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    それがし

    数で殴るし力こそパワー

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    なるべく生成及び発掘したらポイポイ出来るようにしたい

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    それがし

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    黒兄弟で 共に修羅場くぐったんならこれくらい言えても良かんべよ
    ポンコツニーサン見たいが為に冒頭だけバーっと

    20221209

    ##ゾイド
    ##ZOIDS

    ニーサン休暇を取るの巻 昨今は書類の電子化が進んだとはいえ、依然上長決裁には直筆が幅を利かせている。
     バッサリと変えるにはまだまだ難しい、机の端に几帳面に積まれた慣習の成れの果ての隙間から、明るい金の髪を覗かせ一人の青年が首だけを真横に向けて机に上半身を伏していた。
     天板にべったりと頬をつけ、考えることを放棄した虚ろな目は部屋の隅を見ている。
     傍から見ると完全に現場検証が必要なように見えるのだが、時折確認出来るまばたきとかすかに上下する背中だけが生きています、と言うかのように生存を主張している。それ以外はピクリとも動かない。
     そのうち首が痛くなったのか、九十度左横を向いていた頸椎が零度に直され、その代わり顎が九十度前方へ押し出される。連日の書類仕事の割には肩周辺の筋肉は柔軟に保たれてはいるらしい。
     変わらず虚ろな視線が一点に到達すると同時に、シュ、と小さな電子音と共にスライドしたドアの向こうから、書類を携えた尉官が現れた。

    「失礼いたします。先日、の……………」

    「続けろ」

     短いやり取りと同時にその場の時が止まる。
     その間わずかコンマ秒、先に時間を取り戻した尉官は部屋の状況を一瞥し、己の視線よりだいぶ下にある机の上で潰れてる上官を見遣り、最後にドアを確認すると、改めて上官と視線を合わせるかのようにおのれの膝に手をつき上半身を屈ませた。

    「続けても聞く気ないでしょう。私じゃなかったらどうしてたんですか、師団長」

    「足音で判別している。さすがにこんな姿を誰彼構わず見せているわけじゃない」

     相も変わらず虚ろな目と、多少の咎める気持ちを乗せた半目が交錯する。

    「何日捌いてるんですか」

    「延べいっしゅうかん」

    「電池切れですか」

    「セイバーと暴れたい」

    「ちゃんと勤務日課に色々組まれてますよね」

    「あの程度が物のうちに入るわけないだろ」

     不満を露わにした上目遣いで非難の意を示し、師団長と呼ばれた青年は眉間に皺を寄せると先程の体勢のまま軽く目を閉じた。
     師団長。普通はもっと経験豊富な、言い換えれば腹芸に長けた、大抵は年嵩の将官クラスが就くものだ。
     だが先のクーデター未遂から今後のことも踏まえ、事が済んだ後に内部人事が刷新された結果、戦功も考慮して大抜擢された者もいた。その一人が今潰れている青年だ。
     確かに過去の業績は素晴らしく、外部評価も押しも押されぬ、一個師団を率いるのに信頼に足る責務を果たしている。しかし性根の真っすぐさと若年からの経験不足は否めない。幕僚内部や内政に携わる、自分よりも何倍も年嵩の者と意見を交わし押し通せるほど対等に渡り合う腹芸までは、まだ手に入れてはいなかった。
     だがしかし、師団長という肩書を与えられようとも本来は大佐である。一方でそれに見合った現場実働もこなさなければならない。佐官として演習内容の勘案や各部署への発令、その外にも師団長や共和国との合同特務組織の責任者として会議やら視察やら会談やら、神経が磨り減る業務は無限にある。そこは若さと日々の日課で維持される体力によって何とかカバーしてはいた。
     こなせるだけの能力を持っているとはいえ、あらゆる業務も並行してとなっては日課程度のガス抜きでは全然足りていない。その結果が現状である。

    「日課くらい師団長権限で何とでもなるでしょう」

    「なら権限発動だ。お前が持ってきたのにもその辺のにも代わりにサインしといてくれないか。分けとくから」

     待ってました、とばかりに権限というわがままを口にする。 
     今度は数秒、場の時間が止まった。

    「……それ、僕以外にも同じ事言ったりしてませんよね?」

    「副官にはちょっと言った」

    「他者に混乱を招くのはやめてください」
     
    「常日頃一緒に業務をこなしている連中だぞ、そんな程度で混乱なぞするか」

     ぶつくさと口の中で言っているが、普段の師団長を知るものがこんな言動を見せられたら混乱するに決まっている。常日頃、公私を弁えることを徹底する人物が、たかだか書類決裁だけでここまで区別を忘れるなぞまずありえない。
     これは相当キているな。
     尉官は言語道断なことを言い出した上官が少し心配になった。が、しかし。
     内容は確認してるとはいえ、重要決裁を筆跡も違う他人にサインをさせて自分はゾイド楽しい! が通用するとでも思っているのか。
     見るからに拗ね気味な上官を見る視線に労りと若干の呆れを加味して、尉官は言葉を続けた。

    「師団長権限の使いどころを曲げないでください」

    「じゃあ今後他部署にも有用な提案をしてもいいか」

    「なんでしょう」

     他にも応用できる権限を使ってまでの提案。
     さすがは一個師団を束ねる立場にある、そこまでキてはいなかったか。
     心持ち安堵した瞬間投げかけられた言葉に、尉官はまたもや呆れざるを得なかった。

    「電子決裁用に自動サインマクロを組んでくれ」

    「いやダメですよねどう考えても」

     脳に届いてコンマ2秒、なんなら多少食い気味に、尉官はツッコミという否定を繰り出した。

    「セキュリティさえきちんと管理できれば」

    「いつどこで誰が管理するんですか。端末レベルでですか、情報部経由でですか、それともマクロ起動にパスワードでとか言いませんよね?」

     聞いた瞬間に保守目線で思わず捲し立てる。
     不特定多数が常時滞在している場所の端末で機密を扱うのに、そんな古典的なセキュリティを? 提案があまりにも稚拙すぎる。

    「それが使いどころですか。不正の疑いまっしぐらじゃないですか」

     一応聞いてはみたが食い下がって言った内容がひどい。
     最早ただの我儘である。立場を弁えずどえらいことを提案しだした。
     もちろんお互い実行する気は全くない。相手が言ってみたいだけなのもわかっている。だがその言ってみたい内容が立場に比していちいち不適当なのだ。本当に誰かに聞かれたら後々面倒くさいだけである。
     拗ねた師団長の駄々に辛抱強く付き合っていたが、先に背中の限界が来たようで尉官は背筋を伸ばした。そのまま天井に目を遣り、視線を彷徨わせ暫し思案する。
     またも数秒、今度は素早く考えを巡らした後、半ば呆れた風に、じゃあ、と、一拍置いてから切り出した。

    「休暇ですね。喫緊のものと重要なもの以外はほっぽり出して」

     そう提案しながら目線を師団長に戻すと、相手は相変わらずへたった姿勢はそのままで驚いたように両眼を見開いている。

    「そろそろ内部体制も整ったでしょう。軽いものは代理に任せて、たまにはそんなことがあってもいいんじゃないですか、兄さん」

     困った人だ、とでもいうような柔らかい笑顔を見せながら、ということでまずはこっちを、と、尉官は他人には見せない顔で、おのれが携えてきた本来の目的をぐずる兄に差し出した。

    「ペンならそこに」

    「内容を目視して直筆サインで受理をお願いします」

     多少虚ろさが薄れつつも視線だけでペンを指し示しまだぼやく兄の言へ、先程とは一転、低い声と張り付いた笑顔で丁寧に返す。目元が笑っていない。
     弟の方がこういう時の線引きはきちんとするのであった。
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