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    でぃる

    @d_i_l_l_

    オペラオムニアの世界で過ごすアーロンさんを書きたい小説置き場です。アップした順に読むのが良いと思います。ジェクアー要素ありはワンクッション。

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    でぃる

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    (2022/06/02)
    デバフのせいで禁煙をする事になったアーロンさんをテーマに、ティーダの視点で書きました。

    禁煙1今日の戦闘の途中、ティーダを庇ったあたりからアーロンの調子が少し悪そうだった。
    飛空艇に戻り、医務室とは名ばかりのモグの元へのやってきた二人は、スピラにはいない不思議な生物の診察を受けていた。
    「アーロンが吸い込んだのは毒の花粉だったクポ〜。解毒剤を使ったからもう安心していいクポ!」
    「そうか、助かった。ありがとう」
    先ほどアーロンに振りかけられた小さなポーションのような小瓶は解毒剤だったらしい。確かに顔色の良くなった養父にティーダはほっと胸を撫で下ろした。
    「少し安静にすればすぐによくなるクポ。あっ、肺がまだ本調子じゃないから煙草はしばらく控えるクポ!たまには肺を労らないとだめクポよ〜」
    「何…?」
    いきなり禁煙を言い渡されたアーロンの表情は正直見ものであった。一つだけの目を見開いて、信じられないと言う様子で目の前の白いぬいぐるみのような生き物を見つめていた。
    「だってさ、アーロン。これを機に禁煙したら?」
    ポンと赤い衣に覆われた肩に手をかけながらティーダがそう諭すと、アーロンはただ不機嫌そうにふん、と鼻を鳴らすばかりで返事をしない。
    「まぁあんだけ吸ってりゃ簡単にはやめらんねーか」
    ティーダの言葉にモグが語気を強めて言った。
    「最低でも、三日は吸っちゃだめクポ!」
    「…わかった」
    仕方なくアーロンが頷けは、モグは頭のポンポンを揺らして満足そうに笑った。
    「お大事にクポ〜!」
    見送ってくれるモグを背に、医務室を出て飛空艇居住区の長い廊下を養父と歩く。喋る時はよく喋るくせに、全く喋らない時は真っ直ぐ前を向いたまま本当に何も言わなくなるアーロンに、ティーダはもうとっくに慣れていた。
    もしその静寂が嫌だった場合、一方的に捲し立てれば良いのである。自分だけはアーロンにそれが許されることをよく知っていた。
    「なんだっけ、なんか食ったり咥えてる方が落ち着くんだっけ?ガムとかここあんの?」
    ザナルカンドで暮らしていた時の知識を総動員して口にする。
    「あーほら、アメなら砂糖煮詰めれば出来るよな、けっこー美味いやつ。オレあれ好き」
    ティーダはアーロンと二人で話していると、飛空艇内部の設備も相まってかつての暮らしに戻ったような気分になるのだった。
    「ってか、それアーロンが昔作ってくれたんじゃん!」
    「…そんなこともあったな」
    思い出話をしながら、アーロンの部屋の方になんとなく向かって歩く。口に出すのは恥ずかしかったが、ティーダは今回の負傷について自分を庇ったせいだと多少な負い目を感じていたのだ。要するに、心配していたのである。
    「アレさ、作ってる時はいいんだけど、砂糖溶かした鍋を片付ける時がやべーのなんのって…お、ビビ!」
    向こうから小さな黒い影がぴょこぴょこと歩いて来くる。二人の前に立つと、ペコリと礼儀正しく挨拶をして、見上げるようにしながら問いかけて来た。
    「こんにちは。おじちゃん、具合悪いって本当?」
    一緒に出撃していた仲間から聞いたのだろう。心配そうな声が響く。
    「いや、もう大丈夫だ」
    アーロンが努めて優しい声を出して答えるのが面白かった。どうやらこの男、自分の見た目が子供には恐ろしいことをちゃんと理解しているらしい。
    「そう!このオッサン、病み上がりだからこれから数日禁煙しなくちゃなんねぇの。アメとか食って頑張ろうなアーロン?」
    ニヤニヤと笑いかければ、さっきの優しい声色はどうしたのかと言うぐらいにぎろりと隻眼が睨みつけてきた。
    ティーダの言葉にコートのポケットを探りながらビビが言った。
    「アメ?ボクちょうど持ってるからあげる!早く良くなってね!」
    はい、と差し出されたのは可愛くリボンまでついた棒付きのキャンディであった。カラフルな色をした渦巻き状の平たいそれは、所謂ペロペロキャンディと呼ばれるものである。
    「あ、ああ、ありがとうビビ」
    思わず受け取ってしまったアーロンが固まっていると、とんがり帽子を揺らして身を翻した。
    「あっ、エーコが呼んでるんだった!じゃあね、お大事に!」
    あっという間に廊下の向こう側まで駆けていく。残された二人はポツンと、その背中を見送ることしか出来なかった。
    「…貰ってしまったな。今度何か礼をしよう…」
    「うん、これすっげー可愛いやつじゃん」
    グローブのついたアーロンの手に握られた虹色のキャンディをしみじみと見つめる。きっととっておきだったのだろう、それでも怪我をした仲間にあっさりと渡す姿が健気で可愛いと思った。
    そして、それを握っているサングラスをかけた仏頂面の男を見つめると、腹の底から笑いが込み上げてくる。
    「ぷぷ、オッサンには似合わね〜!」
    「うるさいぞ。俺は部屋に戻る」
    「ちゃんとアーロンが禁煙してるか見ててやるよ」
    「…好きにしろ」
    ティーダは終始ふざけた口調であったが、多分この付き合いの長い養父には己が心配していることが伝わったのだろう。ブーツの音を立てて歩き出したその背中を追いかけても、拒絶されることはない。
    長い廊下を進んで、たくさん並んだドアの一つがアーロンの部屋だ。ドアを開ければ、室内には煙草の煙の匂いが染み付いている。
    ベッドに座ったアーロンの前に立ち、ティーダは言った。
    「とりあえず、煙草出せよな」
    手を差し出せば、渋々といった体で懐から見慣れた煙草の箱と傷だらけの銀のオイルライターが出てきた。
    「んじゃこれは、オレが預かっときまーす!」
    わざとらしくそう告げれば、しっかりと舌打ちされた。その反応さえティーダにとっては面白くてたまらなかったが、かなり苛ついてそうだったのでコホンと一つ咳払いをして表情を戻す。
    「…本当はもう吸いたくて堪んねーんだろ?せっかく貰ったんだから、それ食べなよ」
    包装を解いてキャンディを渡してやれば、アーロンは素直にはむ、とそれを口に含んだ。
    口にはぎりぎり入り切らないサイズの平たいキャンディを食べている養父の姿はかなり珍しいものであったが、本人はビビにもらった手前、かなり真剣のようであった。
    「どう?気が紛れる?」
    「正直、かなり紛れるな…どうやって食ったらいいのか全く見当もつかん。噛んでいいのか、最後まで舐めた方がいいのか…しかし甘いな…」
    まじまじと食べかけのペロペロキャンディを眺めるアーロンを見ながら、ティーダは部屋に備え付けられた椅子へと座る。禁煙すると太る、と言う話をどこかで聞いたのを思い出していた。
    その時、突然ドアがバタンと開かれた。ノックなどももちろんなかった。
    そんな登場の仕方をするのはただ一人だけである。
    「お〜い、アーロン!ジェクト様がお見舞いに来てやったぜ」
    どこで調達したのか、籠に入った果物を持ってジェクトが現れた。
    我が物顔でフルーツの盛り合わせを小さな机の上に置くと、ジェクトは更に我が物顔でアーロンの隣に腰掛けた。
    そして改めてキャンディを咥えたアーロンを見つめ、しばらく間抜けな顔で目を見開いたのち、大袈裟なまでのジェスチャーを伴って笑い始めた。
    「ぶっは!なんだよそれ!!」
    「…見てわからんか?飴だ」
    「アーロンは今日から最低三日は禁煙なんだよ、な?」
    ジェクトはシーツを叩き、更に涙を浮かべて笑い続けている。
    「確かに口寂しさは紛らわせるかもしんねぇけど…ひー、アーロンにペロペロキャンディ!全然似合わねぇ!!」
    「だよなぁ!」
    こういう時だけは、父親と意気投合するティーダであった。
    「ビビに貰ったんだ。幼気な子どもの思いを無碍にはできんさ」
    そんな親子に呆れた様子のアーロンは、ただ無心で飴を舐めているようだった。
    「どっかにスフィア余ってねぇかな。こんなアーロンなかなか見れねーぞ!」
    「プロンプトからカメラ借りる?」
    「おう、それもいいな!」
    「…お前らな…、いい加減にしろ…」
    そろそろアーロンが本気で怒りそうな気配がしたので、ティーダは座り込んでいた椅子から立ち上がる。
    「んじゃ、アーロン禁煙頑張れよな!オレ、キッチン行って他にもなんかないか探してみるよ。まぁしばらくそれ食べ終わんないと思うけどさ」
    「すまんな、面倒をかける」
    「オヤジもアーロンに迷惑かけんなよ!」
    「馬鹿言うなよ、俺ァだーいじな親友の見舞いに来たっつってんだろ」
    「ほんとかよ?酒飲みにきたんじゃねぇの?」
    「今日は流石に飲ませねぇよ」
    ジェクトの声に振り返らず手だけを上げて、ティーダは部屋を出た。他に何が禁煙には有効なのか、仲間の誰に聞いたらいいだろう、と考えながら。
    その頃、ベッドに並んで腰掛けた中年が二人、天井を見つめて呟いた。
    「はーあ。あいつも素直じゃねぇなぁ…」
    「お前もな」
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