JBS 新刊花屋パロ サンプル②Dec. ヒマワリの契機
「――ツム」
名前を呼ばれて、侑は重たい瞼を持ち上げた。よく磨かれた木目のテーブルに、炊き立ての米と出汁の香り。見慣れた風景に、あぁ夢か、と瞬時に理解する。最悪の寝覚めだった。
「おい」
見上げると、カウンターの向こうで治が顎をしゃくっていた。先ほどから、テーブルの上に投げ出されたスマートフォンが震えているのだ。一度鳴り止んだそれは、間髪を容れずに再び音をたて始める。動こうとしない侑に、治がやれやれといった様子で口を開いた。
「電話、涼子(すずこ)ちゃんやろ。ええ加減、出たれや」
治が経営する食事処“おにぎり宮”では、夜の営業に向けて仕込み作業が佳境を迎えている。
世間はクリスマスムードで色めきだっているというのに、侑は午前中から時間を持て余し、気まぐれにおにぎり宮に顔を出しては一席を占拠しつづけていた。夜には付き合って半年になる彼女――涼子との約束が控えているが、どうにも乗り気がしない。めんどいなぁ、と治に愚痴をこぼしているうちに、うたた寝をしてしまい、いつもの夢を見たのだった。
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