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    krgntl

    @krgntl

    すきなものをかく

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    ・双子が起きていられるようになった優しい円卓
    ・ダリアン視点
    ・デヴィン→ダリアン←ロジェール

    兄離れは遠いと思われる今日も今日とて、俺の背中にはデヴィンがしっかりとしがみついている。
    円卓には椅子がたくさんあるのだから、それらを使えばいいのにと思わなくもないのだが。
    弟は俺を背後から抱き締めているのが好きで、そのまま俺の肩越しに周囲を見るのが大のお気に入りらしいのだ。
    動きにくいことこの上ないが、こうして絡み付いてくるのは特に何も用事がないときだけだ。
    必要ならばすぐに離れてくれるので、とりたてて咎めはしない。咎めはしないが……たっぷりと火の焚かれた円卓でこうも密着されていると、少し暑い。
    「……デヴィン」
    「なぁに、ダリアン?」
    「喉が渇いてきたんだが」
    「ああ……水、貰ってくるよ」
    「頼む」
    任せてとデヴィンは笑い、軽い足取りで炊事場の方へと歩いていった。
    俺は強張りかけた肩をくるりと回し、一つ細い息を吐く。四六時中くっつきたがる弟を迷惑だとは思わないが、たまには休憩しないと重度の肩凝りを抱える羽目になりそうだ。
    ギデオンのように背中を丸めた形で固まってしまうのは困る。ついでにと背中を伸ばしていたら、通りすがった調霊師の少女が小さく微笑んだ。
    目を合わせ、ぺこんと頭を下げてから自分の居場所に戻っていく。微笑ましい、とでも思ったのだろう。少女の身の上は知らないが、今の円卓は彼女にも、そして俺にも優しい。それはとてもありがたいと思い、俺は椅子に座り直して弟の帰りを待つことにした。


    だいぶ身体がほぐれてきたな、と思った頃、デヴィンは二つのグラスを携えて戻ってきた。
    「水とワイン、どっちにしようか迷っちゃって」
    そう言いながら渡されたのは冷たい水。俺が身体を伸ばしたがっているのに気付いて、あえてタイミングをはかったのだろう。優しい子だ。
    デヴィンは円卓に寄りかかり、くっとグラスを呷る。ふわりと漂う香りからして、彼のグラスの中身は白ワインのようだ。
    こくんと喉を上下させてから、デヴィンはあのね、と話し出した。
    「俺、できればずっとダリアンとくっついていたいんだけど……」
    「ああ。俺は構わないが」
    「でも、でもさ。俺はずっとダリアンとしか話してないけど、ダリアンは他の人とも話してるから……俺も、ちょっとは交流とかしなきゃなって、思ったんだ」
    おや、と俺は首を傾げる。確かに長い眠りから覚めて以降、デヴィンはほとんど俺としか言葉を交わしていない。
    そもそも俺たち双児はずっと言葉を交わせずに生きてきたのだから、弟が俺以外と話そうとしないのも仕方のないことだと思っていたのだが。
    デヴィンはワインを一口啜り、はにかむように笑う。
    「世間知らずのままじゃ、ダリアンを守れないんだって気付いたんだよ。遅すぎるかも知れないけど」
    「……デヴィン」
    「だから……俺、ちょっと頑張ってみようと思うんだ。ダリアンが背負うものを、少しでも軽くするために」
    「……っ」
    弟の言葉に、俺は感動を隠せなかった。
    言葉を交わすことが叶わず、手紙でやりとりをしていた頃、デヴィンは明らかに他人を嫌っていた。
    『ダリアンと話したい。他のやつとなんて話したくない』
    『俺にはダリアンだけがいればいい。他人なんてどうでもいいんだ』
    そんな言葉ばかりが綴られた手紙を読んで、俺は弟が世界を広げようとしないことに少しばかり悩んでいた。
    俺だって交遊関係が広い方じゃないけれど、大切な弟が誰とも話そうとせず、誰にも悩みを打ち明けられずに膿み疲れてしまったらどうしようと。俺はずっと心配していたのだ。
    「ダリアン?」
    デヴィンはグラスを揺らしながら、不思議そうに俺の顔を覗き込む。
    俺は僅かに震える手で水を呷ると、隣にデヴィンを静かに見上げた。
    「交遊を持とうと考えるのは、とても良いことだと思う」
    俺がそう言うと、デヴィンは「うん」と顎を引いた。頷いたらしい。
    「嬉しいことや悩み事ができたら、遠慮なく言ってほしい。俺は……俺はお前を、応援してる」
    少し混乱しているのを自覚しながら、俺は思うままを口にした。
    デヴィンは堪えきれないと言うように破顔すると、グラスを円卓に置いて俺を抱き締める。
    「……ありがとう。ダリアンのために、俺……もっと強くなるから」
    「……ああ」
    「ダリアンに付きまとう悪い虫は、全部全部追い払ってあげるからね」
    「あ、ああ……え?」
    うっとりと囁く弟の声に違和感を覚え、俺はふと視線を流す。
    円卓の隅で、デヴィンの言う「悪い虫」が微妙な笑みを浮かべていた。
    両手いっぱいにスクロールを抱えたロジェールが、困ったように俺を見ている。
    慌てて確認すれば、デヴィンは俺を抱き締めたまま、ロジェールに向けて狂暴そうな笑みを浮かべて見せていた。
    弟の成長を喜ぶ気持ちは、あっという間に萎れて褪せていった。
    彼は全く変わっていない。
    俺に近づくものを排除したがる、手紙でやりとりしていた頃の弟のままだ。
    近付けないよと身振り手振りでサインを送ってくるロジェールに一つ頷いて、俺は弟を宥めるために、ゆっくりと立ち上がった。

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