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    PoisonOakUrushi

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    PoisonOakUrushi

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    きじあまで怖い話風
    天生目のサモエドについての自己解釈が含まれます

    #きじあま
    brownBear
    #鬼島空良
    onijimaKora
    #天生目聖司
    born-eyeSeiji
    #NG

    野狗ねぇ。犬、飼ってたよね?
    じゃあ、『誘い犬』って知ってる?
    知らない?
    ……知ってた方がいいよ。教えてあげる。
    夜、犬の鳴き声が聞こえて辺りを見渡すと、視界の端を犬が走って行く。
    姿はよく見えないんだけど、飼ってる人は〝あ、うちの犬だ〟って分かるんだって。
    それですぐに追いかけるけど、なかなか追いつかない。
    ようやく追いつくと、どこをどう走ったのか。全く知らない場所にいて、辺りには誰一人いない。
    〝早く連れて帰らないと〟
    そう思って犬を見ると、飼い犬とは犬種どころか、大きさも違う。
    おかしいと気付いた時にはもう遅くって、その犬に喉元食い千切られて、殺されちゃうんだって。

    まあ、ただの都市伝説だけどね。


     吉走寺駅前で、天生目はぼんやりと行き交う人々を流し見ていた。
     今日はバー黒兎は休みらしく、クローズの小さな看板に、がっかりと肩を落とした。折角の空き時間が詰まらない暇に成り下がり、仕方なしに事務所に行こうかと足を向ける。しかしふと、バーが休みなら親友も暇なのでは、と思い当たり連絡すれば、どうやら予想通りだったらしく、夕飯を出しに遊びへと呼び付ける事に成功した。
     駅改札口の隣に有る交番付近では、同じ様な待ち合わせが何組か、思い思いに時間を潰している。
     夜も遅ければ不良に目を光らせている警官も、まだ夕暮れの始まりでは私服の若者を気にも止めず、大人相手の業務に追われている。それでも拭えない居心地の悪さが有るが、鬼島が来るまでの我慢として、天生目は安全な国家権力の目の届く範囲で静かに佇んでいた。
    〝ワンッ!〟
     何処かで犬が鳴いた気がして、散漫していた意識が辺りを探す。
    〝ワンッ!〟
     先程よりは方角が分かる程度の鳴き声に、きょろきょろと彷徨っていた視線が、一方へと流れる。
    「……ぁ」
     人影の合間、一瞬見えた大型犬は馴染みある姿で、長い毛を靡かせて走っている。
    〝ワンッ!〟
     遠くなる鳴き声に弾かれて、考えるより先に足が動く。既に見えないものの、微かに聞こえる声の方角へ、耳を頼りに駆け出した。
    「天生目⁉︎」
     漸く来たらしい親友の声がしたが、応えるどころか振り返る暇も無いくらい、天生目の頭には犬を捕まえる事しか無かった。

     ダラダラ歩く邪魔を躱して、前だけを追う。時折スピードを落として見渡すと、逃げる姿が視界の端を通り過ぎるので、慌てて方向を変えた。繰り返す呼吸で喉が痛み、心臓は破裂せんばかりに脈打ち、慣れない運動に足が絡れそうになる。
     家に居る筈のサモエドが、何故街中を走っているのか。餌係は、散歩係は、組員は何をしているのか。
     走りながら疑問は苛立ちに変わるも、考えている余裕は無く、取り敢えず保護が先決だと必死に体を動かした。
     すっかり日の暮れた静かな住宅街の間、少し開けた駐車場。その端に有る街灯の下で尻尾を振って座る背中に、天生目はやっと追いついた。
     疲労で震える膝に手をついて、倒れそうになるのをギリギリ支える。乾き切った喉は唾液すら染み、痛む心臓を抑えようと、繰り返し繰り返し肩で息を整えた。
    〝ワンッ!〟
     寝静まった時間では鳴き声が矢鱈と響く。住民が起きる前に連れて帰ろうとして、近づこうとした矢先、誰かが天生目の腕を強く掴んだ。
    「ッ! 空良?」
     驚いて振り向けば、珍しく息を切らした鬼島が、何処と無く困惑した表情を浮かべていた。
    「天生目。おまえ、何してんだ」
     おそらく、心配して後を付いてきたのだろう。呼び付けておいて、何も言わずに走り続けてしまった事は、少しばかり罪悪感を抱いた。だが、鬼島の方が体力も有り足も速いのだから、追い越して捕まえてくれればこんなに疲れずに済んだのではないか、と不満も過る。
    「うちのサモエドが逃げたらしくってね、捕まえようと、追いかけていたのさ」
     大きく息を吐けば、鼓動も大分落ち着いてきた。犬の方を見ると相変わらず尾を振っていて、疲れたのか動こうとしない。
     天生目は今の内に捕獲しようとするも、ガッチリと捕まれたまま。離せ、と言おうと顔を向けると、警戒するみたいに眉を寄せた鬼島は、真っ直ぐ犬を睨んでいる。
    「なあ、おまえの飼ってるサモエドってのは、あんな汚い野良犬みたいな感じなのか?」
    「何を言ってるんだ空良。そんなわけないだろ」
     大事なペットを野良犬呼ばわりされて、天生目の声に苛立ちが乗るも、鬼島は視線を外さない。その様子を不思議に思いながら、自慢を含めて説明しようと口を開く。
    「いいか、空良。うちのサモエドはな……」
     が、直ぐに言葉に詰まり、声が途絶える。どんな犬なのか、知識としては知っているが実際の記憶が無い。
     そもそも犬等飼っていたのか、と疑問が浮かぶ。サモエドとは、電話の内容を誤魔化す為の方便でしかなかった筈なのに。
     忘れる事の無い事実を思い出して、天生目の顔から血の気が引いた。
    「……どおりで、追いつけなかったわけだ」
     鬼島が忌々しげに呟いた。ただの夜の空気は、いつの間にか呼吸し辛い重々しさに満たされている。
    〝わん〟
    「ひっ!」
     犬の鳴き声とは似ても似つかない鳴き真似が、這う様に響き渡る。薄明りの下、さっき迄サモエドに見えていた影は、犬というより肋の浮いた人間の背中に変わっていて、伸び放題の髪を揺らし徐に振り向く。
     人が犬に、犬が人に成り掛けた中途半端な形状の顔が、涎を垂らしながらニタリと笑った。
     悪意ある下卑た表情に、嫌悪と恐怖が天生目の背筋を駆けて思わず後ずさると、直ぐに鬼島が庇う様に前に出た。
    〝ひっ……ひっ……〟
     引き攣った呼吸音を発てて口を吊り上げる。笑い声に鬼島が警戒を強めるのと、怪異が此方へと駆け出すのがほぼ同時。獣さながらに四つ脚で走り、あっという間に距離を詰めると、牙を剥いて飛び掛かってきた。
    「おらぁぁ!!」
    〝ギャッ!〟
     跳ねた体を的確に捉えた鬼島の蹴りで、怪異が地面に転がされる。
     ダメージは入ったのか蹌踉つつも起き上がり、腹立たしげに牙を見せて唸った。
    「?」
     しかし、仁王立ちで指を鳴らす鬼島に威嚇された途端、大きく体を震わせて、闇に溶ける様に消えていった。
     張り詰めた空気は跡形も無く、夜の住宅街を静寂が包んでいる。
    「逃げやがったのか? ダセェやつ」
     キョロキョロと辺りを伺っていた鬼島が、力を抜いて肩を回す。
    「ダサかろうが何だろうが、助かったなら構わないだろ」
     天生目が詰めていた息を吐く。安堵から崩れ落ちそうになる膝を叱咤し、息を整えていると、じっ見詰める鬼島と目が合った。
    「大丈夫か? 天生目」
    「助かったよ、兄弟。正直、何が起こったのか分からないし、分かりたくもないけど」
     表情乏しく心配する鬼島に応えれば、僅かながらも目付きが和らいだ。その様に笑みで返すと、早くこの場を離れようとして不意に気付く。
    「空良、ここ、どこだい?」
     全く知らない住宅街。
     走り続けた時間はそれ程長く無かった筈だが、吉走寺駅周辺では一度も見た事の無い景色が広がっている。鬼島は天生目の後ろを眺めると、アレ、と指を指した。
    「あそこにあるのが金時塔だ。取り敢えず、アレを目指す」
    「マジ?」
     体感と距離の合わなさに、再び顔が白くなる。それに気付いてか、鬼島が少し強めに天生目の背中を叩いた。
    「こんな所まで走りやがって。追いかける身にもなりやがれ」
    「痛いじゃないか、僕は被害者だろ? でも、逆じゃなくて助かった。体力バカのキミを追いかけ続けるなんて、僕にはできないからな」
    「おまえも筋トレしろ。ほら、さっさと帰るぞ」
    「待てよ、空良」
     軽口を叩き合い、帰路を探す。
     今度は更けた夜道の警察と言う厄介を避けながら、結構な距離を肩を寄せて歩く羽目になった。

    ねぇ、知ってる?
    隣のクラスの子、犬に襲われかけたらしいよ。
    ……ううん、誘い犬じゃなさそう。
    あのね、帰り道をヒタヒタと着いてくる音がしたんだって。
    不審者じゃないか、不安になって振り向くと、電柱の影に犬が隠れてる。
    野良犬かな?って思ってると唸り声を上げるから〝こらっ! しっ! しっ!〟って大声を出したら居なくなったって。
    実は、他にも何人か追いかけられたらしいんだけど、大声を出せば、悲鳴でも追い払えるみたい。
    大声が怖いなんて、ただのビビリ犬よね。
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    PoisonOakUrushi

    PASTきじあまでホワイトデー
    我儘 ペラペラと捲る雑誌は格闘技の記事ばかり。そもそもが、そう言う雑誌だけを買っているのだから当たり前なのだが、求める答えやヒントの無さに、がっかりと溜息を溢す。
    「って」
     後頭部への軽い衝撃に振り向けば、ベッドの上を陣取る天生目に、蹴飛ばされたらしい。本で顔を隠しつつも隠れない不機嫌な気配に、言いたい事は山とあれど、撤退を余儀なくされる。
     どうやら溜息がお気に召さなかったのだろうと見当は付くが、そもそもの不機嫌の理由には心当たりが無く、鬼島は眉を潜めて雑誌へ向き直ると、読んでるフリをしながら必死にこれ迄を振り返った。
     今日の朝は、ホワイトデーとは男性が女性に菓子を贈る日ではなかったかと、なけなしの知識で鬼島は首を傾げていた。とは言え、鬼島に手作りのクッキーをくれたのは、義母の那津美と義妹の愛海である。何くれとなく心配をして世話を焼こうとする那津美から、何かに付けても付けなくても、差し入れをされる事は多々あるので、礼を言いながら受け取った。その量が若干多い気がしたが、クッキーを見る愛海の目の輝きで、理由は直ぐに理解した。元々、甘い物は得意で無い事も有り、食後のデザートとして活用される事が決まった瞬間である。
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