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    mobdesuka

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    mobdesuka

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    別れたいずレオの話
    夢ノ咲卒業後Knights解散成人設定
    これもいつか完成させたい〜……

    汝、天才を愛する覚悟はあるか 案外、こんなものなのか。薬指に嵌めていた指を弄りながら、泉はまるで他人事のように冷静に分析をする。目の前の、数秒前まで恋人だった旧友の涙を見ても罪悪感は湧かなかった。そんな資格はないと思ってしまったのだ。あまりにも冷めきっている思考に自分でも驚きながら、もう戻れないのだと確信する。
     指輪を抜いた左手が、とても軽く感じた。



     レンズ越しに見える自分は、誰よりも美しくありたい。カメラマンが無意識にシャッターを押したくなるような。慌ただしくスタジオを駆けるスタッフが立ち止まってしまうような。一秒たりとも目を離したくないと願ってしまうほどの人間でありたいと、泉はカメラの前に立つときに必ず願う。けれども現実はそう上手くはいかない。実際何度かカメラマンやスタッフが息を飲むほど美しいねと褒めることはあれど、慣れればもう日常に溶け込んでしまうのだった。それでもいいと思えるようになったのは、ここ数年の話。幼少期から培われた努力は、絶対に報われている。自分がそう確信しているのだし、文字で埋め尽くされているスケジュールアプリを見れば如実に現れているのだから、いちいち悔やむほうが勿体ない。事実、あまり気にしなくなってから余裕が出たのか、いい雰囲気だと褒められることもしばしば。瀬名泉と聞いて首を傾げる人間のほうが、今は流行りに乗り遅れていると笑われるのだろう。


    「おいっす〜」
     おじゃましまぁす、間延びした声が玄関に響く。泉は客人用のスリッパを置き、慣れたように上がってくる友人から荷物を受け取る。ガサガサと擦れるビニール袋は、いったい何人用だと文句を言いたくなるほどの酒缶の重さで持ち手部分が伸びていた。
    「あんたこれ、全部飲むわけぇ?」
    「まさか。セッちゃんも飲むでしょ?」
    「え〜……」
     泉はアルコールが苦手で、撮影の打ち上げやパーティーなどの席でも嗜む程度を意識している。こうして見知った友人たちとの席ではほろ酔いくらいは許容だが、一度飲み方が悪かったのかその日の体調の具合いだったのかは分からないが悪酔いしたため、それ以来さらにアルコールへの嫌悪感が倍増した。あの飲みの席にいたというのに、というか泉を徹底的に酔わせようと企んでいた首謀者の凛月は、渋る泉を見てへらりと口端を上げていた。
    「今日は無礼講でしょ? ほら、ちゃぁんと持ってきたんだから」
     じゃーん、と凛月が鞄から出したのは一枚の写真。そこには一人の男が屈託のない笑顔で猫と戯れているところがおさめられている。泉はその写真を目にした瞬間、溶けてしまいそうな笑みを浮かべ黄色い声を上げた。
    「はいはい、その前にセッちゃんも俺に見せるものあるよねぇ?」
    「ふふん、コレ、でしょぉ?」
     テーブルに用意されていた裏返しの写真をひっくり返せば、ハートの風船を持った男がこちらにウインクをしている。凛月は咄嗟に胸を押さえ、小さく呻く。そうしてすぐさま交換された写真を、各々見つめ感嘆のため息をこぼした。
    「はぁ……ランダム制だと分かってるけど、やっぱ自引きできなかったときの悔しさってないよねぇ」
    「そうだねぇ……でもセッちゃんがま〜くん当ててくれて本当によかった」
    「くまくんもねぇ。ふふ、このゆうくん、自然体だからこその笑顔が堪らないなぁ! カメラにもすっかり慣れてさぁ、個人の写真集まで出しちゃうんだからっ!」
    「そういえば、今度ゆうくんとドラマで共演するんだって?」
     持参したらしいフォトフレームに入れ、立て掛けたブロマイドを眺めながら缶のタブに指をかける。カシュッと炭酸の心地よい音を鳴らした凛月に倣うように、泉も缶を手にする。
    「うん。でも学園ドラマなんだよねぇ。ゆうくんはいいけどさぁ、俺もう二十七になるんだけど」
     缶同士を打ちつけ、一口流し込む。アルコール度数の低いカクテルを購入したのは、凛月の配慮だろう。下戸の凛月も同じものを呑むのは、泉とサシで呑むときの恒例となっていた。
    「学園モノ、ねぇ。確かに、俺からすると今のセッちゃんの制服姿ってあんまり想像できないかも」
     卒業して八年が経つ。相貌も考え方も、あの頃と比べるとかなり変化した。思い出話となった学園生活は、そんなこともあったねと懐かしい気持ちになるほど、年月が経っている。それでも、大事なことは忘れられず今も鮮明に思い出せるのだから人間の知能というのは面白く、時に残酷だ。
     凛月と交換した写真に映る真を一瞥して缶の中身を空ける。家主に声を掛けるでもなくキッチンへと足を運んでいた凛月が、泉の前に未開封の缶を置く。タイミングの良さに口元を緩め、冷えた缶に指を添えた。
    「トリスタも大きくなったよねぇ。十周年ライブ、ドームツアーだよ」
    「ほんっと、もうなかなか当たらなくなってきちゃってさぁ……とうとうゆうくんからの関係者席にしなよって誘いに甘えちゃった」
    「俺も、ま〜くんが節目だから絶対来てほしいって言ってくれてさ〜。マネくんにスケジュール管理いつもより慎重にねって念押してきた」
    「あぁ……くまくん、最近どうなの? この間の深夜ドラマ、録画して観てたけど映画化するらしいじゃん」
     凛月と他愛ない話をするのは好きだ。一緒にいて、一番落ち着く。どんなにどうでもいい話でも凛月には話してしまいたくなるし、仕事の悩みや楽しかった出来事など、話題が尽きることはない。たとえ静まり返ってしまっても、その空気感が心地よかったりもする。凛月もまた、泉と過ごす時間は肩の荷を下ろして会話ができるのだと会うのを楽しみにしていた。
    「そういえば、ス〜ちゃんと月ぴ〜に会ったよ」
    「……へぇ」
    「ほら、今ス〜ちゃん期間限定で単独ラジオやってるでしょ? そのゲストで、どうしても月ぴ〜に来てほしいってお願いしたみたい」
    「あぁ、あのラジオね。俺も聴いたよ。相変わらずしっちゃかめっちゃかで、かさくんがあんなに怒ってたの久しぶりで笑っちゃった」
    「あれ、知ってたの?」
    「かさくんから連絡来てたから。あんたも来るでしょぉ?」
    「もちろん〜。この間はたまたま局で会ったからさぁ。月ぴ〜なんていつぶりに見た? ってくらい久しぶりだったから、俺も乱入したかったなぁ」
    「飲みには誘わなかったんだ?」
    「誘ったよ〜。でも作曲のほうで忙しいんだって。ラジオも、合間を縫って来たんだ〜って、スオ〜の勢いにはいつも敵わん! って、笑ってた」
     そのときのことを思い出し、凛月はくふくふと楽しそうに笑っていた。つられるように、泉も目を細める。
    「今回のドラマの挿入歌もあいつが担当するらしいしねぇ」
    「えっ、そうなの?」
    「名前書いてあったし、なんならあっちから連絡してきたからねぇ。珍しくて何かあったのかって身構えちゃった」
     決して輝いていたとはいえない三年間。それでも確かに青春の日々で、もう二度と味わうことなんてできない三年間だった。五人だったKnightsは、泉とレオの卒業と共に解散した。二人ともあれ以来アイドル活動を引退したし、凛月や嵐も卒業を機にモデル業や俳優業なんかに専念した。司もアイドルこそやっていないものの、アイドルプロデュースを行い、育成に励みながら自身は俳優業や朱桜家当主として慌しい生活を送っている。レオは表舞台から降りて、作曲家として世界中に音楽を届けているが、司のラジオのゲスト出演のように気分次第でメディアに顔を見せるときもあった。
     こうして各々忙しない日々を過ごしているものだから、五人で集まることも難しい。個々で会うことはあれど、最後に全員で集まれたのはいつだっただろう。考えようとして、止めた。
    「ふぅん……セッちゃん、月ぴ〜と連絡取ってたんだ?」
    「まぁね。あいつ、いつまで経っても自己管理能力ゼロだから。もうスケジュール管理とかはしてないけど、たまぁに生存確認しに行ったりはしてるかなぁ」
     作曲をすると周りが見えなくなるのは、昔から変わらない。だからこそ誰かがそばに居てやらねばならないのだが、それも泉から他人に変わることもなかった。例え何度二人の関係が変わっても。泉の言葉に、凛月は眉をひそめて「あのさぁ」と不満たっぷりの声色で呼びかける。少々重たい空気の中、軽快な電子音が鳴り響く。テーブルに置かれた泉のスマートフォンが、音に合わせて震えていた。ごめん、そう一言詫びれば、凛月もどうぞと片手をひらひらと動かす。画面を見て一瞬眉が動いたのを、凛月は見逃さなかった。
    「もしもし? あぁ、うん、ごめん。今ちょっと、友だちと一緒で……うん、そう、朔間凛月くん。あー……そっか、うん、うん……いいよぉ。……はい、おやすみぃ」
     少し離れたキッチンで、凛月を背にしながら喋る泉は、どことなく雰囲気が異様で少し背筋がゾワリと震えた。通話は一分もしないうちに終了し、泉はスマートフォンを操作しながら凛月の前に座る。
    「……誰?」
    「…………彼女」
    「はぁ?」
     なんとなく、予想はしていた。けれども泉からそんな言葉を聞く日が来るとは思っておらず、素っ頓狂な声を出してしまう。
    「なに、いつから付き合ってんの? ていうかどちら様?」
    「一ヶ月くらい前。あんたに言っても分かんないと思うけどぉ、新人モデルの子」
    「うっわ……歳下かぁ」
     額を押し上げ、若干引き気味の様子に文句でもあるのかと問う。キッと鋭く細めた真紅の瞳の意図に気づかないほどもう鈍くはないだろう。ふいに逸らされた視線は気にせず、ただ、泉の問いに答える。
    「あるよ、文句なんて山ほどね」
     ただ、それは凛月が言うべきことではない。例えばその女性に難があれば友人として諭すことくらいはできるだろう。けれど現状、女性のことを知りもしない凛月が自分の感情のために下げるようなことをいうのはただの我儘で、悪人でしかない。文句はある、あるけれど。まだ半分以上残っている酒を一気に煽り、一つの疑問以外は全て飲み込んだ。
    「それ、月ぴ〜は知ってるの?」
    「……言ってないから、知らないんじゃない」
    「言うつもり、あるの?」
    「ない」
     くまくんしか知らないよ、きっぱりした口調で言うものだから面を喰らって言葉が詰まる。一般人とは違い、芸能界はプライベートにまで顔も知らない人間に首を突っ込まれる。どこで誰に聞かれているか、見られているか分からない。だからこそ、人によっては友人にも心情の変化は語らない。今の泉は、レオどころか本当に誰にも言うつもりはなかったのだろう。それがスキャンダルを避けているから、だけとは言い難いのだけれど。
    「あの子がどうかは知らないけど、俺は誰かに言うつもりは全くないよ。こうやってきっかけがあれば話は別だけど。親になんて言ったらさぁ、余計めんどうだしねぇ」
    「ふぅん、結婚とか考えるような子ではないんだ?」
    「……まだ、ね。俺もあの子も、今はそんなこと考える時間が惜しいから」
    「はーぁ。まぁいいけどね〜。俺はセッちゃんの友だちだからさ、セッちゃんが幸せなら俺も嬉しいし。……でも俺は、月ぴ〜の友だちでもあるから」
    「くまくんは面倒な友だちがいっぱいだねぇ」
    「え、なに。セッちゃんらしくない」
    「ちゃんと自覚してるの。あんたたちは今でも、俺たちのこと気にしてくれてるんだって」
     最初に関係が変わったのは、八年前のことだった。学院指定の制服に袖を通した最後の日。桜が蕾を膨らませ、ぽつぽつと花を咲かせていたのをよく覚えている。あの日は、珍しく泉もセンチメンタルな気分で、あの桜の木を自分のようだと思い込み卒業証書が入った筒を手に持ちぼんやりと眺めていた。あぁ、今日でこの狭苦しくて喧しくて、振り返っても苦い思い出ばかりの生活とおさらばかぁ。そんなことを思うのに、らしくもなく鼻の奥がツンと痛む。お別れするのなんて、慣れてしまったはずなのに。一度離した手をもう一度掴んだばかりだというのに、また離れてしまうことがこんなにも、怖い。将来のため夢のため、泉も夢があり、未来がある。そして、この三年間を捧げてやったあいつにも。分かっている。卒業は人生の休符だと。次の小節からもメロディーは続いていく。あいつは五線譜という道を、俺はランウェイを歩く。それぞれの道へ進むべく、この感情は、高校生だった瀬名泉は桜の木の下に埋めた。なのに、あいつは、月永レオはそれを掘り起こしてしまった。
     まだ卒業という余韻の残った学院で、レオは泉に愛を叫んだ。レオにとってその愛は友愛に近いものだっただろう。恥ずかしげもなく後輩たちの目の前で好きだ愛している、一生をかけてもおまえのことを好きでいたい、なんて。どこから見ても青春を切り取ったような光景に、充てられてしまった。死体を埋めた桜の下で、泉はレオを抱きしめた。好き、と。レオにしか聞こえない絞り出した声で。
     思えばあの告白をレオが受け入れていたなんて予想もしていなかった。何事もなく泉はフィレンツェへと出発し、レオの突然の訪問から数週間が過ぎた辺りで、自分たちは恋人同士だったことに気が付いた。だから卒業後の春に関係が変化したといったほうが正確なのだけれど。それまで泉は片思いだと思っていたから、お互いの間にあった歪な距離感に一悶着あったが同じ好き同士ならばどんな関係になるのかは明白だった。
    「けどね、あんたは怒るのかもしれないけど、俺はこれでよかったんじゃないかって思うの。事実、関係が拗れた訳でもないし。むしろ正解の距離に戻れたっていうか。だから、くまくんが思い悩むことじゃない」
    「……怒らないよ、当事者じゃないし。振り回され続けた身としては思うところはあるけどね。俺たちはまたヨリ戻すんだろうな〜って思ってたし。月ぴ〜、最初に別れたとき倒れたじゃん?」
     なんてことない別れだった。飽きもせず喧嘩ばかりの毎日だった日常にふと、嫌気がさしたのだ。元に戻るだけ、そんな風に考えて泉はレオに別れを告げた。レオもその空気を感じ取っていたのか、すんなりと首を縦に振ったため二人の約半年間の恋愛生活は、幕を閉じた。はずだった。
     まさか、こんなにも依存状態にあるなんて考えもしなかった。いつもフラフラとどこかへ行ってしまうような人間が、固執するなんて。レオに繋がる点滴の雫が落ちる瞬間を目にしながらそんなことを呟けば「でも、必ず泉ちゃんのところに帰ってきてたじゃない」と苛立ちを含んだ言い方で嵐が言い放つ。レオは嵐につい本音をこぼしたらしい。セナがいない生活は生きてる心地がしない、と。そんなはずないだろう、あんたはもっと、自由に生きていくべき人間だろう。求められて嬉しくないはずがない。けれど、真っ先に考えたのは、自分のせいでレオの視界が狭まってしまった後悔。たぶん、レオももう二度と、なんて過去と今を照らし合わせてしまっていたのだろう。また離れてしまったら、そんなことを考えて無意識に自分で自分を拘束し、泉に縛り付けた。天才を生かさねばならない。重くのしかかる責任感に一瞬背中が丸くなる。けれどもすぐに姿勢を正し、まだ目を覚まさないレオの血色の悪い肌を指でなぞる。覚悟なんて決まらない。それでも、泉はレオを、レオの音楽を守り抜く義務がある。愛だの恋だのの話ではなくて、これは、泉の騎士道だった。
    「それでモトサヤに戻ったと思ったら、今度は月ぴ〜から離れていこうとしてさぁ。あのときのセッちゃん、必死でちょっと面白かった」
    「あのねぇ、人の別れ話を笑い話にしないでくれる?」
    「……ねぇ、セッちゃん。セッちゃんも月ぴ〜も、これでよかったんだよね?」
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    mobdesuka

    MAIKING別れたいずレオの話
    夢ノ咲卒業後Knights解散成人設定
    これもいつか完成させたい〜……
    汝、天才を愛する覚悟はあるか 案外、こんなものなのか。薬指に嵌めていた指を弄りながら、泉はまるで他人事のように冷静に分析をする。目の前の、数秒前まで恋人だった旧友の涙を見ても罪悪感は湧かなかった。そんな資格はないと思ってしまったのだ。あまりにも冷めきっている思考に自分でも驚きながら、もう戻れないのだと確信する。
     指輪を抜いた左手が、とても軽く感じた。



     レンズ越しに見える自分は、誰よりも美しくありたい。カメラマンが無意識にシャッターを押したくなるような。慌ただしくスタジオを駆けるスタッフが立ち止まってしまうような。一秒たりとも目を離したくないと願ってしまうほどの人間でありたいと、泉はカメラの前に立つときに必ず願う。けれども現実はそう上手くはいかない。実際何度かカメラマンやスタッフが息を飲むほど美しいねと褒めることはあれど、慣れればもう日常に溶け込んでしまうのだった。それでもいいと思えるようになったのは、ここ数年の話。幼少期から培われた努力は、絶対に報われている。自分がそう確信しているのだし、文字で埋め尽くされているスケジュールアプリを見れば如実に現れているのだから、いちいち悔やむほうが勿体ない。事実、あまり気にしなくなってから余裕が出たのか、いい雰囲気だと褒められることもしばしば。瀬名泉と聞いて首を傾げる人間のほうが、今は流行りに乗り遅れていると笑われるのだろう。
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