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    でぃる

    @d_i_l_l_

    オペラオムニアの世界で過ごすアーロンさんを書きたい小説置き場です。アップした順に読むのが良いと思います。ジェクアー要素ありはワンクッション。

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    でぃる

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    (20220531)
    ブラスカ様から見た喫煙をするアーロンさん、をテーマに書きました。

    ダークラム「アーロンと二人でゆっくり飲めるのなんて、何年振りだろうねぇ」
    飛空艇の個室に備え付けられたテーブルを囲みながら、ブラスカはアーロンと小さくグラスを合わせた。
    飲もうと誘った際にブラスカの部屋を訪ねる、と言ったかつてのガードを説き伏せてアーロンの部屋に来たのは、気兼ねなく煙草を吸って欲しかったからである。
    調理場から貰ってきたたっぷりの氷とウィスキー、それから丁度イグニスが作ったという出来立てのチョコレートケーキをテーブルに乗せて二人はゆったりとくつろいだ時間を過ごしていた。
    いつも賑やかな子供たちも一緒ではない、さらに1番煩いジェクトは戦闘に出ておりしばらく戻らない予定だった。
    元の世界が同じもの同士で集まりやすいため、ブラスカ、ジェクト、アーロンの三人も例外ではなく普段から共に過ごすことが多い。
    それはもちろん同じ世界を共有し価値観や常識が一致している故の居心地の良さもあるだろうが、少なくともこの三人はかつて失った旅の続きとしてこの世界を大切にしているからだった。
    だからこそ、二人きりの時間はかなり珍しいと感じるのである。
    「ジェクトがいないだけでこんなにも静かだ」
    「まったく…あいつの騒がしさには困ったものだ。息子もいる手前、もう少し落ち着いてくれたらありがたいんだがな」
    「息子がいるからこそじゃないか?私も、ユウナと一緒に居られるのが嬉しくて、ついはしゃいでしまうよ」
    そう言いながらブラスカはグラスを傾けた。
    「もう二度と会えないと思っていたからね」
    ユウナに会うことなどあの日ベベルを旅立った時からブラスカは諦めていた。しかしこの安息の地に呼び出されることによって、美しく成長し、スピラでの自分を超えた娘に会うことが出来たのだった。
    「君はどうなんだい、アーロン?」
    一緒に旅をした3人の中で、唯一残された側である昔は若く青かったアーロンに、ブラスカは笑顔で問い掛けた。
    「…どう、と聞かれてもな。俺はずっとティーダの側にいたし、ユウナたちとも共に旅をした。ようやく解放された、と思ったはずなんだが」
    困ったように一つだけになってしまった瞳を細める姿は、口調や見た目こそ変わったにしろブラスカにとってはあの頃のアーロンのままだった。
    アーロンの鳶色の瞳は、相変わらず真っ直ぐで美しいとブラスカは思う。だがそこに自分の知らない10年間がどのように映ったのだろう。
    「残念だけど異界でゆっくり出来るのは、まだしばらくかかりそうだね」
    「…ああ、全くもってその通りだ」
    ひとしきり話すと訪れる静寂に、空調と氷とグラスが立てる音だけが響いた。
    ジェクトは普段どんな話をしただろうか、とブラスカは無意識に考えて、居なくても騒がしい男だと一人笑った。そこが彼の魅力だとも。
    あの旅の間、何度彼の明るさに救われただろうか。死へと向かうばかりの旅だったけれど、ジェクトのおかげで笑って最後まで進むとが出来たと思う。
    「ブラスカ」
    突然、アーロンが真っ直ぐにこちらを見て、少し不安そうにブラスカを呼んだ。
    「ん?どうしたんだ畏まって」
    その様子がかつて自分を守ることに命をかけていた礼儀正しい青年と全く変わらないので、ブラスカは思わず吹き出しそうになった。
    「すまないが、煙草を吸っても良いだろうか」
    「はは、なんだそんなことか。いつも気にしないじゃないか、もちろん構わないよ」
    更にかけられた言葉に堪えきれず笑い出せば、アーロンは居た堪れないのか照れたように笑いながら呟いた。
    「まだ昔の癖が抜けきらないらしい」
    懐から煙草のケースを取り出すと一本指に挟み、徐に火を付けた。かつての主に気を遣っているらしく、煙を斜め下に吐く。
    「そういえば、若い頃は吸ってなかったよね?いつから始めたんだい?」
    そもそもスピラで一般的なのは紙巻き煙草ではなく煙管である。
    「…ザナルカンドに渡って少ししたあたりだ。ティーダを引き取ったはいいが、親代わりなんて努められる自信がなかったときに、な」
    「今では煙草がすっかり板についてるじゃないか」
    「どうだろう…いや、確かにその通りだ。こんな世界まで来ても、やめられない」
    そう呟くアーロンの表情は、どこか切なかった。何か煙草がやめられない原因があるのかもしれない、ブラスカは漠然とそう思った。
    「…本当に、ジェクトが居ないと静かだ。私たちはいつも三人だったから、この静寂が少し寂しいよ」
    「最後のナギ平原を思い出す、か?」
    「ああ、その通りだ。あの時も、私たちは二人きりだった」
    天幕の中、二人で過ごした最後の夜を思い出す。文字通り、ブラスカにとってはそれが人生で最後の夜だった。
    「あの時ばかりはあいつの騒がしさが恋しかったな…」
    だが今はこうやって、思い出に浸りながらかつての友と飲み交わすことができる。最愛の娘とも一緒に旅ができる。
    「成長したユウナに会えたのは本当に嬉しい。だけどそれだけじゃなくて、私は君たちともう一度ここで旅が出来るのが本当に楽しいんだ」
    「俺もそう思っている。これで未練なく、異界に行けると良いんだがな」
    そう呟くとアーロンは目を閉じてたっぷりと煙を吸い込んだ。10年前自分を慕っていた青年からは想像もできない程に、やさぐれた表情と仕草にブラスカは自分にはもう流れない時間というものの存在を強く感じた。アーロンはそんな仕草を演じているのではなく、本当に同い年になってしまったのである。
    孤児だったアーロンを兄のように、時には父親のように見てきたつもりのブラスカにとって、それは少し寂しかったけれど、対等になった彼もまた魅力的だと思った。
    「…だが、たまにはこうやって静かに飲むのも悪くはあるまい」
    「確かに君の言う通りだ。というわけで、ジェクトには内緒でこれを飲もうじゃないか」
    そう言いながらブラスカが懐から取り出したのは、しっかりと封がされたかなり値の張りそうなボトルであった。ご丁寧にエボン経典文字まで刻まれている。
    「これはすごいなブラスカ。寺院の…しかも老師クラスじゃないと手に入らないものだろう?こんなもの、どうやって…」
    「ふふ、それは内緒だよ」
    「…聞かない方が、美味いかもしれんな」
    苦笑するアーロンをもろともせず、ブラスカがベベルの涼しい気候でじっくりと熟成されたラム酒を瓶を満足げに掲げたその時、扉をノックする音が響き渡った。
    「アーロン、いる?」
    そしてドアの外から遠慮深くかけられたのは、若い声であった。
    「ティーダか。どうした、こんな時間に?」
    アーロンが返事をすると、ゆっくりとドアが開く。脱色した金髪を跳ねさせながら、ティーダがさして広くもない部屋へと入ってきた。
    「あっ、ブラスカさんこんばんは」
    「やぁ、こんばんは」
    アーロンの教育が行き届いているティーダは挨拶を欠かさない。ブラスカはその辺りがとても好ましいと思っていた。
    「オヤジがアーロン出せってうるせーんだよ…やんなっちゃうよな、今日はセッツァーのところでダーツが忙しいっつーのに」
    「ジェクトが?あいつは今、戦闘に出てるんじゃなかったか?」
    「だから静かに過ごせるって思ったらさ、コレだよ!」
    ティーダの手に握られていたのは、眩い光を放つ、光の羅針盤だった。手のひらを開いた瞬間、何もない空間に映像が浮かび上がる。それはスフィアを再生した時によく似ていた。
    『よぉ、アーロン!俺様が居なくてもちゃんと元気かぁ!?おっ、ブラスカもいんじゃねぇか!』
    ガハハ、と下品な笑いを浮かべる男は、傷だらけの顔を真っ赤に染めている。
    「完全に酔ってるね」
    その様子を見て、ブラスカは苦笑した。
    『寂しいだろうと思ってよ、このジェクト様が電話をかけてやったんだぜ、ありがたく思えよ?』
    「いや、迷惑だ」
    アーロンはキッパリと断ったが、ジェクトにそんなものは通用しない。スフィアの撮影のように映像がぐるりと回ると、見知った仲間たちのこれまた赤い顔が映された。
    『今ガラフたちと飲んでんの、バル城の酒ってのがまた美味くてよ〜!今度一緒に飲もうな!』
    「全く聞いてねぇ…」
    ティーダが呆れたように呟いた。3人の目の前には、炎を囲みながらガラフやドルガンなどの仲間が星空の下、宴を催している映像が流れ続けている。
    『おお、こりゃ便利じゃな!わしも離れてても孫と話が出来る』
    ガラフが覗き込むようにしながら笑った。こちらもかなり酔っているようだ。
    『そうだぜ、クルルちゃんに後でかけてやれよ…って結構良い時間かァ?おいティーダ、なんで起きてやがるんだ!お子様はもう寝る時間じゃねぇか、憧れのお父様みたく身長が伸びなくなるぜ?』
    追い討ちをかけるような父親の言葉に、ティーダが映像に向かって激昂する。
    「うるせー!クソオヤジ!!今に追い抜いてやっから待ってろよな!」
    「…ティーダ、早く切ってくれ。うるさくて仕方がない」
    親子の喧嘩が始まると巻き込まれるのはいつもアーロンだった。二人の嘲笑やら怒声で痛む頭を抱えながら、煙草が絶えない彼をブラスカは何度も見てきた。
    プツンと音を立てて交信が終わるとようやく部屋の中に元の静寂が訪れる。
    「居るよね、酔っ払うとやたら電話かけてくるタイプ」
    小さなため息と共にブラスカがつぶやいた。
    「あれ?ブラスカさんも電話を?」
    「ほら、うちは妻がアルベドだから」
    なるほど、と相槌を打っているティーダに向かって、ブラスカがにっこりと笑いかける。
    「そうだ、ちょうど良い酒が手に入ってね…少し飲むかい?」
    コルクを抜くと甘く芳醇な香りが辺りに漂った。
    「いや、お酒はちょっと…」
    ティーダは困ったように眉を下げて、やんわりと拒否のために手のひらを見せる。しかし、ブラスカは一癖も二癖もある100年ぶりの大召喚士だった。
    「ふぅん?お義父さんからのお酒、飲めないんだ?」
    「い、いただきます!!」
    慌ててグラスを掴んだティーダに、アーロンが保護者の声で言った。
    「ブラスカ、そんなに虐めてやるな…」
    「あっはっは」
    養父と義父(予定)からこっそり秘蔵のラム酒とルシス王室御用達のチョコレートケーキをもらったティーダは、真っ赤になってそのまま養父の膝で眠りこけたのだった。
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