば他の誰かのパソコンと間違えた?
否、違うだろう。
悟はもしかしなくても、傑のデスクの上にあったもう一方のパソコンを使っているのでは無いか?
「あ!夏油さん!お疲れ様です!」
「やあ灰原、おつかれ。ちょっと頼まれて欲しいんだけどいいかな?」
「なんでしょう!」
探していた灰原が体育館に繋がる渡り廊下から現われ、傑はとっさに笑顔を浮かべた。
「実はこのあと一年の引率があったんだけど悟に捕まってしまってね、引率の代わりをお願い出来ないかい?」
「了解です!確か都内ですよね」
「ああ、すまないね。悟からも連絡あると思うけど、任務後は悟の奢りで生徒らと食べに行っていいからね」
「一年生喜びますね!じゃあ俺行ってきます!」
「ありがとう、助かるよ」
学生の頃から変わらない眩しい笑顔を携えて、灰原はばたばたと一年生の教室がある校舎へと走って行った。
傑はその後ろ姿を暫く見ていたものの、そこからすぐに踵を返して灰原よりも早く走り出す。
廊下は走らない。なんて言っていられない。
自分は一刻も早く職員室に行かなければならないのだ。
悟が今使っているのは十中八九傑の私物のパソコンである。
無論そのハードディスクの容量いっぱいに格納されているのは、撮り貯めた悟の隠し撮り写真だった。
外付けのディスクに移動させようとフォルダ内の整理を休憩時間にちょくちょく行っており、画像を開いては眺めてしまう時間をたっぷり取ってしまうため画面が落ちる時間を無制限に設定したばかり。
そのパソコンを一応閉じて職員室から離れたのだが、悟がそちらを引き当てていたならばパスワードなしでスリープ状態から解除出来てしまったのも全部説明がつく。
デスクには二台ノートパソコンがあるが、職員室に置きっぱなしのものは型も古く、また私物の真新しいパソコンをその前に置いていたのだ。
誰が見ても使っているのは新しい方だと思うだろう。
こればかりは自分の落ち度。
せめて見ていたフォルダなどは全部閉じた状態で閉じていてくれなかっただろうかと過去の自分に賭けながら、傑は全速力で職員室の前へと辿り着いた。
がらがらっと忙しく引き戸を開ける。
するとそこにはコピー用紙を一枚持った悟が立っていたではないか。
「あれ傑早かったじゃん、灰原には会えた?」
「あ、ああ……引率も引き受けてくれたよ」
「そっか、じゃあ僕もこれ学長に出してくるから待ってて」
そう言って悟はひらひらとコピー用紙を片手で振る。
目元はアイマスクで隠れていて見えないが、口元は笑っているし声の調子もいつもの通り。
傑の見られたくない何かを見てしまったような様子でなさそうだった。
もしかしてセーフ?
容量パンパンのフォルダを見られていないのか、もしくは私物のパソコンは使われていなかったのかはわからない。
何にせよこちらが危惧していたようなことはなさそうだなと傑はほっと胸をなで下ろす。
難は逃れた。
助かった命は大切にしなければならないと傑は悟に微笑み返しながらそっと自席に近づき、私物のノートパソコンを回収しようとする。
「え」
デスク上に視線を向ける。
そこには、画像のサムネイルがずらりと並ぶフォルダが開かれた画面を映し出す、傑の私物のノートパソコンが起動していたのである。
落ち着いていた胸の中がひっくり返り、全身に血が巡って身体が熱くなる。
対して頭は真っ白になり、だらだらと冷や汗が流れ出す心地がした。
「傑?」
デスクの前で急に硬くなった傑を悟がひょいと覗きこむ。
アイマスクを指先でずらし、片目がまっすぐに傑を見つめるので思わずひっと息を飲む。
「君これ、見た……?」
「え?あー写真のこと?」
見たけど。と悟はけろっとして答える。
「よく撮れてるけどさー、なんか気の抜けた顔多くない?言ってくれれば僕いくらでも傑に撮られるのに」
「ち、ちがうんだ!いやちがわなくて、その……」
軽くパニックを起こしている頭の中が纏まらず、言葉がしどろもどろになる。
これらは敢えて悟の力の抜けた表情を狙ったものであり、表情を作られては意味が無い。
いやそういうことではなくて、自分は悟に言うべき事があるだろう。
「悟、すまない……私は君のことを隠し撮りしてたんだ」
「隠し撮りってこれ全部?」
「大体そう……いやそこにある分は全部そうかも」
「まじで?」
何枚あんの?と悟はぽかんとしながらパソコンの画面に目を向けた。
「さすがに全部は見てないけど、全部隠し撮りなんだこれ」
かちかちとマウスを片手で動かし、フォルダをスクロールさせて適当な画像を選んでクリックする。
画面には屋上でぼんやりと立つ悟の写真がぱっと表示された。
アイマスクをヘアバンドのように額に上げた傑のお気に入りの一枚である。
「これいいね」
「ああ、それは私も気に入ってる」
「他にイチオシのやつある?」
「他は……そうじゃなくて!」
悟!と呼べば、悟がくるりと振り返った。
「その、気味悪いだろ……親友にこれだけ盗撮されてたなんて」
「いや別に?」
「私だって良くないことだってわかってるんだ。でもやめ時を逃してずるずる続けて、すまない本当に」
「だから別に良いってば」
「ええ?」
悟の言葉に傑は漸く我に返る。
あまりの罪悪感に押しつぶされてそうになっていた胸を、一気に引っ張り上げられたかのような気分だった。
「いや、良くないだろ盗撮は」
「良くないけど、僕もしてるし」
「はあ?」
「ほら見て」
悟はそう言って懐に手を突っ込むと、スマホを取り出してとんとんと指先で画面をタップする。
そして傑に向けて見せたのだった。
「……え」
傑は言葉を失う。
画面に並ぶサムネイルは明らかに自分の顔であり、カメラ目線ではなさそうなそれらはいつ撮られたのかの覚えのないものばかりだったのである。
「これ……全部私?」
「そ、全部傑。ちなみにお気に入りはこれ」
画面に伸びる悟の指先がタップした画像は傑が高専の裏庭でうたた寝している場面を撮った一枚だった。
「こんなのいつの間に!」
「やっぱり気付いてなかった?僕も腕上げたよね」
「悟、盗撮は犯罪だ」
「それ傑にも返ってくるけど大丈夫そ?」
「まさか私以外にも隠し撮りなんてしてないよな?」
「してないよ、傑だけ」
悟はきっぱりとそう言い、そしてスマホを再び懐へとしまい込んだ。
「傑だって僕以外に撮ってないよね?」
「撮らないさ、君だけだよ」
「なんで?」
「なんでってそりゃあ、君ことが」
好きだから。と飛び出そうとした言葉を傑は咄嗟に飲み込んだ。
しかし悟を見ると、当然こちらを凝視しているのである。
「僕のことが、なに?」
「……言ってないよそんなこと」
「絶対言った!ねえなに?教えてよ」
ねえねえといよいよアイマスクを頭から抜き取ってしまった悟が百パーセントの顔面を武器に傑へと迫ってくる。
「やめろ!顔がうるさい!」
「好きでしょこの顔」
「好きだけどさ!」
「じゃあ好きなのは顔だけ?」
「そんなこと……っ」
どんどん墓穴を掘り進め、着実に退路を断たれてしまっている。
まだ何か誤魔化せないか?
否、誤魔化しても無駄だろう。
なにせもう盗撮までばれているのだから。
「君こそ!なんで私の盗撮なんてしてるんだよ」
「傑が好きだからだよ」
「……え?」
「とりあえず飯行こ、鰻予約したけど良いよね?」
にっこりと悟は笑い、驚きに両目を見開く傑の肩にぽんと手を置いた。
このまま流れで傑とは良い感じになれる気もするが、出来ればさっきまでの傑の言葉を最後まで聞きたい。
随分前から傑が自分のことをこっそり撮っていたことは知っていたし、真似てみたら存外ハマってしまって悟もまた十年近く傑を撮り続けていたのだ。
寝顔やトレーニングに集中している顔、少し気の抜けたような表情はもちろん、中には一人で色っぽい遊びをした後の写真までしっかりと悟の秘蔵の画像フォルダに収められている。
さすがに傑に怒られるかなと思いつつも、先にこの遊びを始めたのは傑の方なのだ。
黙って気付かないふりをしながら撮られておいて良かったなあと思いながら悟は、すっかり大人しくなってしまった傑の肩を抱いたまま職員室を後にしたのだった。