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    yuyugaga4

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    yuyugaga4

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    hrhn五夏(転生)
    バックルームに迷い込んだモブ僕が、様子が違うhrhnに出会う話

    ドロップバックルーム 家に持ち帰った仕事の進捗はもちろん良くない。
     ノートパソコンの真横に並んだエナジードリンクの空き缶の街並みをぼんやりと眺めながらついた肘で支えていた顎ががくんっとずり落ちた。
     おっと……と流石に背筋を伸ばしてパソコンの前に座り直そうとすると、どういうわけか目の前が真っ黄色になっていたでは無いか。
    「え、は?」
     きょろきょろと周りを見渡せば、さっきまで自室のワンルームにいたはずだったのに右も左も上も下も真っ黄色に塗りたくられた空間に立ち尽くしていたのである。
     ごーっと空調が動くような音が聞こえ、この部屋の電気は絶妙に暗いのか部屋の隅に濃い影が落ちている。
     ここはどこだ?
     なんで突然こんな所にいるんだ?
     さっきまで自宅で残り仕事にだらだらと手を着けていたはずだったのだ。
     ということは自分はそこで寝落ちてしまっていて、これは夢だということになるのだけれども、夢のわりには五感も意識も鮮明なのである。
     ぞわっとした冷たい雰囲気に背中を震わせる。
     夢じゃないかもしれない。と思いながらも、とりあえず出口を探そうと黄色い部屋を歩き始めた。
     自分が立っていた部屋には外への出入り口は見当たらない。
     人の気配はないが廃墟のようにも思えない。
     例えるならばショッピングモールの巨大な立体駐車場だ。
     きょろきょろと辺りを見渡しながら恐る恐る歩いて行き、だだっ広い部屋から部屋へと次から次へと渡り歩いていく。
     むやみやたらにあちこち歩くのも良くないかもしれないが、立ち止まっていたとて解決する気もしない。
     試しに、「すみませーん、誰かいませんかー?」と声を出してみたが、自分の声が反響するだけで返事はなかった。
     早くも心が折れそうになる。
     それでも歩き続けるしか無いのだ。
    「すみませーん……」
     もう一度声を出した。
     かと思えば、数百メートル先でゆらっと影が動いて見えたではないか。
    「あ!すみませんっあの……!」
     やっと誰かいる!と思ったのも束の間、その影はぬーっと壁や天井に伝うように伸びていったかと思えば、ぎょろりとした目玉をこちらに向けてきたでは無いか。
     手足や身体は針金のように黒くて細く、その足でどすどすとものすごい早さで向かってくる。
     駄目なやつだった。
     すくみそうになる足をなんとか動かして走り出すが、「おおおおおおっ」と金切り声とも表わしがたい唸り声がどんどん背中に近づいてくる。
     やばいやばいやばい!
     走って走って、進める部屋にとにかく入って針金の足音を撒こうとするが、距離を伸ばしてもそれはすぐに追いついてこようとする。
     後ろを振り向いて様子を伺い、姿は見えないが唸り声の接近を感じながら必死に走る。
     すると、どすんっと何かにぶつかった。
    「ひっ」
     追いつかれた!と思い、咄嗟に頭を抱えてその場に蹲る。
     だがその時ちらりと見えたのは、あの黒い針金ではなかったのである。
     白い足袋に草履。
     それから頭を上げれば、そこには袈裟姿の人間が立っていたではないか。
     自分の他にも人がいたことにまず安心する。
     しかし後ろには針金の化け物が迫っているのだ。
    「いまあのっ後ろに……!」
     立ち上がって自分が今まさに直面している危機について伝えようとしたところ、思ったよりも高い位置にあった袈裟の人物の顔を見上げる。
     それはなんだか見たことのある顔だった。
    「え、はらほんの夏油……?」
     どういうわけかそこに立っていた袈裟姿の人物は、テレビでよく見る漫才師の顔をしていたのである。
     夏油がちらりと自分を見下ろしている。
     どきりとした。
     鬱陶しそうに目を向けるその雰囲気は、テレビで見る愛想はあるが胡散臭い表情とは全く違ったのだ。
    「なんだい、猿が迷い込んでいるじゃないか」
    「は、さる……?」
     夏油の言葉に辺りを見渡したが、もちろんこの場には自分と夏油しかいない。
    「あの……はらほんの夏油さん、ですよね?」
     そうとしか思えないから尋ねてみたものの、夏油はまた心底嫌そうな顔をするではないか。
     いつもの黒いスーツ姿で、顔は良いのに口が悪い相方の隣でにこやかに立っているあの表情は見る影も無い。
     なんだかそれは恐ろしくもあった。
    「一体どこから入り込んだんだ」
    「えっと、それはよくわからなくて……」
    「傑―、あれ誰それ」
     袈裟姿の夏油の後ろに、これまた長身の男が現われたでは無いか。
     その男は黒いアイマスクをしていて目元が完全に隠れているので、前が見えているのかどうかわからない。
     だが見えているとしか思えないくらいすたすたと自分たちの立つ場所へと歩いてくるのである。
     怖い、怖すぎる。
     しかも夏油より更に身長が高いらしく、二人並んだときの威圧感がとんでもない。
     足の長さはスカイツリーくらいあるだろう。
     確かはらほんの五条もこれくらい足が長かったはずだが……もしかしてこの男は本当にはらほんの五条なのではないか?
     目は隠れているが、白い髪と長身の夏油より更に高い身長。
     そして二人並ぶとしっくりくるというか、様になるというか。
     なんとなくではあるものの、はらほんの夏油がここにいるということはこの男ははらほんの五条としか思えなかったのである。
    「迷い猿だよ。全くどこから湧き出てきたんだか」
    「ふーん、確かに一般人だね」
     五条が僕を(多分)見る。
     そしてやっぱり夏油が猿と言っているのは、ここにいる自分のことであるらしい。
    「ねえ君、なんか見た?」
    「なんかって……あ!あの針金みたいな化け物がっ」
    「針金ね」
     オッケー。と五条は言った。
     何がオッケーなのかはわからない。
     何もオッケーではないだろう。
    「逃げっ、逃げないと!」
    「好きに逃げると良いさ、来た道くらいわかるだろう?」
     夏油が素っ気なく言う。
     もう目も合わせてはくれなかった。
    「来た道って、そこに戻れば帰れるんですか?」
    「帰れないと思うよ」
    「え」
     五条の言葉に思わず目をぱちくりとさせる。
    「バックルームって聞いたことない?」
    「バックルーム……?」
     そんなの聞いたことない……いや、ある。
     でもそれはインターネットで見かけた海外の都市伝説なのだ。
     日常によく似た非日常の空間に突然放り込まれ、迷い込んだら最後、元の世界に戻ることは難しい。
     その上化け物まで潜んでいるという動画を見たが、それは確かインディーズのショートフィルムの設定であるはずで……
    「バックルームってそんな!なんで……っ」
    「おや、知っているようだね」
    「だったら話は早い。ま、頑張って帰ってよ」
     つんとした夏油と幾分ノリがフランクな五条は大凡テレビで見るはらほんの様相とは異なる。
     あの化け物も怖かったが、はらほんであるようではらほんではないようなこの二人も怖い。
     テレビの姿は演じているものであっても、果たしてここまで違うだろうか?
    「無理ですよそんなの!だいぶ歩いたけど出口なんてなかったし、そもそもあんたたちも帰れないんじゃ……」
    「私たちをお前達のような猿と一緒にするんじゃ無いよ」
     きっ、と冷たくこちらを睨みつける夏油の足下からぞぞぞっとムカデのような化け物が湧き出てきたではないか。
    「うわっ?!」
     向かってきたムカデが頬を掠めたことに背中がすくみ、どすんっとその場に尻餅をついた。
     それと同時に、ぎゃっと背後で悲鳴が聞こえて肉が潰れたような音が響く。
     思わず振り向けばそこにはおどろおどろしい何かがぐちゃぐちゃになっていたのである。
    「えっ、ええ?!」
    「僕らは最強だからさ、君は自分の心配だけすればいいよ」
     そう言って五条は「じゃーね」と放り出すように言いつつ夏油に手を伸ばしたかと思えば、そのまま腰を抱いて引き寄せて黄色い部屋の向こうへと歩いて行ってしまったのだった。
     夏油はもちろん一瞥もくれない。
    「ちょっ、あの……」
     残された黄色い部屋でなんとか立ち上がるも二人の後ろ姿はあっという間に見えなくなってしまった。
     帰るったってどうやって?
     というかなんで置いてかれたんだ?
     その場で茫然と立ち尽くしていると、不意に視界に手足が針金のように細くて長く、ぐるぐるとした大きな目玉が映り込んできた。


     ぎゃーっ!と遠くから響く悲鳴を聞きながら、悟はひょいとアイマスクの半分を指先でめくる。
    「ファンサは?」
    「休業だよ。なんでここまで来て猿の相手をしなきゃならないんだ」
     吐き捨てるように傑は言い、ふんっと法衣の袖を揺らした。
     相変わらず悪役を演じるかのような顔をしてみせる。
     でもそんな顔しながらも、さっきその猿が頭から食われようとするのを助けてたじゃん?と悟は思ったが口には出さなかった。
    「それで、裏の部屋の主はここかい?」
    「そ、この壁の向こう」
     いる?と悟は傑に尋ねる。
     いらないと言えばこのまま指先一本で吹っ飛ばすつもりなのだろう。
    「とりあえず貰っておこうかな。色々と試してみるさ」
    「楽屋の壁に秘密の部屋を作るとか?」
    「何のための部屋だよ」
    「休憩一時間」
    「ばーか、それに術師にはばればれで使えないよ」
     適当なことを言い合いながらふっふと笑う。
     そうかと思えば二人の側にあった壁は悟によって一瞬で焼き払われ、樹木のように部屋中に根を張る針金のような呪霊の本体が剥き出しになった。
     これを祓うなり取り込むなりすれば、この裏の部屋は消える。
     そうすれば今も遠くで悲鳴を上げながら逃げ惑っている男も元の場所へと帰されるであろう。


     はっと気がつけば目の前にパソコンがあり、デスクの上には空になったエナジードリンクの缶が相変わらず立ち並んでいた。
     首や肩が凝ったように痛く、どきどきと心臓が激しく胸を打っている。
     どうやら仕事をしながら寝落ちていたらしい。
     あの黄色い部屋も針金の化け物もやっぱり夢だったのだ。
     びっしょりと掻いていた寝汗を拭いながらパソコンの画面を見ると、時刻は午後九時過ぎを指していた。
     だいぶ寝てしまっていたようで、少しも進んでいない仕事を前に項垂れたくもなる。
     あーやってらんねえとパソコンの前から立ち上がると、ばきばきになった関節を回しながらソファーに放っていたリモコンを取ってテレビをつけた。
     毎週やっているトークバラエティがぱっとテレビに映る。
     そこには調度、祓ったれ本舗の姿があったではないか。
     サングラスの五条と笑顔の夏油。
     よくテレビで見る二人そのものである。
    「……変な夢だったな」
     リモコンを持ったままテレビの前にぼんやりと立ち、黒いアイマスクの五条と袈裟姿の夏油を思い起こす。
     印象は真逆だった。
     別に夢に見るほどファンでも無いのになんでだろう?
     所詮は夢なのだから気にすることでも無いのだが、なんだか妙に考えてしまう。
     騒がしいテレビを付けたまま再びパソコンの前に座り、新しく立ち上げたブラウザで「バックルーム」「はらほん」「袈裟」「アイマスク」と検索してみるが、もちろん合致する検索結果なんて出てこない。
     それはそうだろう。
     ただ、昔見たはずのバックルームの動画も、どうしてだかどこを探しても見つからなかったのであった。
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